第18講 従業員対応の基本|解雇、賃金、離職票をどう進めるか
第18講 従業員対応の基本|解雇、賃金、離職票をどう進めるか

法人破産における従業員対応は、財産換価や債権調査と並ぶ重要論点であるが、その性質はやや異なる。ここでは単に法的順位や届出の問題にとどまらず、従業員の生活、感情、今後の就労、会社資料の引継ぎ、職場の秩序維持が一挙に絡み合う。とりわけ中小企業では、従業員が会社の経営破綻について十分な情報を与えられておらず、破産開始とほぼ同時に突然失職状態に置かれることも少なくない。そのため、管財人としては、「法的に何ができるか」だけでなく、「何をどの順序で伝えるか」を意識しなければならない。説明が遅れたり曖昧であったりすると、不安や不信が高まり、会社資料や資産の引継ぎにも悪影響を及ぼす。
実務上は、まず、今後就労を継続してもらう必要がある者と、速やかに退職手続に入る者を区別し、そのうえで、事業停止の有無、解雇又は退職扱いの整理、未払賃金の有無、離職票や資格喪失手続の見通し、会社保管物の返還方法等を具体的に示すことが重要となる。ここで問題になるのは、破産開始決定があれば当然に全従業員との関係が自動的に終了するわけではないという点である。事案によっては、資料整理、店舗閉鎖、在庫確認、顧客対応等のため、一定期間だけ雇用を継続する必要もある。他方で、事業継続の見込みがないのに漫然と就労を続けさせれば、新たな賃金債務や労務管理上の責任が生じる。したがって、従業員対応は、法的整理と現場運営の交点に位置する。
また、従業員にとって最大の関心事の一つは未払賃金であり、これに関連して未払賃金立替払制度の説明が重要になる。厚生労働省によれば、この制度は、企業倒産により賃金が支払われないまま退職した労働者に対し、未払賃金の一部を立替払するものであり、法律上の倒産の場合には破産管財人等による証明が必要である。したがって、管財人は、単に「制度があります」と案内するだけでは足りず、どの従業員が対象となりうるのか、必要書類は何か、どの時点で証明できるのかを把握しておく必要がある。制度の存在を早めに伝えることは、従業員の不安軽減にも資する一方、対象外部分や上限の存在を曖昧にすると、かえって期待と現実のずれを生みやすい。
さらに、従業員対応では、離職票、源泉徴収票、健康保険証や社員証等の返却、私物返還、社宅・寮の明渡し、貸与PCや携帯電話の回収など、細かな実務が連続する。これらは一見すると周辺事務に見えるが、実際には退職後の生活と直結するため、ここで不手際があると不満が増幅しやすい。とくに離職票関係は失業給付にも結び付くから、雇用保険関係の手続と一体で遅滞なく進める必要がある。従業員対応は、法人破産の中で最も「人に向き合う」場面であり、そこでの説明の質が、その後の手続運営全体の安定にもつながる。