第20講 高年齢者雇用と定年後再雇用|継続雇用で何が争点になるのか
第20講
高年齢者雇用と定年後再雇用|継続雇用で何が争点になるのか

高年齢者雇用の場面で使用者側がまず押さえるべきなのは、定年後再雇用は単なる「延長」ではなく、法令上の雇用確保措置と、個別の労働条件設計とが重なる領域だということです。高年齢者雇用安定法上、定年を定める場合は60歳以上でなければならず、さらに65歳未満の定年を定めている事業主は、①65歳までの定年引上げ、②定年制の廃止、③65歳までの継続雇用制度の導入、のいずれかを講じる必要があります。加えて、70歳までの就業確保措置は努力義務とされており、70歳までの定年引上げ、継続雇用制度、業務委託契約制度等の選択肢が用意されています。
もっとも、ここで誤解しやすいのは、65歳までの雇用確保措置があるからといって、会社が個別労働者に対して常に従前どおりの条件で雇用を続けなければならない、という意味ではないことです。厚生労働省のQ&Aでも、高年齢者雇用確保措置は制度として講ずべきものであって、個々の労働者について無条件に従前条件どおりの雇用義務を課すものではないと整理されています。ただし、継続雇用制度を採る以上、原則として希望者全員を対象とする必要があり、恣意的な排除は許されません。
使用者側実務で最初の争点になるのは、継続雇用制度をどう設計するかです。勤務延長なのか、再雇用なのか。自社で雇い続けるのか、特殊関係事業主で受けるのか。契約期間を1年更新にするのか、65歳までの期間設計をどうするのか。厚生労働省の概要資料は、65歳までの継続雇用制度として再雇用制度・勤務延長制度を認めており、70歳までの就業確保措置では他の事業主による継続雇用制度も選択肢に入ることを示しています。したがって、使用者側では、単に「再雇用します」で終わらせず、誰が雇用主になるのか、契約更新の前提はどうなるのか、規程上どう位置づけるのかを整えておく必要があります。
次に大きいのが、再雇用後の賃金・職務・処遇の設計です。ここは感覚で決めると危険です。定年後再雇用者について、役割や責任を見直して賃金体系を組み替えること自体はあり得ますが、その差異が合理的に説明できなければ、均衡・均等待遇の問題として争われます。厚生労働省の「不合理な待遇差に関する裁判所における判断」では、長澤運輸事件の最高裁判決が取り上げられており、定年後再雇用という事情は「その他の事情」として考慮される一方、各賃金項目ごとに性質・目的をみて不合理性が判断されることが整理されています。つまり、「再雇用だから一律に安くしてよい」わけではなく、基本給、賞与、各種手当、時間外手当の設計ごとに理由付けが必要です。
この点で使用者側が特に注意すべきなのは、職務内容と責任の再設計を先に固めることです。賃金だけ下げて、実際には定年前と同じ業務・同じ責任・同じ拘束を求めていると、不合理性を指摘されやすくなります。逆に、役割の軽重、責任範囲、管理監督、配置転換の有無、成果期待、勤務日数・時間などを見直し、その内容に対応する処遇設計をしていれば、説明可能性は高まります。厚生労働省の高年齢者雇用資料でも、継続雇用制度における処遇は、生活の安定や業務内容を考慮し、業務内容に応じた適切なものとなるよう努める必要があるとされています。
また、再雇用後は契約更新管理も重要です。65歳までの雇用確保措置を継続雇用制度で満たす場合、短期契約を繰り返すとしても、制度趣旨に反するような不安定運用は危険です。厚生労働省の70歳就業確保措置資料でも、継続雇用制度を採る場合には、70歳までは契約更新ができる措置を講じ、むやみに短い契約期間としないよう留意が示されています。65歳までの継続雇用でも同様に、形式的には1年更新でも、実質として制度趣旨に沿った運用が必要です。
さらに、定年後再雇用では人事評価・配置・更新拒絶の理由付けも争点になります。使用者側としては、「高齢だから」「扱いにくいから」といった印象論ではなく、業務上の必要性、勤務成績、健康状態、職場の受入体制など、客観的な判断要素を基礎に運用する必要があります。とくに更新拒絶や不再雇用に近い扱いをする場合には、制度趣旨との関係で慎重な整理が求められます。希望者全員を対象とする継続雇用制度を採っているのに、実質的に一部を排除するような運用は危ういです。
使用者側実務としては、少なくとも次の点を整えるべきです。第一に、就業規則・再雇用規程で、定年、継続雇用制度、対象年齢、契約期間、更新、退職事由を明確にすること。第二に、再雇用後の職務内容・責任範囲・勤務形態を整理し、それに対応する賃金体系を組むこと。第三に、各手当や賞与の有無・計算方法について、定年前社員との差異を項目ごとに説明できるようにすること。第四に、更新・配置・評価の判断経過を記録化すること。これができていれば、定年後再雇用は「なんとなく安く残ってもらう仕組み」ではなく、法令と実務に整合した制度になります。
要するに、高年齢者雇用の使用者側実務で問われるのは、雇用確保措置を形式的に置くことではなく、再雇用後の条件差をどこまで合理的に設計し、継続雇用制度として安定運用できるかです。制度だけ作って処遇設計が雑だと、賃金差・更新・配置の場面で紛争化しやすくなります。逆に、法の枠組み、制度趣旨、職務再設計、処遇理由付けが揃っている会社では、定年後再雇用は高齢者活用と事業運営を両立させる制度として機能します。