第24講  副業・兼業をどう扱うか|許可制、秘密保持、競業避止の設計

第24講
副業・兼業をどう扱うか|許可制、秘密保持、競業避止の設計

副業・兼業について使用者側がまず理解すべきなのは、もはや「原則禁止で押し切る」だけでは運用が安定しにくいということです。厚生労働省のガイドラインは、副業・兼業について、労働者の希望に応じて普及を促進する方向を示しつつ、使用者には安全配慮義務、労働時間管理、秘密保持、競業避止などの観点から必要なルール整備を求めています。つまり、副業・兼業は「認めるか否か」の単純な選択ではなく、どの範囲で、どの条件なら認めるかを制度として設計する問題です。 (mhlw.go.jp)

使用者側として最初に押さえるべきなのは、労働者は労働契約の時間外について当然に全面拘束されているわけではない、ということです。したがって、就業時間外の活動を一律に禁止するには限界があります。他方で、会社には自社の利益を守る必要もあるため、業務に支障が出る副業、秘密情報の漏えいにつながる副業、競業行為に当たる副業、会社の信用を害する副業などについては、一定の制限を設ける必要があります。厚生労働省ガイドラインも、使用者は原則として副業・兼業を認める方向で考えるべきとしつつ、労務提供上の支障、企業秘密の漏えい、競業による自社利益侵害、自社の信用・名誉の毀損などの事情がある場合には、例外的に禁止又は制限があり得ると整理しています。 (mhlw.go.jp)

このため、実務上は全面禁止規定よりも、申告・許可制をベースに設計する方が安定しやすいです。就業規則上、「副業・兼業を行う場合は事前に会社へ届け出て許可を受けること」と定めたうえで、許可しない場合の基準を具体化しておく方が、後で説明しやすいです。厚生労働省のモデル就業規則でも、労務提供上の支障、企業秘密漏えいのおそれ、会社の信用や名誉を損なうおそれ、競業により企業利益を害するおそれがある場合には、副業・兼業を禁止又は制限できる趣旨の規定例が示されています。つまり、ルールの肝は「許可制」そのものよりも、「不許可事由をどこまで具体的に定めるか」にあります。 (mhlw.go.jp)

まず問題になるのは、労務提供上の支障です。副業そのものよりも、本業に疲労が持ち込まれ、遅刻、欠勤、集中力低下、長時間労働につながることが会社としての直接リスクになります。厚生労働省ガイドラインは、労働時間通算の基本的考え方や健康確保措置の重要性を示しています。とくに雇用型の副業・兼業が重なる場合、労働時間通算の問題が発生し、割増賃金や上限規制の検討も必要になります。使用者側としては、「副業しても自己責任」で済ませず、申告時に勤務先、勤務形態、勤務時間、深夜労働の有無などを確認し、本業への影響を見極める必要があります。 (mhlw.go.jp)

次に重要なのが、秘密保持と情報管理です。副業・兼業の相手方が同業・類似業である場合はもちろん、そうでなくても、自社の顧客情報、価格情報、技術情報、ノウハウが外部活動を通じて流出する危険があります。使用者側としては、就業規則の副業規定だけでなく、秘密保持規定、情報持出し規定、貸与端末利用規程とも連動させる必要があります。単に「秘密は漏らすな」と書くだけでは足りず、何が秘密情報に当たり、どの行為が禁止され、どの媒体持出しが許されないのかを明確にしておくことが重要です。副業許可時にも、秘密保持義務を個別確認しておくと実務上有効です。 (mhlw.go.jp)

さらに争点になりやすいのが、競業避止です。ここで会社側がやりがちなのは、「うちと少しでも関係がある仕事は全部だめ」と広く考えてしまうことです。しかし、競業制限は無制限に認められるものではなく、自社の正当な利益を守るのに必要な範囲でなければなりません。したがって、競業性の判断では、業種の重なり、顧客層の競合、地域性、職務内容、労働者がアクセスできる情報の質などを具体的にみる必要があります。同じ業界というだけで常に競業とはいえませんし、逆にまったく別業界でも自社顧客への直接営業につながるなら問題になります。使用者側としては、抽象的な「競業禁止」ではなく、どのような活動が競業に当たるかをできる限り具体化しておくべきです。 (mhlw.go.jp)

また、副業・兼業は会社の信用・名誉との関係でも問題になります。違法行為、反社会的活動、風評リスクの高い活動、SNS上で会社と結び付けて過激な発信をする行為などは、本業に影響し得ます。ただし、ここも単なる会社の好みや価値観だけで広く制限するのではなく、客観的に信用毀損や業務支障の危険があるかを基準にすべきです。会社としては、許可判断や懲戒対応の場面で、何が会社の信用毀損に当たるかを規程上ある程度示しておく方が安全です。 (mhlw.go.jp)

副業・兼業実務で見落としやすいのは、無許可副業が判明した場合の対応フローです。いきなり重い懲戒に向かうのではなく、まず無許可であった事実、内容、競業性、秘密情報接触の有無、本業への支障の有無を確認し、申告義務違反としての注意・指導から始めるのが通常です。就業規則に副業許可制を置くなら、無許可副業が服務規律違反となること、ただしその処分は行為の性質・影響に応じて段階的に行うことを整理しておくべきです。副業そのものではなく、「申告義務違反」「労務提供支障」「秘密保持違反」「競業性」など、どの問題として処理するかを切り分ける必要があります。 (mhlw.go.jp)

使用者側の制度設計としては、少なくとも、①副業・兼業の定義、②事前申告・許可手続、③不許可事由、④申告事項の範囲、⑤許可後の報告義務、⑥秘密保持・競業避止との連動、⑦健康管理・労働時間通算への対応、⑧違反時の措置、を就業規則又は副業規程に明記するのが安全です。これらがないまま、「相談してくれれば考える」とだけ運用している会社では、判断基準が属人的になり、許可・不許可の公平性も崩れやすいです。厚生労働省ガイドラインが副業・兼業に関するルール整備を重視するのはこのためです。 (mhlw.go.jp)

要するに、副業・兼業の使用者側実務で重要なのは、禁止することではなく、申告・許可・秘密保持・競業避止・健康管理を一体で設計することです。全面禁止は一見わかりやすくても、実態として潜在化した副業を呼び込みやすく、後で情報漏えいや長時間労働の問題が表面化したときに会社が統制できません。逆に、基準が明確な許可制を整えておけば、会社は自社利益を守りつつ、副業・兼業を可視化し、管理可能なものにできます。使用者側労働法務としては、「認めるか否か」ではなく、「認めるなら何を守らせるか」「認めないなら何を根拠にするか」を明確にすべきです。 (mhlw.go.jp)

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