第28講  整理解雇の実務|人員削減が必要なとき何を備えるべきか

第28講
整理解雇の実務|人員削減が必要なとき何を備えるべきか

整理解雇で使用者側がまず押さえるべきなのは、これは労働者側の非違や能力不足による解雇ではなく、会社側の経営事情を理由とする解雇だという点です。そのため、普通解雇以上に、会社がなぜ人員削減に踏み込むのか、解雇を避けるために何をしたのか、誰を対象にしたのか、どのような手続で進めたのかが問われます。厚生労働省系の資料でも、整理解雇は一般に、①人員削減の必要性、②解雇回避努力、③人選の合理性、④手続の相当性という四つの要素で判断されてきたと整理されています。

もっとも、この「四要素」はチェックボックスのように形式的に埋めればよいものではありません。実務では、会社が「業績が悪いから仕方ない」と考えていても、それだけで整理解雇が有効になるわけではありません。厚生労働省の労働法基礎講座でも、解雇一般について労働契約法16条の客観的合理性と社会通念上の相当性が必要であることが確認されており、整理解雇もその枠内で、経営上の理由に即した厳格な判断がされます。したがって、整理解雇は「経営が苦しい」という抽象論ではなく、会社が人員削減の必要性をどこまで具体化できるかが出発点になります。

第一の要素である人員削減の必要性について、使用者側が用意すべきなのは、売上減少、受注減、赤字継続、資金繰り悪化、部門閉鎖、事業縮小、工場閉鎖、組織再編などの具体的事情です。ここで重要なのは、単に「利益が落ちた」ではなく、なぜ人件費削減が必要で、なぜ配置転換や自然減では足りず、なぜ整理解雇に踏み込まざるを得ないのかを説明できることです。厚生労働省関係資料でも、整理解雇は会社の責任に属する経営上の理由による解雇であるからこそ、必要性の具体的裏付けが重要だと整理されています。

第二に極めて重要なのが、解雇回避努力です。ここで使用者側が最も踏み外しやすいのは、リストラ方針を先に固めてから、形だけ希望退職や配転検討を付けることです。しかし、四要素型の判断枠組みでは、会社が整理解雇に至る前に、役員報酬削減、新規採用停止、残業抑制、一時帰休、配置転換、出向、希望退職募集、非正規雇用の見直しなど、どこまで回避措置を尽くしたかが強く見られます。厚生労働省の検討資料でも、限定性がある場合でも特に影響が大きいのは解雇回避努力の要素だと指摘されています。

この点で、使用者側実務では「何をしなかったか」が後で強く効きます。たとえば、他部署に余力があるのに配転を検討していない、グループ会社への出向可能性を見ていない、役員や管理職の負担見直しがない、希望退職制度を導入していない、といった事情があると、解雇回避努力は薄く見えます。逆に、これらの措置が結果として奏功しなかったとしても、会社が具体的に検討し、実行し、なお不足だったという経過が残っていれば、整理解雇の相当性は支えやすくなります。

第三の要素は、人選の合理性です。ここで使用者側が陥りやすいのは、「残したい人を残す」「辞めてもらいやすい人を選ぶ」という感覚的人選です。しかし、整理解雇は経営上の必要性から人員削減を行うものですから、対象者の選定基準も、勤続年数、勤務成績、職務内容、資格、配置可能性、家計事情など、少なくとも社内的に説明可能な基準を持つ必要があります。特定の人物だけを狙い撃ちしたように見える運用は危険であり、とりわけ過去にトラブルのあった者、組合活動歴のある者、育児休業取得者などが対象に偏ると、別の違法問題と結びつきやすくなります。厚生労働省関係資料でも、人選の合理性は四要素の一角として挙げられています。

第四の要素は、手続の相当性です。整理解雇は、結果だけでなく、その前の説明・協議・情報提供のあり方が重要です。労働組合がある場合はもちろん、ない場合でも、対象部門や従業員に対して経営状況、人員削減の必要性、回避措置、対象選定基準などをどこまで説明したかが問題になります。厚生労働省系資料は、交渉や説明の過程を整理解雇法理の一要素として位置付けています。したがって、通知一枚で突然解雇するようなやり方は非常に危ういです。

この手続面では、退職勧奨や希望退職との関係整理も重要です。整理解雇の前に希望退職や退職勧奨を行うこと自体はあり得ますが、それが退職強要に近づけば別問題になります。したがって、整理解雇を避けるための任意の退職募集を行うなら、募集条件、募集期間、優遇措置、応募の自由、応募しないことによる不利益がないことを明確にして進める必要があります。整理解雇の回避努力として希望退職を位置付けることはあり得ても、希望退職に応じない者だけを圧迫するような運用は危険です。これは前講の退職勧奨実務とも連続します。

また、使用者側としては、就業規則上の整理解雇事由も点検しておくべきです。厚生労働省関係のモデル就業規則資料には、「事業の運営上又は天災事変その他これに準ずるやむを得ない事由により、事業の縮小又は部門の閉鎖等を行う必要が生じ、かつ他の職務への転換が困難なとき」といった解雇事由例が示されています。もちろん、規則に書いてあるだけで有効になるわけではありませんが、整理解雇を進める以上、少なくとも規程との整合性は確保しておく必要があります。

整理解雇実務で実際に効くのは、証拠の束です。経営会議資料、収支資料、金融機関対応資料、部門廃止の意思決定資料、回避措置の検討記録、配転可能性の検討メモ、希望退職募集資料、説明会資料、人選基準表、対象者一覧、面談記録などを時系列で揃えておく必要があります。整理解雇は、最後の解雇通知より前の準備でほぼ決まります。会社が「必要だった」と感じているだけでは足りず、その必要性と相当性を示す経営・人事の記録が必要です。これは厚生労働省が四要素型判断枠組みを紹介している趣旨そのものです。

要するに、整理解雇の使用者側実務で問われるのは、人員削減が必要だったかだけではなく、そこに至るまで何を尽くし、どう選び、どう説明したかです。必要性、回避努力、人選、手続の四本を積めない整理解雇は脆い。逆に、この四本を具体的資料で支えられる会社では、経営上やむを得ない局面での説明可能性が高まります。使用者側労働法務としては、「解雇するしかない」から考えるのではなく、「整理解雇を争われたとき四要素で語り切れるか」を基準に準備すべきです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA