第19講 ハラスメント防止と両立支援 ――育休・介護休業取得を妨げる言動への対応

第19講 ハラスメント防止と両立支援

――育休・介護休業取得を妨げる言動への対応

育児・介護休業法への対応では、休業制度や休暇制度を整えるだけでは不十分です。実際の職場で、育児休業や介護休業、短時間勤務、子の看護等休暇、介護休暇などを利用しにくい雰囲気がある場合、制度は機能しません。特に問題となるのが、育児・介護に関する制度利用を理由とするハラスメントです。

育児休業や介護休業は、労働者に認められた法律上の制度です。それにもかかわらず、上司や同僚が「この忙しい時期に休むのか」「周りに迷惑がかかる」「男なのに育休を取るのか」「介護なら退職した方がよいのではないか」などと発言すれば、制度利用を妨げる言動として問題になり得ます。発言した本人に悪気がなかったとしても、労働者が制度利用をためらう原因となれば、会社として放置できない問題です。

ハラスメントは、明確な暴言や嫌がらせだけに限られません。育児休業の取得を申し出た労働者に対し、重要な情報を共有しない、会議から外す、復職後に仕事を与えない、短時間勤務を利用する労働者に対して「どうせ早く帰るから」と決めつける、介護休暇を取得する従業員に対して不満を示すといった対応も、職場環境を悪化させる行為となり得ます。制度利用者を孤立させるような職場運営は、企業にとって大きなリスクです。

会社には、育児・介護休業等に関するハラスメントを防止するため、雇用管理上必要な措置を講じることが求められます。具体的には、会社として制度利用を妨げる言動を許さない方針を明確にすること、相談窓口を設けること、相談があった場合に適切に対応すること、管理職や従業員に対して研修・周知を行うことなどが重要です。就業規則やハラスメント防止規程に、育児・介護に関する制度利用への嫌がらせを禁止する旨を明記しておくことも有効です。

特に重要なのは、管理職への教育です。育児や介護に関する相談は、まず直属上司に届くことが多くあります。その初期対応で、上司が制度を理解せず、「今は困る」「代わりを探してから申請してほしい」「休むなら評価に影響するかもしれない」などと述べれば、それだけで大きな問題になり得ます。管理職には、制度の基本、申出を受けた場合の対応フロー、人事部門への連携、不利益取扱いの禁止、プライバシー配慮を周知しておく必要があります。

一方で、制度利用者の周囲に負担が集中しないようにすることも、ハラスメント防止の重要な要素です。育児休業や介護休業、短時間勤務、休暇取得によって業務の穴が生じる場合、それを周囲の従業員に無計画に上乗せすると、不満が制度利用者本人に向かいやすくなります。その結果、「あの人のせいで忙しい」「子どもがいる人だけ優遇される」「介護を理由に仕事を押しつけられている」といった空気が生まれることがあります。

このような不満は、制度利用者個人に向けさせるべきではありません。業務配分、代替要員、残業管理、評価、職場全体の人員体制を調整する責任は会社にあります。会社としては、制度利用者を守るだけでなく、周囲の従業員にも過度な負担がかからないよう、業務の棚卸し、担当変更、優先順位の整理、必要に応じた人員補充を検討する必要があります。

また、プライバシーへの配慮も欠かせません。育児や介護に関する事情は、家庭生活や家族の健康状態に関わる情報です。本人の同意なく、妊娠、出産、育児休業取得予定、介護状況などを職場に広く共有することは避けるべきです。業務上必要な範囲で情報共有する場合にも、どこまで伝えるかを本人と確認し、必要最小限にとどめることが望ましいです。

ハラスメント相談があった場合には、会社は速やかに事実確認を行う必要があります。相談者、相手方、関係者から事情を聴き、発言内容、時期、場所、前後の経緯、制度利用との関係を確認します。その際、相談者に対する不利益取扱いや報復を防止することも重要です。相談したことを理由に評価を下げる、配置を変える、職場で孤立させるといった対応は、二次被害につながります。

事実確認の結果、問題となる言動が認められた場合には、行為者への注意指導、配置上の配慮、再発防止研修、必要に応じた懲戒処分などを検討します。軽微に見える発言であっても、制度利用を妨げる効果を持つ場合には、会社として明確に是正する姿勢を示すことが重要です。逆に、相談を受けたにもかかわらず曖昧に処理すると、会社がハラスメントを放置したと評価されるおそれがあります。

育児・介護に関するハラスメント防止は、単なるコンプライアンス対応ではありません。制度を安心して利用できる職場を作ることは、従業員の離職防止、採用力の向上、職場の信頼関係の維持にもつながります。特に、育児や介護は、誰にでも起こり得る生活上の事情です。現在は制度を利用していない従業員も、将来、利用する側になる可能性があります。

企業としては、育児介護休業規程、ハラスメント防止規程、相談窓口、管理職研修、職場周知資料、相談対応フローを整備し、制度利用を妨げる言動を許さない職場環境を作ることが重要です。制度を設けるだけでなく、実際に利用できる雰囲気を作ることが、育児・介護休業法対応の最終的な実効性を左右します。

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