第6講 売掛金が払われないとき最初にやること|督促の順番と証拠化

第6講 売掛金が払われないとき最初にやること|督促の順番と証拠化

売掛金が期限どおりに入ってこないとき、現場ではつい「すぐ強く請求しなければ」と考えがちです。もっとも、中小企業法務の実務では、最初にやるべきことは、感情を強く乗せた督促ではなく、請求権の中身と証拠の整理です。日本政策金融公庫も、売掛金回収の準備として、まず売掛金の有無や金額を証明する証拠関係の有無を確認し、あわせて相手方に関する情報を収集・整理することを挙げています。支払期限が定まっている金銭債務であれば、期限が到来した時から債務者は遅滞の責任を負いますから、「まだ待つべき段階なのか」「もう法的には未払として扱えるのか」を最初に見極める必要があります。

ここでいう整理とは、単に請求書を見直すことではありません。誰が契約当事者か、いくらの債権か、支払期日はいつか、何をいつ納品・提供したか、相手からどこまで受領や検収の反応が出ているかを、時系列で並べ直す作業です。契約書がなくても、注文書、発注メール、見積書、納品書、検収書、請求書、入金履歴、督促メールなどの積み重ねで回収可能なことは少なくありませんが、後で動くほど、記憶より記録がものを言います。特に仮差押えのような保全手続でも、裁判所は主張事実ごとに対応する証拠の提出を求めていますから、最初の段階から証拠を一つの束として作っておく意味は大きいです。

そのうえで、督促には順番があります。最初は、担当者レベルで事実確認をし、いつ払うのか、払えない理由は何か、請求額や品質に争いがあるのかを明らかにすることです。この段階で大事なのは、電話だけで終わらせず、メール等で回答を残すことです。「今月末に払います」「資金繰りが厳しいので分割にしてほしい」といった返答は、その後の交渉でも訴訟でも意味を持ちます。逆に、早い段階で相手の言い分を拾わずに強い請求だけを重ねると、数量、品質、納期、検収をめぐる争いが後から噴き出し、回収の見通しをかえって悪くすることがあります。

任意の督促で動かない場合には、次に書面での正式な請求に進みます。内容証明郵便がよく使われるのは、法的効果を魔法のように高めるからではなく、「いつ、いくらを、どの根拠で請求したのか」を外形的に残しやすいからです。そして、ここで重要なのは、催告には時効との関係で限界があることです。民法150条は、催告があったとき、その時から6か月の間は時効が完成しないと定める一方、その間の再度の催告には同じ効力がないとしています。つまり、内容証明を何通も出していれば安全というわけではなく、必要ならその6か月の間に訴訟や支払督促など次の手続へ進む判断が必要です。あわせて、債権は、原則として、権利を行使できることを知った時から5年、または権利を行使できる時から10年で時効消滅しますから、長く付き合いのある取引先ほど「そのうち払うだろう」で寝かせすぎないことが重要です。

未払が発生すると、「遅れているだけなのか」「危ないのか」を見分ける視点も必要です。支払遅延が単発で、担当者が具体的な支払予定を示しているなら、任意交渉でまとまることもあります。これに対し、支払約束が曖昧になる、代表者と連絡がつきにくい、他社への支払も止まり始めている、資産処分の気配がある、といった場面では、督促より先に財産保全を考える必要が出てきます。裁判所は、仮差押えを、金銭債権について将来の強制執行が不可能又は著しく困難になるおそれがある場合に、債務者の財産を仮に差し押さえる手続と説明しています。勝訴までの間に相手方の財産が動いてしまえば、後で判決を取っても回収できないからです。

法的手段に進む場合、選択肢としてよく問題になるのが支払督促と通常訴訟です。支払督促は、金銭等の給付請求について、書類審査で進み、手数料も訴訟の半額です。他方で、債務者が支払督促正本を受け取ってから2週間以内に異議を出せば通常訴訟に移行します。したがって、相手が争ってこない見込みが高い事案では有力ですが、最初から品質や相殺などの争いが予想されるなら、通常訴訟を見据えて証拠を固めておく方が実務的なこともあります。支払督促で仮執行宣言まで進めば、その正本に基づいて強制執行を申し立てることができますし、民法414条も、債務者が任意に履行しないときは強制履行を請求できることを予定しています。

なお、売掛金は金銭債務ですから、支払期を過ぎれば、遅延損害金の問題も出てきます。民法419条は、金銭債務の不履行について、その損害賠償額は、遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によって定まり、約定利率が法定利率を超えるときは約定利率によるとし、債権者は損害の証明を要しないとしています。したがって、元本だけを追うのか、遅延損害金まで含めて請求するのかも、初動段階で整理しておくべきです。もっとも、相手方との今後の取引継続を重視する場合には、あえて元本中心で交渉に入る方がよい場面もあり、ここは法的正しさと取引戦略を分けて考える必要があります。

結局のところ、売掛金が払われないときに最初にやるべきことは、督促の強さを上げることではなく、回収の土台を作ることです。請求権の内容、証拠、相手の資力、時効、争点の有無を整理し、そのうえで、任意督促、正式催告、保全、支払督促、訴訟のどこに進むかを決める。この順番を間違えなければ、単なる「催促」ではなく、回収可能性を意識した動きになります。中小企業法務では、この初動の差が、回収率の差になりやすいのです。

まとめ

売掛金が未払になったとき、最初にやるべきことは、請求書を再送することそれ自体ではなく、債権の内容と証拠の整理です。支払期限が来ていれば法的には遅滞の責任が生じ得ますし、金銭債務なので遅延損害金の問題も出ます。もっとも、いきなり法的手段に進むのではなく、まずは相手の認識や支払意思、争点の有無を記録化しながら確認し、それでも動かないなら正式催告へ進む、という順番が基本です。催告は時効完成を6か月猶予しますが万能ではなく、必要ならその先の手続を見据える必要があります。さらに、資産散逸のおそれがあるなら仮差押え、争いが小さいなら支払督促、争いが濃いなら訴訟、という見極めが重要です。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA