第8講 連帯保証をどう取るか|社長個人保証の実務と注意点
第8講 連帯保証をどう取るか|社長個人保証の実務と注意点

中小企業同士の取引や融資の場面では、「会社だけでは不安なので、社長にも保証に入ってほしい」という話がよく出ます。もっとも、ここで安易に「では連帯保証で」と進めてしまうと、後で有効性や範囲、説明不足が問題になることがあります。保証は、主たる債務者が履行しないときに保証人が履行責任を負う制度であり、しかも保証債務には利息、違約金、損害賠償など主たる債務に従たるものも広く含まれます。さらに、保証契約は書面でなければ効力を生じず、電磁的記録による場合は書面とみなされます。つまり、社長個人保証は「一応取っておく」では済まず、どの債務を、どこまで、どの方式で保証させるのかをはっきりさせる必要がある、というのが出発点です。
まず押さえたいのは、普通の保証と連帯保証は同じではないという点です。通常の保証では、債権者がいきなり保証人に請求した場合でも、保証人は「まず主たる債務者に請求してほしい」と求めることができ、さらに、主たる債務者に資力があり執行が容易であることを証明すれば、「まず主たる債務者の財産に執行してほしい」と主張できます。ところが、連帯保証では、保証人はこれらの権利を失います。したがって、債権者側から見れば、回収実効性を上げたいなら“保証”ではなく“連帯保証”まで取る意味がある一方、保証人側から見れば負担はかなり重くなります。
この違いは、実務では非常に大きいです。単なる保証であれば、主たる債務者にまだ資力があるのに、最初から保証人だけを追うことには一定の制約があります。しかし連帯保証になると、債権者は主たる債務者と保証人のどちらに先に請求するかをかなり自由に選びやすくなります。したがって、契約書に「保証人」とだけ書くのか、「連帯保証人」と明記するのかは、文言の違いに見えて、回収局面では別物です。
また、保証を取る側が見落としやすいのは、保証の範囲は思ったより広くなり得るということです。民法447条は、保証債務に主たる債務の利息、違約金、損害賠償その他従たるものが含まれると定めています。他方で、保証人の負担が主たる債務より重い場合は主たる債務の限度に減縮され、主たる債務の内容が後で加重されても、原則として保証人の負担はそのままでは加重されません。要するに、保証の射程は広いが、無制限にあとから膨らませられるわけでもないので、契約時点で元本、利息、遅延損害金、期限の利益喪失、将来債務の有無をきちんと書く必要があります。
さらに、保証人が複数いる場合も注意が必要です。民法456条は、数人の保証人がある場合に427条を適用するとしており、427条は、別段の意思表示がない限り各債務者は等しい割合で義務を負うとしています。したがって、複数人から保証を取ったから当然に各人が全額責任を負う、とは限りません。各保証人に全額の回収可能性を持たせたいなら、共同保証人の内部関係や連帯保証の取り方まで意識した条項設計が必要です。
社長個人保証で特に重要なのは、根保証の扱いです。継続取引や与信枠取引では、「今後生じる一切の債務を保証する」という形を取りたくなることがありますが、保証人が個人である根保証では、極度額を定めなければ契約は効力を生じません。しかも、貸金等を含む個人根保証では、元本確定期日に関する規律も置かれています。したがって、将来債務をまとめて押さえたいなら、“何でも無制限”ではなく、少なくとも上限額を明記する必要がある、というのが現在の民法の建て付けです。
一方で、事業資金の借入れに関する社長個人保証には、さらに特則があります。事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証や、それを含む根保証は、原則として、契約締結前に、締結日前1か月以内に作成された公正証書で、保証人になろうとする者が保証意思を表示していなければ効力を生じません。これは、個人が安易に事業性融資の保証人にされることを防ぐための強い要件です。
もっとも、この公正証書要件には大きな例外があります。主たる債務者が法人である場合、その理事、取締役、執行役等や、議決権の過半数を持つ者などについては、465条の6以下の規定は適用されません。つまり、会社の代表者本人や実質的支配株主が自社の借入れを保証する典型場面では、公正証書がなくても直ちに無効になるわけではない、ということです。社長個人保証が実務でなお多く使われているのは、この例外の存在が大きいといえます。
ただし、だからといって「社長なら何も説明しなくてよい」わけではありません。民法465条の10は、事業のための債務を保証させる委託をするとき、主たる債務者は、委託を受ける者に対して、財産・収支の状況、主たる債務以外の債務の有無と額・履行状況、他に提供している担保の有無と内容に関する情報を提供しなければならないとしています。そして、これらについて不提供や虚偽提供があり、それによって保証人が誤認し、しかも債権者がその事情を知り又は知ることができたときは、保証人は保証契約を取り消すことができます。したがって、取る側としては、少なくとも説明経過と資料交付の痕跡を残しておくべきです。
保証契約を結んだ後の情報提供にもルールがあります。主たる債務者の委託を受けた保証人が請求した場合、債権者は、遅滞なく、元本や利息等の不履行の有無、残額、うち期限到来分の額に関する情報を提供しなければなりません。また、主たる債務者が期限の利益を喪失したときは、債権者は、そのことを知った時から2か月以内に保証人へ通知しなければならず、通知を怠ると、その間に生じた一定の遅延損害金については保証人に請求できなくなります。したがって、保証を取って終わりではなく、回収局面でも通知・情報提供の運用が重要です。
融資実務では、社長個人保証を「当然のもの」と考えない流れも強まっています。中小企業庁は、「経営者保証に関するガイドライン」を、中小企業・経営者・金融機関共通の自主的なルールであり、法的拘束力はないが、自発的に尊重・遵守されることが期待されるものだと説明しています。その上で、法人と経営者の資産・経理の明確な分離、法人のみの資産や収益力で返済可能な財務基盤、金融機関への適時適切な情報開示という3要件の全部または一部を満たせば、経営者保証なしの融資や既存保証の見直しの可能性があるとしています。つまり、少なくとも金融機関取引では、“社長保証は常に必須”とは言い切れない時代です。
実務的にいえば、社長個人保証を取るべきかどうかは、相手が法人であるという一点だけでは決まりません。会社と社長の財布が混ざっている、会社資産が薄い、決算や情報開示が不十分、継続的与信をかける、という場面では、連帯保証を取りたい動機は強くなります。逆に、法人と経営者が明確に分離され、財務内容も安定し、情報開示も十分な会社に対しては、保証を取るとしても上限や期間を絞る、あるいは保証自体を見直す、という発想も十分合理的です。これは法文そのものではなく、民法上の保証規律と経営者保証ガイドラインの方向性から導かれる実務上の整理です。
結局のところ、社長個人保証を取る場面で大事なのは、とりあえず連帯保証の一文を入れることではなく、どの債務を、いくらまで、どんな関係で、誰に保証させるのかを設計することです。普通保証で足りるのか、連帯保証まで必要か。単発債務なのか、根保証にするのか。個人保証に極度額が必要か。事業性融資で公正証書要件やその例外がどうなるか。説明資料を残しているか。ここを曖昧にすると、いざというときの回収可能性と有効性の両方に傷がつきます。中小企業法務では、社長個人保証は強い道具ですが、雑に取るほど危ない道具でもある、という理解が重要です。
まとめ
保証契約は書面または電磁的記録でなければ効力を生じず、保証債務の範囲には利息、違約金、損害賠償なども含まれます。普通保証では催告の抗弁・検索の抗弁がありますが、連帯保証ではそれらが失われるため、回収実効性は大きく変わります。個人根保証では極度額が必須であり、事業性融資の個人保証には原則として公正証書要件がありますが、会社の取締役や過半数株主などには例外があります。さらに、事業債務保証の委託時には情報提供義務があり、契約後も一定の情報提供・通知義務が続きます。金融機関取引では、経営者保証ガイドラインにより、保証に依存しない融資や既存保証の見直しも方向性として示されています。したがって、社長個人保証は“取るか・取らないか”だけでなく、“どう取るか”が勝負です。