第11講 問題社員対応の基本|注意指導・証拠化・手順の整え方

第11講 問題社員対応の基本|注意指導・証拠化・手順の整え方

中小企業の現場では、「勤務態度が悪い」「指示に従わない」「遅刻欠勤が多い」「周囲と摩擦を起こす」「顧客対応に不安がある」といった場面で、「問題社員をどう扱えばよいか」という相談がよくあります。もっとも、法律上、「問題社員」という決まった概念があるわけではありません。実際に問われるのは、どのような事実があり、それが就業規則や労働契約上どう評価され、会社がどの手順で対応したかです。労働契約法は、懲戒について「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」を欠けば無効とし、解雇についても同じ枠組みで無効としています。つまり、会社側としては、感覚ではなく、事実・規程・手順で対応を組み立てる必要があります。

まず出発点として大事なのは、いきなり解雇を考えないことです。解雇は、労働者に与える影響が大きいため、労働契約法16条により、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当でない場合は無効になります。厚生労働省も、解雇の有効性について同じ整理を示し、やむを得ず解雇を行う場合でも、原則として30日前の予告または30日分以上の平均賃金の支払いが必要だと案内しています。したがって、勤務成績や勤務態度に問題があるからといって、すぐに「辞めてもらう」方向へ飛ぶのは危ないというのが基本です。

では、最初に何をすべきか。
第一は、問題の類型を切り分けることです。能力不足の問題なのか、勤務態度の問題なのか、業務命令違反なのか、ハラスメントや情報持ち出しのような規律違反なのか、あるいは心身の不調が背景にあるのかで、対応は変わります。ここを雑にまとめて「問題社員」と処理すると、必要な指導も、必要な配慮も、必要な証拠もずれてしまいます。特に労働契約法5条は、使用者に安全配慮義務を課しており、その「生命、身体等の安全」には心身の健康も含まれると厚生労働省は解説しています。したがって、健康上の問題が疑われる場面まで、単純に懲戒一色で処理するのは危険です。

第二は、就業規則と雇用条件を確認することです。常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則を作成し、労働基準監督署長に届け出る必要があります。また、表彰・制裁を定めるなら、その種類や程度を就業規則に記載しなければなりません。厚生労働省のモデル就業規則も、就業規則に定めのない事由による懲戒処分はできないと明記しています。つまり、会社が後から「うちではそういうルールだと思っていた」と言っても足りず、処分の根拠になるルールが、事前に整備され、周知されているかが重要です。

第三は、注意指導の記録を残すことです。労働契約法4条2項について、厚生労働省は、労働契約の内容をできる限り書面で確認することが重要であり、就業環境や労働条件が大きく変わる場面では、話し合った上で書面交付することなどが考えられると解説しています。これは、処分の場面でも示唆的です。口頭注意だけを繰り返しても、後で「そんな指導は受けていない」「何を改善すべきか分からなかった」と争われやすいからです。実務では、遅刻、無断欠勤、業務命令違反、顧客クレーム、報告懈怠などについて、いつ、何があり、誰が、どのように指導し、本人がどう反応したかを、短くてもよいので残していくことが非常に重要です。

ここで大事なのは、記録を「悪事のファイル」にしないことです。
実務で効く記録は、単なる悪口や印象メモではなく、具体的事実と会社の対応経過が分かる記録です。例えば、「4月3日 9時15分出社。始業は9時。本人は電車遅延ではなく寝坊と説明」「4月10日、顧客Aへの返信漏れ。上長が当日指導し、翌週までに対応フロー提出を求めた」「5月1日、再度同種事故。本人は確認不足を認めた」などです。後で問われるのは、会社が感情的に嫌っていたかどうかではなく、問題の内容、頻度、改善機会の付与、なお改善しなかった経過です。これは労働契約法15条・16条の「合理性」「相当性」を裏づける材料になります。

第四は、改善の機会を与えることです。もちろん、横領、重大な秘密漏えい、暴力行為など、事案によっては強い処分が先に問題になることもあります。しかし、多くの「問題社員」案件は、遅刻、報連相不足、指示違反、協調性欠如、能力不足など、段階的な指導となじむ類型です。厚生労働省のモデル就業規則も、懲戒処分は規律違反の程度に応じ、過去の同種事例における処分内容等を考慮して公正に行う必要があるとしています。したがって、いきなり重い処分に飛ぶより、口頭注意、書面注意、始末書、配置見直し、一定期間の重点指導といった段階を踏む方が、安全で、かつ実際にも改善可能性を見極めやすいといえます。

第五は、本人の言い分を聞くことです。一般的な法律条文として、すべての懲戒に一律の「弁明手続」が明文化されているわけではありません。ただ、懲戒や解雇の有効性が後で争われる場面では、会社がどの事実を前提にし、本人にどう確認し、どんな説明機会を与えたかは重く見られやすいポイントです。これは労働契約法15条・16条の合理性、相当性を考えると自然な帰結です。実務上は、注意指導の各段階で、本人の説明を記録に残す運用がかなり有効です。
これは明文の一般義務をそのまま言っているのではなく、無効リスクを下げるための実務上の推奨です。

第六は、同じ行為をどう扱ってきたかの整合性を見ることです。モデル就業規則は、同種事例における処分内容等を考慮して公正な処分を行う必要があるとしています。ある社員だけを重く扱い、同じような遅刻や命令違反をしていた他の社員は放置していた、という状況では、公正さや相当性が疑われやすくなります。また、モデル就業規則は、就業規則に懲戒規定を設ける前の行為にさかのぼって懲戒することや、1回の懲戒事由に対し複数回の懲戒処分を行うことはできないとしています。つまり、会社の側でも「処分のやり過ぎ」や「後出し」を避ける必要があるわけです。

そして最後に、解雇は最後のカードとして扱うことです。問題行動の内容が重大で、指導しても改善せず、配置や業務内容の見直しでも対応困難で、就業規則上の根拠もあり、記録も整っている。そこまで積み上がって初めて、普通解雇や懲戒解雇の検討が現実味を帯びます。しかも懲戒解雇であれば、懲戒としての有効性に加えて、解雇としての有効性も問題になるため、実務上はより慎重さが求められます。厚生労働省の労働契約関係資料でも、懲戒解雇には労働契約法15条と16条の両方の規制がかかると整理されています。

結局のところ、問題社員対応の基本は、
①類型を見極める
②就業規則と根拠を確認する
③注意指導を記録化する
④改善機会を与える
⑤本人の言い分を聞く
⑥処分の重さを段階的に選ぶ
という流れに尽きます。

会社にとって大事なのは、「辞めさせる技術」ではありません。後で争われても説明できる対応を積み上げることです。中小企業では、日常の指導が口頭と空気で済まされがちですが、そこを少しだけ書面化・記録化するだけで、紛争リスクはかなり変わってきます。

まとめ

問題社員対応では、「問題がある」という抽象評価ではなく、具体的事実、就業規則上の根拠、注意指導の経過、改善機会の有無が重要です。懲戒は労働契約法15条により、解雇は同16条により、それぞれ客観的合理性と社会通念上の相当性を欠けば無効になります。

常時10人以上の事業場では就業規則の作成・届出が必要であり、制裁を定めるなら種類・程度を就業規則に記載する必要があります。モデル就業規則も、就業規則に定めのない事由による懲戒はできず、公正な処分が必要だと示しています。

また、労働契約法4条2項・5条の観点からは、内容の書面確認や安全配慮も重要です。したがって、実務上は、いきなり解雇に進むのではなく、注意指導・証拠化・手順整備を先に積み上げることが王道です。

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