第15講 保険契約の調査|解約返戻金・保険金請求権を見落とさないために
第15講 保険契約の調査|解約返戻金・保険金請求権を見落とさないために

法人破産の財産調査では、預貯金、売掛金、在庫、機械設備といった「目に見える財産」に注意が向きやすいが、実務上見落とされやすいものの一つが保険契約である。法人名義で加入されている保険には、生命保険、養老保険、逓増定期保険、傷害保険、火災保険、自動車保険、賠償責任保険、積立型保険等、さまざまな類型があり、その中には解約返戻金を有するものや、一定事故の発生により既に保険金請求権が生じているものがある。しかも、会社側が日常的に保険内容を正確に把握していないことも多く、会計上は単に保険料支払として処理され、契約の中身が埋もれていることが珍しくない。
そのため、管財人としては、保険証券の有無だけを見るのでは足りず、保険会社名、保険代理店、契約者、被保険者、受取人、保険期間、保険種類、解約返戻金の有無、質権設定の有無等を個別に確認する必要がある。とくに中小企業では、代表者や役員を被保険者としつつ契約者・受取人を法人としている生命保険が存在することがあり、これらは解約返戻金の財産価値を持つことがある。また、金融機関融資に関連して保険金請求権に質権が設定されている場合には、解約や受領の可否も一筋縄ではいかず、担保関係の確認が必要となる。
さらに重要なのは、保険契約は「返戻金があるか」だけではなく、「事故が起きていたのに請求されていない権利」が潜在している可能性がある点である。たとえば、火災、漏水、盗難、車両事故、施設内事故、従業員災害、機械故障等が破産前後に発生していたにもかかわらず、混乱の中で保険会社への通知や請求が未了となっていることがある。この場合、契約自体を把握していても、事故歴を確認しなければ請求権の存在に気づけない。したがって、保険調査は、証券を集める作業にとどまらず、直前の事故報告、修繕履歴、苦情対応記録、メールのやり取り、総務担当者や代表者からの聴取を通じて、「請求し得る事実」がないかを洗う必要がある。
保険契約の調査は、財産発見という意味で地味に見えるが、事案によっては相当額の解約返戻金や保険金が回収につながることがあり、破産財団の規模を左右することもある。他方で、契約関係が複雑で、名義や受取人の構成によっては直ちに財団帰属が明確でない場合もあるため、軽視も即断も危険である。法人破産における保険調査は、「毎月保険料を払っていた」という事実の背後に、どのような財産的意味が潜んでいるかを掘り起こす作業である。