第25講 知的財産・ノウハウ・営業秘密は換価できるのか

第25講 知的財産・ノウハウ・営業秘密は換価できるのか

知的財産やノウハウは、法人破産においてしばしば「何か価値がありそうだ」と言われる一方、実際には最も評価と換価が難しい財産の一つである。商標権、特許権等については、権利移転の登録手続が制度として整備されており、特許庁も権利を第三者へ渡す場合の移転登録申請を案内している。したがって、少なくとも登録型知財については、法的には譲渡可能な権利として換価対象になりうる。もっとも、譲渡可能であることと、市場で値が付くこととは別問題であり、登録があるから直ちに高値換価できるわけではない。実務上は、権利の残存期間、使用実績、侵害紛争の有無、ライセンス収益の有無、当該事業の継続可能性といった事情を総合して、換価可能性を見極める必要がある。

著作権についても譲渡それ自体は可能であり、文化庁は登録制度に関するFAQで、著作権登録は権利発生や移転の効力を生じさせるものではなく、著作権法で定められた一定の事実を登録する制度であると説明している。また、文化庁の契約マニュアルでも、著作権が譲渡されると譲受人が著作権を有する旨が示されている。つまり、ソフトウェア、文章、画像、設計図、マニュアル等の著作物も、契約関係と権利帰属が整理できれば換価の対象たりうる。ただし、法人が「使っていた」著作物が、実際には従業員個人や外注先に権利帰属していることもあり、また著作者人格権との関係、共有著作物の問題、ソースコードや原データの引渡可能性も絡むため、単純な棚卸しでは足りない。

さらに難しいのが、ノウハウ、顧客情報、技術情報、レシピ、営業資料など、登録されていない無体情報の扱いである。経済産業省は、不正競争防止法上の営業秘密として保護されるには、秘密として管理されていることが必要であると説明している。これは裏返せば、秘密管理が崩れている情報は、法的保護の前提自体が弱くなりうるということであり、破産時の換価可能性にも直結する。ノウハウや顧客情報は、会社内部では重要資産と認識されていても、秘密管理、アクセス制限、持出管理、契約上の帰属整理ができていなければ、第三者に安全に譲渡できる商品として評価しにくい。加えて、個人情報保護や守秘義務の問題もあるため、「情報だから売れる」と短絡するのは危険である。

そのため、知的財産・ノウハウの換価において重要なのは、抽象的に価値を語ることではなく、①誰に権利が帰属しているか、②譲渡又は利用許諾が法的に可能か、③資料・データが現実に引き渡せる状態か、④秘密管理や個人情報処理の障害がないか、⑤買い手候補が具体的に存在するか、を順に詰めることである。商標や登録知財のように形式的な権利移転手続が見えやすいものもあれば、営業秘密のように「守られていたこと」自体が価値の前提となるものもある。第25講では、知財を夢のある換価資産として描きすぎず、権利帰属と利用可能性の整理こそが換価の前提である、という現実的な視点を軸に据えるのがよい。

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