障害者雇用促進法と合理的配慮――「雇用率」だけでは足りない

「障害者雇用」というと、法定雇用率だけを思い浮かべる方が少なくありません。もちろん雇用率は重要ですが、実務で本当に問題になりやすいのは、募集・採用、配置、業務指示、休憩、通院配慮、評価、契約更新など、日々の雇用管理の場面です。障害者雇用促進法は、雇用率制度だけでなく、雇用分野における差別の禁止と、合理的配慮の提供義務を事業主に課しています。

この点は、いわゆる障害者差別解消法と混同されがちです。たしかに、民間事業者による合理的配慮の提供は障害者差別解消法でも2024年4月1日から義務化されましたが、雇用の場面については、以前から障害者雇用促進法が特別に規律しており、厚生労働省は、雇用分野における合理的配慮は平成28年4月から法的義務であると明確にしています。つまり、採用面接や職場配置の場面では、「顧客対応としての配慮」ではなく、「雇用法上の義務」として捉える必要があります。

また、2026年3月15日現在、民間企業の法定雇用率は2.5%で、常用労働者40.0人以上の事業主に雇用義務があります。さらに、厚生労働省の案内では、令和8年7月1日から民間企業の法定雇用率は2.7%へ引き上げられ、対象事業主の範囲も37.5人以上に広がるとされています。今後は「うちは対象外だと思っていた」という中小企業でも、急に対応を迫られる場面が増えます。

では、合理的配慮とは何でしょうか。厚生労働省Q&Aは、障害者と障害者でない者との均等な機会や待遇の確保、また障害者の能力の有効な発揮を妨げている事情を改善するための必要な措置だと説明しています。要するに、「特別扱い」ではなく、「その人が働けるように職場上の支障を取り除くこと」です。たとえば、視覚障害に対して募集内容を音声で提供する、聴覚障害に対して筆談やメールで業務指示を行う、肢体不自由に対して机の高さや通路を調整する、知的障害や発達障害に対して図やマニュアルで手順を明確化する、精神障害に対して静かな休憩場所や業務量調整を行うといった対応が、指針の事例として示されています。

実務上さらに重要なのは、合理的配慮は「黙って待つだけ」で済む制度ではないということです。募集・採用時には、応募者から支障となっている事情と必要な措置の申出を受け、事業主が話合いを行い、講ずる措置とその理由を説明する流れが示されています。採用後は、事業主側から職場で支障となっている事情の有無を確認し、話合いを経て措置を決め、理由を説明することが想定されています。つまり、合理的配慮は、一方的に決めるものでも、一方的に拒むものでもなく、「対話を通じて具体化する義務」なのです。

もっとも、事業主は何でも無制限に応じなければならないわけではありません。合理的配慮は「過重な負担」に当たる場合には除かれます。ただし、この「過重な負担」は便利な断り文句ではなく、事業活動への影響、実現困難度、費用・負担の程度、企業規模、企業の財務状況、公的支援の有無といった要素を総合考慮して個別に判断すべきものです。しかも、希望された措置そのものが過重な負担に当たるとしても、そこで検討を打ち切ってよいわけではなく、事業主は話合いを行ったうえで、過重でない範囲の代替措置を検討しなければなりません。

そのため、企業としては、単に採用数を合わせるより前に、社内の受入れ体制を整えておくことが大切です。合理的配慮に関する相談窓口をあらかじめ定めて周知すること、相談者のプライバシーを保護すること、相談したことを理由に解雇その他の不利益取扱いをしないことを明確化することは、指針上も求められています。就業規則、社内周知文、面接時のヒアリング方法、現場管理職への研修まで含めて設計しておかないと、善意で始めた対応が、かえって差別や配慮不足の争いに発展することがあります。

紛争になった場合も、軽く見てはいけません。障害者雇用促進法には直ちに罰金などの罰則が置かれているわけではありませんが、厚生労働大臣による助言・指導・勧告、都道府県労働局長による紛争解決援助、紛争調整委員会の調停、そして最終的には訴訟という流れが予定されています。したがって、「罰則がないから後回しでよい」という発想は危険で、むしろ早い段階で制度設計と記録化を行う方が、企業にとっても労働者にとっても紛争予防になります。

障害者雇用促進法における合理的配慮は、思いやりのスローガンではなく、雇用現場に具体的な対応を求める法的ルールです。採用面接で何を尋ねてよいか、どこまで配慮すべきか、どの措置が過重な負担に当たるか、配置転換や契約更新の判断に差別が紛れ込んでいないか。こうした点は、企業の人事労務にとっても、働く側にとっても、早めに法律の観点から整理する意味があります。制度対応に迷った段階で相談しておくことが、結果として一番コストの低い対応になることも少なくありません。

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