第45講 副業・兼業は禁止できるのか|会社のルールと私生活の自由

第45講 副業・兼業は禁止できるのか|会社のルールと私生活の自由

副業・兼業について、いまの実務でまず押さえるべきなのは、会社が当然に全面禁止できる時代ではないということです。厚生労働省は、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」で、副業・兼業を希望する労働者の適切な職業選択や多様なキャリア形成を促進する方向を明確にしており、モデル就業規則も、労働者は勤務時間外に他の会社等の業務に従事することができる、という規定に改められています。つまり、第45講の出発点は、「副業は原則禁止」ではなく、原則として私的時間の利用は労働者の自由であり、例外的に制限が許されるという順序です。

この点について厚生労働省のガイドラインは、裁判例上、労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは基本的に自由である一方、例外的に副業・兼業を禁止又は制限できる場合として、①労務提供上の支障がある場合、②業務上の秘密が漏洩する場合、③競業により自社の利益が害される場合、④自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合、の四つを挙げています。したがって、法的な問いは「副業禁止規定があるか」ではなく、その副業がこの四類型のどれに当たるのか、どこまで具体的危険があるのかです。

このため、会社が副業禁止規定を置いていても、そのことだけで直ちに全面的な禁止が正当化されるわけではありません。むしろ、現在のモデル就業規則は、事前の届出を前提としつつ、上の四つの場合に限って禁止又は制限できるという書き方を採っています。ここから見ても、実務の基本線は、一律全面禁止より、届出と個別審査による制限にあります。だから、「副業は禁止と就業規則に書いてあるから絶対だ」という会社側の説明は、それだけではかなり粗いです。

もっとも、副業・兼業が常に自由というわけでもありません。最も通りやすい制限理由は、やはり本業への支障です。厚生労働省のモデル就業規則解説でも、副業・兼業開始後に労働者の健康状態に問題が認められた場合には適切な措置を講ずること、労働時間管理については労基法38条1項の考え方に基づき通算が問題になることが示されています。つまり、深夜の副業で睡眠が削られ、本業に遅刻や集中力低下が出ている、長時間労働で健康確保に支障がある、といった場面では、会社による制限がかなり正当化されやすくなります。

とくに注意が必要なのが、雇用先同士の掛け持ちです。厚生労働省のQ&Aは、本業先でも副業先でも雇用される場合には、労働基準法上の労働時間規制の適用に関して労働時間の通算が問題になることを説明しています。モデル就業規則の解説も、労基法38条1項に基づく通算の考え方を明示しています。したがって、副業がアルバイトや別会社での雇用である場合には、会社が健康管理や時間管理を気にするのは単なるお節介ではなく、法的にもそれなりの根拠があります。

次に強い制限理由になるのが、企業秘密の漏えい競業です。厚生労働省のガイドラインは、秘密保持や競業避止に関する労働者の誠実義務を前提に、業務上の秘密が漏洩する場合や、競業により自社の利益が害される場合には、副業・兼業を禁止又は制限できるとしています。したがって、同業他社での兼業、顧客情報や技術情報を持ったままの横滑り的副業、本業の取引先を横取りしかねない個人営業などは、かなり危険です。逆に、休日に全く別分野で働く、あるいは本業と競合しない小規模な副収入活動なら、ここでの制限根拠は弱くなります。

さらに、会社の名誉・信用や信頼関係を壊すかも重要です。ガイドラインは、自社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合も制限根拠になるとしています。つまり、副業そのものではなく、その内容ややり方が問題になることがあります。たとえば、本業先の立場を利用した不適切な営業、会社名を勝手に使う行為、違法・反社会的な副業、SNS上で本業先と結び付けて信用を害するような活動などは、この類型に乗りやすいです。ここでも大事なのは、「副業だからダメ」ではなく、どんな副業を、どう行っているかです。

その一方で、会社が副業を嫌っているというだけでは足りません。厚生労働省のガイドラインが前提にしているのは、原則容認・例外制限という構造ですから、会社が副業を禁止するなら、労務提供上の支障、秘密漏えい、競業、信用毀損のどれかに具体的に結び付けて説明できることが必要になります。したがって、単に「本業に専念してほしい」「前例がない」「管理が面倒だ」といった理由だけでは、実務的には弱いです。副業禁止規定が有効かどうかは、規定の文言より、制限の必要性と具体性で決まるとみた方が正確です。

労働者側の実務としては、副業を始める前に少なくとも四つを確認すべきです。第一に、就業規則や誓約書に届出義務や制限事由がどう書かれているか。第二に、副業先が本業と競合していないか。第三に、長時間労働や睡眠不足で本業に支障が出ないか。第四に、会社の情報や信用を傷つける形になっていないか、です。もし副業を理由に懲戒や禁止を言われたら、会社に対し、四類型のどれに当たるのか、どんな具体的支障があるのかを明示させることが重要です。厚生労働省の現在の制度設計自体が、そうした具体的検討を前提にしているからです。

要するに、第45講で押さえるべきことはこうです。副業・兼業は原則として労働者の私的時間の自由に属し、会社は例外的にしか禁止・制限できない。もっとも、労務提供への支障、健康悪化、秘密漏えい、競業、信用毀損があれば制限は正当化され得る。 だから、副業禁止の問題は「規則に書いてあるから終わり」でも「私生活だから何でも自由」でもなく、会社の正当な利益と労働者の自由のどちらが、具体的にどこまで危ういかを比べる問題です。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA