第46講 SNS・私生活上の言動で処分されるのか|職場外の行為と懲戒
第46講 SNS・私生活上の言動で処分されるのか|職場外の行為と懲戒

労働者の私生活や勤務時間外の言動は、基本的には会社が自由に支配できる領域ではありません。もっとも、それで何をしてもよいということにはならず、会社の秩序、信用、業務運営、秘密保持、信頼関係に具体的な悪影響が及ぶときは、職場外の行為でも懲戒や解雇の問題になり得ます。法的な出発点は労働契約法15条で、懲戒は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当でないときは無効とされ、さらに解雇まで行くなら16条の解雇権濫用法理も別途かかります。
したがって、第46講で最初に押さえるべきなのは、私生活上の行為だから絶対に処分できないわけでも、会社が気に入らない私生活を広く取り締まれるわけでもないということです。厚生労働省の2025年版モデル就業規則は、懲戒事由として、私生活上の非違行為や会社に対する正当な理由のない誹謗中傷等であって、会社の名誉信用を損ない、業務に重大な悪影響を及ぼす行為を挙げています。また、厚労省の参考資料でも、事業場外の行為であっても、著しく事業場の名誉や信用を失墜させるもの、取引関係に悪影響を与えるもの、又は労使間の信頼関係を喪失させるものと認められる場合には問題となり得ると整理されています。つまり、私生活上の言動が問題になるのは、会社との関係で具体的な悪影響が立つ場合です。
このことは、SNS投稿を考えると分かりやすいです。SNSは単なる私的な独り言の場ではなく、不特定多数に拡散し得る媒体なので、会社や上司、取引先、顧客に関する投稿、業務上知り得た情報の投稿、内部情報の暴露、誹謗中傷、差別的・暴力的投稿などは、内容次第で会社の信用や業務に直接響きます。厚労省モデル就業規則は、正当な理由のない誹謗中傷で会社の名誉信用を損ない業務に重大な悪影響を及ぼす行為や、業務上重要な秘密の外部漏洩を懲戒事由の例として挙げていますから、SNSは単にその“手段”の一つにすぎず、投稿媒体がSNSだから問題になるのではなく、投稿内容が名誉信用毀損や秘密漏えいに当たるから問題になるのです。これはモデル就業規則からの実務的な帰結です。
もっとも、SNSで会社や仕事について触れたからといって、直ちに懲戒が通るわけではありません。懲戒には労契法15条の合理性・相当性が必要であり、厚労省資料でも、就業規則に書いてあれば自由に懲戒できるものではなく、行為の程度や事情に照らして公正な処分でなければ無効になり得ると説明されています。したがって、軽率な一言と、継続的で悪質な信用毀損投稿、秘密情報の流出、取引先との関係悪化を招く投稿とでは、法的評価は全く違います。結局は、何を書いたか、どこまで公開されたか、会社や業務にどんな影響が出たかで決まります。
同じことは、私生活上の非違行為にも当てはまります。飲酒運転、暴力、痴漢、賭博、重大な迷惑行為など、職場外での問題行動であっても、それが会社の信用を大きく傷つける、取引関係に響く、職場秩序に波及する、雇用関係上の信頼を壊すといった場合には、懲戒の土俵に乗り得ます。厚労省参考資料は、事業場外の行為でも、名誉信用失墜、取引関係への悪影響、労使間の信頼関係喪失が認められる場合を問題視しており、モデル就業規則も私生活上の非違行為を、会社の名誉信用と業務への重大影響がある限りで懲戒事由例に入れています。つまり、私生活上の非違行為が処分対象になるかは、道徳的にけしからんかどうかではなく、会社との関係でどれだけ具体的な損傷が生じるかで見ます。
他方で、会社が嫌う私生活一般まで懲戒できるわけではありません。たとえば、勤務外の交友関係、思想、表現、趣味嗜好、私的発信などが、会社の信用や業務に具体的悪影響を与えていないなら、それだけで懲戒に直結させるのは難しいです。ここは条文に明示的な「私生活自由」の規定があるわけではありませんが、労契法15条の合理性・相当性審査と、厚労省資料が問題となる私生活上の非違行為を「会社の名誉信用を損ない、業務に重大な悪影響を及ぼすもの」へ絞っていることから、逆にいえば、そこまで行かない私生活領域への介入は制限的に見るべきだと理解するのが実務に近いです。これは法令と行政資料に基づく推論です。
ここで実務上かなり大事なのが、就業規則上の根拠です。厚生労働省は、就業規則に定めのない事由による懲戒処分はできないと説明しています。したがって、会社がSNS投稿や私生活上の非違行為を問題にするなら、まず就業規則や服務規律、情報管理規程、SNSガイドライン、秘密保持義務規定などのどれに違反すると言っているのかを明らかにしなければなりません。後から抽象的に「社会人として不適切だ」と言うだけでは弱いのです。
さらに、処分の重さも別問題です。仮に問題行為があっても、直ちに懲戒解雇が許されるわけではありません。厚労省のモデル就業規則解説も、規律違反の程度に応じ、過去の同種事例や均衡を考慮して公正な処分を行う必要があるとしていますし、労契法15条は相当性を要求しています。ですから、軽率な一回の投稿に対していきなり最重処分を選ぶ、あるいは私生活上の非違行為と会社への影響のつながりが弱いのに重い処分を科す、といった場合は、懲戒権濫用がかなり問題になります。処分が解雇なら、16条の相当性も上乗せで問われます。
労働者側の実務としては、SNSや私生活上の言動を理由に処分を受けたら、少なくとも五つを見るべきです。第一に、会社はどの就業規則条項違反だと言っているのか。第二に、問題とされる投稿や行為の具体的内容は何か。第三に、それがどこまで公開され、誰に届き、どんな反応や業務影響があったのか。第四に、秘密漏えい、誹謗中傷、信用毀損、競業、取引関係悪化などの具体的危険が本当にあるのか。第五に、処分の重さが過去事例や行為態様に比べて重すぎないか、です。SNSや私生活の事件は、感情的には炎上しやすいのですが、法的には会社にどんな具体的不利益が生じたかを冷静に詰めることが重要です。
要するに、第46講で押さえるべきことはこうです。職場外の行為でも、会社の名誉信用、秘密保持、業務運営、取引関係、雇用上の信頼関係に具体的悪影響が及ぶなら、懲戒や解雇の問題になり得る。とくにSNSは、その影響が可視化・拡散しやすい媒体なので争点化しやすい。だが、私生活一般を会社が広く統制できるわけではなく、就業規則上の根拠、具体的影響、処分の相当性がそろわなければ処分は危うい。 つまり、この分野の核心は「職場外だから無関係か」ではなく、その言動が会社との関係でどこまで法的に意味のある悪影響を持つかです。