第44講 妊娠・出産を理由に不利益扱いされたら|配置転換・雇止め・退職圧力

第44講 妊娠・出産を理由に不利益扱いされたら|配置転換・雇止め・退職圧力

妊娠や出産の場面では、会社が「体を気づかっているだけです」「現場が回らないので仕方ありません」と言いながら、実際には不利益な扱いをしていることがあります。ここで最初に押さえるべきなのは、妊娠・出産に伴う配慮としての措置と、妊娠・出産を理由とする不利益取扱いは全く別だということです。男女雇用機会均等法9条は、妊娠したこと、出産したこと、産前産後休業、母性健康管理措置の申出や利用などを理由とする解雇その他不利益取扱いを禁止しており、厚生労働省も、妊娠・出産等を理由にした解雇、雇止め、降格、減給、不利益な配置転換、退職強要などは法違反になり得ると案内しています。

まず重要なのが、会社には本来、妊娠中の労働者を守る方向の義務があるという点です。労働基準法65条3項は、妊娠中の女性が請求した場合、使用者は他の軽易な業務に転換させなければならないと定めていますし、母性健康管理の仕組みとして、医師等の指導があれば、会社は勤務時間の変更、勤務の軽減、作業制限、休業などの措置を講じなければなりません。厚生労働省の2026年1月版資料でも、妊娠中や出産後の女性労働者について、勤務時間の変更や勤務の軽減等の措置が必要であり、症状等に応じて作業制限、勤務時間短縮、休業などを取るべきだとされています。つまり、妊娠をきっかけに業務内容や勤務条件が変わること自体はあり得ますが、それは本来、不利益を与えるためではなく、健康を守るための変更でなければなりません。

このため、配置転換は最も誤解が多い論点です。妊婦本人の請求や医師の指導に基づき、身体的負担の軽い部署や作業へ移すことは、むしろ会社が行うべき配慮です。他方で、妊娠したことを理由に、本人の意向も医師の指導もないのに、重要な仕事から外す、閑職に追いやる、昇進コースから外れる部署へ飛ばす、遠距離通勤を強いる、といった配置転換になると、一気に違法性が強まります。要するに、配置転換は「変えたこと」それ自体で決まるのではなく、誰のための変更か、必要性があるか、内容が妊娠保護に見合っているかで評価が分かれます。

次に、雇止めです。有期契約の労働者は、妊娠や出産の場面で「更新しない」と言われやすいのですが、これも自由ではありません。厚生労働省の不利益取扱い資料は、妊娠・出産や育児休業等の申出・取得を契機とした不利益取扱いの例として、「期間を定めて雇用される者について契約の更新をしないこと」を明示しています。しかも、妊娠や制度利用と時間的に近接して雇止めが行われた場合、原則として法違反と判断されやすいと整理されています。ですから、これまで更新されていたのに、妊娠報告や産休・育休の話が出た途端に更新拒否になるような場面は、かなり危険信号です。

退職圧力も同じく問題です。妊娠した労働者に対し、「今は大事な時期だから辞めた方がいい」「パートにならないか」「育てながら正社員は無理だろう」などと言って退職や非正規化を迫ることは、表現が柔らかくても実質は不利益取扱いになり得ます。厚生労働省の資料は、退職の強要や、正社員をパートタイム労働者等に変更するような労働契約内容の変更強要を、禁止される不利益取扱いの例として挙げています。そして、表面上同意していても、それが真意に基づかないなら問題になるとしています。つまり、「本人も納得した形です」と会社が言っても、その前提に圧力や誘導があれば、そこで終わりではありません。

さらに強いルールとして、妊娠中又は産後1年以内の解雇には特別の規制があります。厚生労働省の均等法解説資料では、この期間の解雇は、事業主が妊娠・出産等を理由とする解雇ではないことを証明しない限り無効とされています。これは、妊娠・出産をめぐる解雇が、表向きは別理由に偽装されやすいことを踏まえた強い保護です。したがって、会社が「解雇理由は勤務態度です」「経営上の都合です」と言っても、妊娠報告や産休前後と近接していれば、会社側の説明はかなり厳しく吟味されます。

実務上は、妊娠・出産を理由とする不利益取扱いの事件では、何を契機に何が起きたかという時系列が非常に重要です。いつ妊娠を報告したか、いつ医師の指導書や母健連絡カードを出したか、いつ産休や育休の話をしたか、その直後に配置転換、減給、評価低下、更新拒否、退職勧奨がなかったかを並べていく必要があります。厚生労働省は、妊娠・出産等や育児休業等の申出・取得を「契機」とする不利益取扱いについて、原則として法違反になるとし、人事異動、人事考課、昇給、雇止めのような定期的措置でも最初のタイミングで不利益が出れば問題になると整理しています。ですから、本人の主観的つらさだけでなく、報告・申出と不利益処分の近接性を示すことが大切です。

また、会社は「配慮のつもりだった」「業務上やむを得なかった」と反論しがちですが、その場合でも無条件には通りません。厚生労働省資料は、例外的に不利益取扱いが許され得る場合として、業務上の必要性があり、その必要性が不利益を上回る特段の事情がある場合や、労働者が合理的理由の下で同意している場合を挙げています。しかしこれはあくまで例外であり、通常は、妊娠・出産や制度利用を契機として不利益が出ていれば法違反が強く疑われます。会社の都合だけで簡単に押し切れる話ではありません。

要するに、第44講で押さえるべきことはこうです。妊娠・出産をきっかけに勤務内容や処遇が変わることはあり得るが、健康保護のための必要な配慮と、妊娠・出産を理由にした不利益取扱いは厳密に分けて見る必要がある。軽易業務への転換や勤務軽減は保護措置として認められる一方、閑職化、不利益配転、雇止め、退職圧力、非正規化の強要、解雇は違法になり得る。 だから、この分野では「変えられたこと」だけでなく、なぜ変えられたのか、誰の利益のための変更だったのかを丁寧に問うことが核心です。

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