第1回 会社支配権紛争とは何か|株式・議決権・代表権が食い違った瞬間に何が起きるか

第1回 会社支配権紛争とは何か|株式・議決権・代表権が食い違った瞬間に何が起きるか

中小企業の会社支配権紛争は、しばしば「社長同士の対立」「親族間のもめごと」「古参幹部の反乱」のように見えます。しかし、法的に見れば、争いの中心はもっと冷たく、もっと構造的です。すなわち、誰が株式を持っているのか、誰が議決権を行使できるのか、誰が会社を代表できるのかという三つの層がずれたときに、会社の支配権紛争は一気に顕在化します。会社法295条は株主総会の権限を定め、308条は議決権の数を定め、349条は株式会社の代表を定めています。支配権紛争とは、結局、この三つが一致しなくなった瞬間に始まる紛争です。

まず、株式を持っていることと、現実に会社を動かしていることは同じではありません。株主総会で誰を取締役にするか、誰を監査役にするかは、会社法329条1項により、原則として株主総会の決議で決まります。そして、役員は、会社法339条1項により、いつでも株主総会決議で解任することができます。つまり、支配権紛争の本丸は、役員室の空気や肩書ではなく、最終的には株主総会で誰が多数を取るかにあります。肩書だけが先行していても、株式の帰属や議決権の帰属が崩れれば、経営の土台そのものが崩れます。

次に、議決権は株式から直ちに機械的に導かれるようでいて、実はそこでまた紛争が起きます。会社法308条1項は、株主は原則として「その有する株式一株につき一個の議決権」を持つと定めていますが、同条2項は自己株式について議決権がないとしています。したがって、支配権紛争では、単に「何株持っているか」だけでなく、その株式に議決権があるのか、誰がそれを適法に行使できるのかが争点になります。名義株、相続未了株、自己株式、相互保有、議決権行使の代理や委任状の有効性まで絡み始めると、数字の問題に見えたものが、そのまま総会決議の効力問題へと移っていきます。

そして、実務でとりわけ危険なのが、株式・議決権と代表権がずれたまま外に向かって会社が動いてしまう場面です。会社法349条1項・2項は、代表取締役その他の代表者を定めていない場合、取締役が会社を代表し、取締役が複数なら各自代表になるとしています。また、同条4項は、代表取締役が会社の業務に関する一切の裁判上・裁判外の行為をする権限を有すると定め、5項はその権限に加えた内部的制限を善意の第三者に対抗できないとしています。つまり、会社内部では「もうあの人は実質的に社長ではない」と言っていても、外から見ると、その人物の代表行為がなお会社を拘束し得るのです。ここに、支配権紛争の厄介さがあります。内部では地位が揺らいでいるのに、外部では契約、送金、登記、通知、訴訟対応が先に進んでしまうのです。

さらに、株主総会そのものが争いの戦場になります。会社法295条2項は、取締役会設置会社では、株主総会が決議できる事項を法令と定款の範囲に限定していますが、その限られた事項の中に、役員の選解任や定款変更など、会社の支配権を左右する中核事項が含まれます。しかも、その総会の招集手続、議題設定、決議方法に瑕疵があれば、会社法831条により、株主等は決議の日から3か月以内に取消しの訴えを提起し得ます。したがって、支配権紛争では「総会で勝てば終わり」ではなく、その総会が後でひっくり返るかどうかまで見込んで動かなければなりません。

この種の紛争が一気に燃え上がる典型場面が、相続です。民法898条は、相続人が数人あるときは相続財産は共有に属すると定めています。中小企業では、創業者が死亡した結果、会社の中核株式が共同相続の対象となり、遺産分割が未了のまま、経営だけが先に動くことが珍しくありません。そのとき、旧社長の生前の了解、後継者としての実績、現場の支持、通帳や印鑑の管理といった事実関係は重要ですが、それだけでは足りません。法的には、誰が株主として扱われるのか、誰が議決権を行使し得るのか、どの決議が適法かを詰めなければ、会社の意思決定が丸ごと不安定になります。しかも、譲渡制限会社では、会社法174条以下により、相続で取得された譲渡制限株式について、定款の定めがあれば会社が売渡しを請求できる仕組みまで用意されています。相続は、支配権紛争の周辺事情ではなく、その中心争点になり得るのです。

支配権紛争が普通の民事紛争と違うのは、本訴の判決を待っていては手遅れになることがある点です。新株発行で持株比率を崩される、問題のある取締役が資金移動をする、無理な総会を強行して役員改選や代表交代の登記を進める、といった事態は、判決前に既成事実化されがちです。そこで会社法210条は、法令・定款違反または著しく不公正な方法による募集株式の発行等について、株主に差止請求を認めていますし、360条は、一定の要件の下で、取締役の違法・違反行為の差止めを株主に認めています。さらに、民事保全法23条は、係争物に関する仮処分や仮の地位を定める仮処分を認めており、著しい損害や急迫の危険を避ける必要があるときには、判決前に仮の秩序を作ることが問題になります。支配権紛争は、「あとで正せばよい」類型ではなく、今止めなければ意味がない類型なのです。

また、支配権紛争は、防御だけで終わりません。現経営陣の違法行為や不公正な資金移動が疑われるときは、会社法847条以下の責任追及等の訴え、いわゆる株主代表訴訟の発想も視野に入ります。847条は、一定期間継続保有した株主が会社に提訴請求をし、会社が60日以内に提訴しないときには、株主自身が会社のために責任追及等の訴えを提起できると定めています。支配権紛争は、単なる「地位争い」にとどまらず、支配権を握った者が何をしたのか、その責任まで掘り返される紛争でもあります。

したがって、会社支配権紛争で最初に確認すべきものは、抽象的な人間関係ではありません。株主名簿、定款、過去の議事録、取締役会議事録、委任状、発行済株式の経緯、相続関係資料、登記事項証明書、資金移動資料です。誰が社内で大声を出しているかより、誰が株主として扱われてきたか、どの決議がどの手続でされたか、誰が対外的に代表してきたかを固める方が、はるかに重要です。支配権紛争とは、感情の争いに見えて、その実体は株式・議決権・代表権のズレを、条文と証拠で固定していく作業だからです。

第1回の結論を一言で言えば、会社支配権紛争とは、「誰が社長らしいか」を争うものではありません。誰が株主か、誰が議決権を持つか、誰が代表権を持つか、その三つが食い違ったときに、総会、登記、契約、仮処分、責任追及が連鎖的に立ち上がる紛争です。次回は、この連鎖の最初の爆発点になりやすい、株主総会の招集・決議・議事録の瑕疵と、決議取消訴訟の基本構造を見ていきます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA