第2回 株主総会が荒れる会社の共通点|招集・議決・議事録のミスが決議取消しに変わるとき
第2回 株主総会が荒れる会社の共通点|招集・議決・議事録のミスが決議取消しに変わるとき

会社支配権紛争の現場では、「社長派が押し切った」「反対派が騒いだ」という人間模様が先に語られがちです。しかし、法的に勝敗を分けるのは、感情の激しさではなく、その株主総会が適法に招集され、適法に決議され、適法な形で記録されたのかという一点です。会社法は、株主総会の権限を定めた上で、招集事項の決定、招集通知、決議要件、議事録、そして決議の不存在・無効・取消しに至るまで、かなり細かくルールを置いています。支配権紛争では、この手続のどこか一か所が崩れただけで、役員選任も代表交代も、後からまとめて揺らぎます。
まず、総会紛争の出発点は招集です。会社法298条は株主総会の日時・場所・目的事項など招集に関する基本事項の決定を予定し、299条は株主への招集通知を原則として書面投票等の有無に応じた所定期間前までに発する仕組みを置いています。つまり、誰が、いつ、どの議題について総会を開くのかは、単なる事務連絡ではなく、後の決議効力を左右する法的手続です。中小企業では、「急ぎだから口頭で呼んだ」「反対派には十分知らせていない」「議題を曖昧にして当日役員改選まで持ち込んだ」といった運用が見られますが、こうした雑な招集は、そのまま取消し・無効主張の入口になります。
次に問題になるのが、その総会で何を決議したのか、そしてその議決が必要な要件を満たしているかです。会社法309条は、株主総会決議について原則的な普通決議の要件と、定款変更や組織再編など重要事項に関する特別決議の要件を定めています。支配権紛争では、普通決議で足りるのか、特別決議が必要なのか、それ以前に議決権数の計算が正しいのか、委任状や代理出席の扱いはどうか、基準日株主として誰を数えるのか、といった点が一気に争点化します。見た目には「賛成多数」で終わったように見えても、母数や議決権の数え方が違えば、決議そのものが成立していないという話になり得ます。
また、総会での運営も軽視できません。質問を封じる、説明を拒む、反対派株主の発言を不当に制限する、議長が恣意的に採決を打ち切る、議案の順番を操作して実質的に別内容の決議を通してしまう、といった運営は、後に「決議の方法が法令・定款に違反し、又は著しく不公正である」と評価される危険を持ちます。会社法831条1項1号は、招集手続又は決議の方法が法令・定款に違反し、又は著しく不公正であるときに、決議取消しの訴えを認めています。支配権紛争においては、総会の空気を支配した側が必ずしも法的にも勝つわけではなく、むしろ強引に通した総会ほど、後で崩れやすいのです。
さらに見落とされがちなのが、議事録です。会社法318条は株主総会議事録の作成・備置きについて定めています。中小企業では、総会当日に実際に何が起きたのかよりも、後から整えられた議事録だけが独り歩きしていることが少なくありません。しかし、議事録は単なるメモではなく、後の訴訟・仮処分・登記・金融機関対応で中核資料になります。出席株主数、議決権数、議長の進行、異議の有無、採決結果、役員選任の経過が曖昧な議事録は、それ自体が争点化します。逆にいえば、支配権紛争では、招集通知よりも議事録の方が後から致命傷になることすらあります。
このとき区別しておかなければならないのが、取消しと無効・不存在です。会社法830条は、株主総会決議について、決議が存在しないことの確認の訴えと、決議内容が法令違反であることを理由とする無効確認の訴えを定めています。他方、831条は、招集手続や決議方法の違法・不公正、決議内容の定款違反、特別利害関係人の関与などを理由とする取消しの訴えを定め、提訴期間も決議の日から3か月以内としています。したがって、実務では「何となくおかしい」と言うだけでは足りず、そもそも決議が成立していないのか、内容が法令違反で無効なのか、成立はしているが手続瑕疵等により取消し得るのかを切り分ける必要があります。この仕分けを誤ると、時間制限にもろに引っかかります。
支配権紛争で特に厄介なのは、総会決議の争いが、役員の地位や代表権の争いと直結していることです。役員選任決議に瑕疵があれば、その取締役の地位自体が揺らぎますし、その者が代表取締役として行った対外行為や登記手続にも影響が及び得ます。もっとも、会社法349条は代表権の外部的作用を強く認めていますから、内部で深刻な瑕疵があっても、外部では先に物事が動いてしまうことがあります。だからこそ、支配権紛争では「本訴であとから争えばよい」では済まず、総会の直後から登記・通帳・印鑑・対外通知まで見据えて動かなければなりません。
そこで現実に問題になるのが、民事保全です。民事保全法23条1項は係争物に関する仮処分を、同条2項は仮の地位を定める仮処分を定めており、裁判所も、民事保全手続は勝訴判決までの間に権利保全を無意味にしないための制度であり、仮処分には現状固定型と暫定的地位形成型があると説明しています。支配権紛争では、総会決議をめぐる本訴の前後を通じて、役員として行動しないことを求める、登記や財産処分の既成事実化を防ぐ、会社施設や帳簿へのアクセスをめぐる暫定秩序を作るなど、保全の必要性が極めて高くなります。総会が荒れる会社ほど、「次の総会で決めましょう」では済まず、「今日中に止める必要がある」という局面に入りやすいのです。
結局のところ、株主総会が荒れる会社には共通点があります。招集が雑で、議題が曖昧で、議決権の計算が粗く、議事録が後追いで作られ、しかもその決議で役員人事や代表権まで一気に動かそうとするのです。こういう会社では、総会は経営判断の場ではなく、瑕疵を抱えたまま既成事実を作る装置になっています。しかし、会社法はそのような場面こそ予定しており、招集、決議、議事録、取消し・無効・不存在という一連の争訟ルートを用意しています。支配権紛争において大事なのは、「この総会はおかしい」という感覚を持つことではなく、どの瑕疵を、どの条文で、どの期限内に、どの証拠で固定するかを早い段階で見極めることです。
次回は、さらに一歩進めて、第三者割当増資・新株発行が支配権争いの武器になる場面と、その差止めの発想を扱います。会社支配権紛争では、総会だけでなく、株式数そのものを動かして多数派を作り替える局面があるからです。