第3回 第三者割当・新株発行で支配権を動かす場面|差止めの発想

第3回 第三者割当・新株発行で支配権を動かす場面|差止めの発想

会社支配権紛争で最も危険なのは、総会での多数派工作そのものより、株数そのものを動かして多数派の地盤を作り替えることです。役員選任や代表交代は、その前提として「誰が何株持っているか」「その株に何個の議決権が付いているか」が決まっていなければ意味を持ちません。そこで、既存株主ではない第三者に新株を割り当てる第三者割当は、資金調達の顔をしながら、実際には支配権の再編装置として使われることがあります。会社法199条は、募集株式の数、払込金額又はその算定方法、現物出資の内容と価額、払込期日又は期間、資本金・資本準備金に関する事項などの「募集事項」を定めるよう要求しており、同条2項は原則としてその決定を株主総会決議に委ねています。さらに、払込金額が引受人に特に有利な金額である場合には、同条3項により、その必要性の説明も要します。つまり、新株発行は経営判断の名で自由にできるものではなく、最初からかなり厳格な手続統制の下に置かれています。

もっとも、ここでいう「新株発行」は、常に株主総会を経るとは限りません。会社法200条は、株主総会で、募集事項の決定を取締役または取締役会に委任できるとし、その場合には発行数の上限と払込金額の下限を定めることを求めていますし、その委任の効力も一年以内の募集に限られます。さらに会社法201条は、公開会社では、有利発行の場合を除いて、199条2項の「株主総会」を「取締役会」と読み替えるとしています。つまり、公開会社では取締役会主導で新株発行が進み得る一方、非公開会社ではなお総会関与が重く、閉鎖会社ほど支配権紛争の武器としての第三者割当がむき出しになりやすい構造です。

そして、支配権紛争で効いてくるのは、第三者割当と株主割当の違いです。会社法202条は、株主に対し、その保有株式数に応じて募集株式の割当てを受ける権利を与えることができるとし、比例的な割当ての枠組みを置いています。これは既存株主の持分割合を基本的に維持しながら資本政策を行う発想です。これに対し、第三者割当は既存株主の外に株を出しますから、単に資金調達をするだけでなく、特定の人物・法人を新たな多数派候補として会社の中に入れる作用を持ちます。したがって、支配権紛争においては、「新株発行それ自体」が問題なのではなく、なぜ株主割当ではなく第三者割当なのか、その設計が誰の支配権を動かすのかが争点になります。

実務でよくあるのは、現経営陣が「会社に資金が必要だ」「協力先に入ってもらう必要がある」と説明しつつ、実際には対立株主を少数化するために第三者割当を使う場面です。このとき重要なのは、裁判所が常に経営判断の当否そのものに踏み込むわけではない一方、法令・定款違反か、または著しく不公正な方法かという観点からは十分に介入し得るという点です。会社法210条は、募集株式の発行又は自己株式の処分が法令・定款に違反する場合、または著しく不公正な方法により行われる場合で、株主が不利益を受けるおそれがあるときは、株主は会社に対してその発行等をやめることを請求できると定めています。支配権紛争でいう差止めの発想は、まさにここにあります。つまり、「発行後に争う」のではなく、発行前に止めるのが本筋です。

ここでいう「著しく不公正な方法」は、単に気に入らない資本政策というだけでは足りませんが、逆にいえば、資金調達の名目があるだけで免責されるものでもありません。たとえば、既存株主との対立が先行し、役員改選や代表交代が視野に入っている局面で、特定の味方だけに新株を入れて議決権構成を急変させるのであれば、裁判所から見れば「資金調達」よりも「支配権維持・奪取」の色彩が濃いと評価される余地があります。特に閉鎖会社では市場による価格規律が働きにくく、既存株主への説明も形骸化しやすいので、払込金額の相当性、発行数量、発行先の属性、時期、総会前後の経過など、全体事情が強く問われます。会社法199条3項が有利発行について理由説明を要求し、210条が差止めを認めているのは、まさにこの局面を想定しているからです。

公開会社では、取締役会決議で募集事項を定めた場合、会社法201条3項・4項により、払込期日または払込期間の初日の二週間前までに、株主に対して募集事項を通知しなければならず、通知は公告に代えることもできます。この二週間という期間は、単なる事務上の猶予ではなく、株主に差止めの機会を与える意味を持ちます。したがって、支配権紛争の文脈では、公告や通知が出た時点で「まだ決まっていない」と安心するのではなく、ここからが差止めの時間帯だと見るべきです。

しかも、新株発行は、払込が済んで効力が生じた後では、戦い方が変わります。会社法828条は、株式会社の成立後における株式の発行の無効は、効力発生日から六か月以内、非公開会社では一年以内に、訴えによってのみ主張できると定めています。つまり、発行前は210条の差止めが主戦場ですが、発行後は828条の無効の訴えへと軸が移ります。ここで重要なのは、差止めと無効の訴えは代替関係ではなく、時間軸の異なる手段だということです。支配権紛争では、株が出てしまった後に元へ戻すのは、法技術的にも実務的にも一段難しくなります。

そのため、実際の事件では、会社法210条の差止請求権を裸で主張するだけでなく、民事保全法23条に基づく仮処分が問題になります。裁判所は、23条1項の係争物に関する仮処分を、将来の権利実現が不可能又は著しく困難になることを防ぐための現状維持措置と説明し、23条2項の仮の地位を定める仮処分を、著しい損害や急迫の危険を避けるために暫定的措置を命じる手続と説明しています。また、東京地裁の案内でも、保全命令の申立てには被保全権利と保全の必要性の疎明が必要であり、一般には書証が中心になるとされています。支配権紛争で言えば、定款、株主名簿、取締役会議事録、総会招集通知、発行要項、資金繰り資料、対立の経過を示すメール等を短時間で積み上げて、「今止めなければ後の判決が空洞化する」ことを見せる作業になります。

ここで一つ大事なのは、差止めの対象は新株だけではないということです。会社法247条は、新株予約権の発行についても、法令・定款違反または著しく不公正な方法で行われ、株主に不利益を受けるおそれがあるときは、株主が発行差止めを請求できるとしています。中小企業の支配権紛争では、いきなり株式を出すよりも、新株予約権を特定者に付与し、将来の時点で一気に議決権構成を変える設計の方が見えにくいことがあります。したがって、「今回は株は出ていないからまだ安全」という見方は危険で、将来の潜在株まで含めて支配権移動の設計図を読む必要があります。

また、払込金額の問題も軽く見てはいけません。会社法212条は、取締役と通じて著しく不公正な払込金額で募集株式を引き受けた者に、公正価額との差額相当額の支払義務を課しています。これは発行差止めの場面そのものではありませんが、逆にいえば、会社法が著しく不公正な安値発行を独立の問題として認識していることを示します。支配権紛争では、「とにかく味方に株を渡したい」場面ほど価格が甘くなりやすいので、価格設定の不自然さは、支配権目的の立証を補強する事情になり得ます。

結局、第三者割当・新株発行が支配権紛争で意味を持つのは、それが単なる財務行為ではなく、議決権構成を作り替える行為だからです。しかも、その効き目は早く、払込前に止められなければ、後は無効訴訟に戦場が移り、会社の内部秩序も対外関係も複雑になります。だからこの場面では、「あとで決議取消しで争う」では遅く、まずは199条、200条、201条、202条、210条、必要に応じて247条と828条まで見据えて、差止めを起点に考えるべきです。支配権紛争における新株発行とは、資金調達の技術ではなく、株数を通じて会社の意思決定そのものを書き換える技術だからです。

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