第4回 代表取締役を外す・居座る|地位確認と職務執行停止の発想
第4回 代表取締役を外す・居座る|地位確認と職務執行停止の発想

中小企業の支配権紛争で「社長を辞めさせたい」という言葉が出たとき、法的にはまず整理が必要です。争いは一つではなく、少なくとも、代表取締役としての地位を外すのか、取締役そのものを外すのか、そもそも選任・解職決議の効力自体を争うのかという三層に分かれます。会社法は、取締役の解任を339条で、代表権の外部的作用を349条で、取締役会設置会社における重要な業務執行の決定や代表取締役の選定・解職を362条でそれぞれ定めており、「社長を外す」という一言では処理できない構造になっています。
まず、代表取締役を外すことと、取締役を辞めさせることは同じではありません。取締役会設置会社では、取締役会が重要な業務執行を決定し、その中で代表取締役を選定・解職します。他方、取締役そのものの解任は株主総会決議の問題です。したがって、社内多数派が変わったとき、代表取締役の肩書は先に外せても、取締役として会社の中に残ることがありますし、逆に取締役解任まで一気に進めると、後でその解任の効力や損害賠償の問題が立ち上がることがあります。これは「誰が会社を対外的に代表するか」と「誰が会社内部の機関構成員として残るか」が別の層だからです。
この点で会社法339条は重く、取締役はいつでも株主総会決議で解任できる一方、正当な理由なく解任されたときは損害賠償請求の余地を残しています。だから実務では、「とにかく全ての地位から追い出す」のが常に得策とは限りません。代表取締役だけを外して対外的な暴走を止めるのか、取締役解任まで踏み込むのか、あるいは先に総会決議の瑕疵を争って相手方の地位を揺さぶるのかで、本訴の設計も保全の設計も変わります。支配権紛争では、出口を決めずに解任だけ急ぐと、後で別の訴訟を呼び込みやすいのです。
さらに厄介なのは、代表取締役は外部に対して強い代表権を持つことです。会社法349条は、代表取締役が株式会社の業務に関する一切の裁判上・裁判外の行為をする権限を有し、その権限に加えた内部的制限は善意の第三者に対抗できないとしています。取締役会設置会社では、代表取締役や業務執行取締役は原則として3か月に1回以上、職務執行状況を取締役会に報告する仕組みも置かれています。つまり、社内では「もうあの人は信用できない」「多数派は入れ替わった」と言っていても、対外的には契約、送金、通知、訴訟対応が先に進み得るので、支配権紛争では“地位の争い”と“外への効き目”を同時に見なければなりません。
そこで「居座る」「外したはずなのに動いている」という局面では、本案はしばしば地位確認や決議効力訴訟になります。株主総会決議に瑕疵があるなら、会社法830条・831条の不存在確認・無効確認・取消しの訴えが視野に入りますし、裁判所の商事保全資料でも、取締役選任決議に瑕疵がある場合にはその決議の取消しや不存在・無効確認訴訟が本案になると整理されています。また、会社法854条1項所定の要件を満たす場合には、取締役解任の訴え自体が本案として予定されています。つまり、「居座り」は感情的評価ではなく、いま相手方の地位を何の訴えで争うのかという訴訟類型の問題です。
もっとも、本案判決を待っていては手遅れになることがあります。民事保全法23条2項は、争いがある権利関係について、債権者に生ずる著しい損害または急迫の危険を避けるため必要があるときに、仮の地位を定める仮処分を発することができるとしています。東京地裁の記載例も、取締役の選任決議に瑕疵がある場合や、会社法854条の解任訴訟が想定される場合に、当該取締役が業務執行に関与し続けると会社に著しい損害または急迫の危険が生ずるおそれがあるときは、職務執行停止等仮処分が用いられると明示しています。したがって、代表取締役をめぐる争いでは、「本訴で勝てるか」だけではなく、判決前にその人を会社運営からいったん外す必要があるかが中心論点になります。
この保全では、どの段階で動くかが極めて重要です。東京地裁の役員地位仮処分の資料では、取締役選任や代表取締役選定の効力を争う事案では、株主総会議事録や取締役会議事録、登記申請書類を法務局で閲覧・入手しておくことが望ましいとされ、登記完了前であれば、解任されたとされる代表者が仮処分申立てをした旨を示して登記の留保を求める運用があり得る一方、登記完了後は、直ちに登記抹消相当といえるほど高度の保全の必要性が問題になると整理されています。要するに、同じ「代表者争い」でも、登記前と登記後では戦いの難易度がかなり違います。動くなら早い方がよいのは、このためです。
したがって、この類型で最初に見るべきものは、抽象的な人物評価ではありません。商業登記、定款、株主総会議事録、取締役会議事録、招集通知、委任状、登記申請書類、そして誰が今どの名義で何をしようとしているかです。これは、裁判所資料が、仮処分の疎明に当たって議事録類や登記申請資料の収集を重視し、保全の必要性も「会社に著しい損害や急迫の危険が生ずるか」で見ることからの実務的帰結です。支配権紛争では、「あの社長はもう終わりだ」という感想では足りず、どの地位を、どの訴えで、どの保全で止めるのかまで一気に設計しなければなりません。
第4回の結論を一言でいえば、代表取締役を外す・居座るという争いは、単なる権力闘争ではありません。代表権の剥奪、取締役地位の解任、決議効力の争い、そして職務執行停止の仮処分が、時間差ではなく同時に立ち上がる紛争です。だからこそ、この局面では「誰が正しいか」より先に、「誰のどの地位を、いつまでに、どう止めるか」を考える必要があります。