第5回 少数株主は何で反撃するか|帳簿閲覧・違法行為差止・責任追及
第5回 少数株主は何で反撃するか|帳簿閲覧・違法行為差止・責任追及

会社支配権紛争では、多数派に入れなかった側は、しばしば「もう負けている」と見られます。しかし、会社法は、少数株主に対しても、単なる意見表明ではない実効的な武器を段階的に用意しています。大づかみにいえば、まず資料を取る、次に総会と手続を押さえる、さらに違法行為を止める、最後に会社のために責任を追及するという順番です。条文で言えば、会計帳簿の閲覧等の請求(433条)、業務執行に関する検査役の選任(358条)、株主提案権(303条・305条)、株主総会の招集手続等に関する検査役の選任(306条)、取締役の違法行為差止め(360条)、そして株主による責任追及等の訴え(847条以下)が、その中核になります。
少数株主の反撃は、いきなり訴訟から始まるわけではありません。最初の武器は、何が起きているのかを見に行く権利です。会社法433条は、一定の少数株主に、会計帳簿またはこれに関する資料の閲覧・謄写請求を認めています。少数株主が疑うのは、たいてい抽象的な「経営が怪しい」という感覚ですが、裁判で使えるのは、役員報酬、仮払金、関係会社取引、資金移動、売掛金処理、架空経費の有無といった具体的事実です。したがって、少数株主が本当に反撃に出るなら、最初の争点は「悪いことをしている気がする」ではなく、どの帳簿・どの資料を、どの株主権の確保・行使のために見るのかという形に変わります。433条には拒絶事由も置かれているため、単なる嫌がらせや業務妨害では通らず、請求目的の具体化が重要になります。
しかも、資料収集の武器は433条だけではありません。会社法358条は、株式会社の業務執行に関し、不正の行為または法令・定款違反の重大な事実があることを疑うに足りる事由があるとき、一定の株主が裁判所に対して業務執行に関する検査役の選任を申し立てることができるとしています。これは、会社の内部資料を任意に見せてもらえない場面で、裁判所を介して調査を入れる発想です。中小企業では、経理も人事も親族会社取引も一体化していることが多く、少数株主が社内多数派に対して自力で証拠を集めるには限界があります。そのため、疑いの段階から、検査役という制度を視野に入れて「外から会社の内部を開ける」ことが、少数株主の現実的な反撃になります。
次に、少数株主は、単に見るだけでなく、総会の議題そのものを動かすこともできます。会社法303条は、一定の株主が、株主総会で一定の事項を目的事項とすることを請求できると定め、305条は、株主総会の日の八週間前までに議案の要領を招集通知に記載・記録することを請求できる仕組みを置いています。つまり、少数株主は、経営陣に不都合な議題を総会に乗せることができますし、役員選解任、定款変更、責任追及の前提となる議案を、会社の公式アジェンダに押し込むことができます。また、総会の手続自体が怪しいなら、会社法306条により、株主総会の招集手続や決議方法を調査させるための検査役の選任を裁判所に求めることもあり得ます。少数株主の反撃は、社長室の外で文句を言うことではなく、総会という会社法上の戦場を正式に開くことでもあるのです。
しかし、総会を待っていては手遅れになる場面もあります。そこで出てくるのが、会社法360条の差止めです。同条は、取締役が株式会社の目的の範囲外の行為その他法令・定款違反の行為をし、またはこれらの行為をするおそれがある場合に、株式会社に著しい損害が生ずるおそれがあるときは、一定の株主が当該取締役に対してその行為をやめることを請求できると定めています。公開会社については六か月継続保有要件が置かれており、会社類型により要件のかかり方も変わります。ここで重要なのは、差止めの対象が、単なる不満な経営判断ではなく、法令・定款違反または目的外行為であって、会社に著しい損害をもたらすものだという点です。少数株主がこの条文を使う場面は、たとえば不自然な関係会社送金、違法な自己取引、会社財産の流出、支配権維持のための露骨な会社資産の使い込みなど、あとから金銭賠償では取り返しにくい局面です。
そして、違法行為が既に行われ、会社に損害が発生しているなら、少数株主の最終兵器は株主代表訴訟です。会社法847条以下は、株主が株式会社のために責任追及等の訴えを提起する仕組みを定めています。構造としては、まず会社に対して責任追及をするよう請求し、会社が所定期間内に動かなければ、株主が会社に代わって訴えを提起する、という流れです。公開会社では原則として六か月前から引き続き株式を有する要件が置かれ、非公開会社ではその制限が外れる建て付けです。ここで大切なのは、少数株主が自分のために損害賠償を取るのではなく、会社の損害を会社に取り戻すために訴えるという点です。したがって、この武器は、社長が嫌いだから使う制度ではなく、役員等の任務懈怠や違法行為によって会社財産が毀損したときに、その毀損を会社に回復させる制度だと理解すべきです。
このように見ると、少数株主の反撃は、単発の権利行使ではありません。433条で中を見て、358条や306条で裁判所を介した調査に進み、303条・305条で総会の場を作り、360条でいま止め、847条で事後的に責任を取りに行くという連続した運用です。多数派は、しばしば「少数株主は議決で勝てない」と考えますが、会社法は、少数株主に多数決以外の回路を複数与えています。支配権紛争において本当に怖い少数株主は、声が大きい株主ではなく、資料・手続・差止め・責任追及を順番に使える株主です。
だから、この類型で最初に見るべきものは、「何株持っているか」だけではありません。公開会社か非公開会社か、継続保有期間はどうか、定款で要件が緩和されていないか、どの資料が会社内にあり、どの行為が差止め対象になり得て、損害が既に発生しているのかです。少数株主の武器は、思いつきで振るうものではなく、要件事実と時間軸を合わせて使う制度だからです。多数派に勝てないから終わりなのではなく、むしろ多数派が会社を私物化していると疑われる場面ほど、少数株主の武器は鋭くなります。
第5回の結論を一言でいえば、少数株主は「口だけの敗者」ではありません。見る権利、調べさせる権利、議題にする権利、止める権利、会社のために訴える権利を持っています。会社支配権紛争における少数株主の反撃とは、多数決に勝つことではなく、会社法が用意した別ルートで経営陣を法的に追い詰めることです。