第10講 議事録は後から人を刺す|総会議事録・取締役会議事録の作り方で勝敗が変わるとき

第10講 議事録は後から人を刺す|総会議事録・取締役会議事録の作り方で勝敗が変わるとき

会社支配権紛争では、その場で誰が大声を出したかより、後で裁判所に何が残るかの方がはるかに重要です。株主総会や取締役会で何が決まったのかは、最終的には議事録、招集通知、委任状、登記申請資料といった書面の束として評価されます。会社法は、株主総会について議事録の作成と本店・支店での備置義務を置き、取締役会についても議事録の作成・備置を予定していますし、東京地裁の商事保全実務でも、役員地位仮処分や新株発行差止め仮処分の疎明資料として、株主総会議事録や取締役会議事録が中核資料として明示されています。つまり議事録は、単なる社内メモではなく、後の決議効力訴訟・役員地位争い・保全の土台です。

まず株主総会については、会社法318条が議事録の作成を求め、本店で10年間、支店でその写しを5年間備え置く建て付けになっています。だから、総会議事録は「作ればよい」ではなく、長期間、会社の公式記録として残り続ける前提の文書です。支配権紛争では、役員選任や解任、定款変更、第三者割当の募集事項決定など、会社の帰趨を左右する決議がこの文書に乗ります。あとから総会決議の不存在・無効・取消しが争われるとき、裁判所がまず見るのは「その日、議事録上どう書いてあるか」です。

取締役会でも事情は同じです。会社法369条は取締役会の決議要件の基本を置き、取締役会の書面決議の場面でも議事録の作成・保管が必要であることが実務解説でも確認され、会社法371条は取締役会議事録の備置を予定しています。したがって、代表取締役の選定・解職、重要な業務執行の決定、新株発行に関する機関決定などをめぐる争いでは、取締役会が本当に開かれたのか、誰が出席し、どう採決されたのかが、最終的には議事録で検証されることになります。

ここで怖いのは、議事録は「その日に決まったことの記録」であると同時に、後日その日の意味を固定してしまう文書だという点です。たとえば、出席取締役の数、利害関係人の扱い、議長の進行、議題の特定、採決結果、異議の有無、説明の経過が曖昧だと、後で「本当にその決議が成立したのか」「議決の方法は公正だったのか」という争いに耐えにくくなります。逆に、実体としてはかなり強引な会議であっても、議事録が一応整っていると、相手方はその記載を起点に登記や対外通知を進めてきます。議事録は、真実をそのまま写す紙というより、後の戦いの出発点を決める紙です。

このことが最も露骨に出るのが、株主総会決議の効力が争われる場面です。会社法831条は、招集手続や決議方法が法令・定款に違反し又は著しく不公正である場合などに、決議の日から3か月以内に取消しの訴えを提起できるとしています。ここで問題になるのは、単に招集通知が怪しかったとか、議長が強引だったとかいう抽象的主張ではなく、その瑕疵が議事録や周辺資料からどれだけ具体的に読み取れるかです。つまり、議事録は決議の有効性を支える文書であると同時に、書き方によっては取消訴訟の攻撃対象にもなります。

さらに支配権紛争では、議事録がそのまま保全事件の疎明資料になります。東京地裁の商事保全事件申立書類一覧では、役員の地位を仮に定める仮処分で、債務者が取締役・代表取締役に選任されたことを疎明する書面として、株主総会議事録、取締役会議事録、登記事項証明書が例示されていますし、新株発行差止め仮処分でも、募集事項の機関決定を示す資料として株主総会議事録又は取締役会議事録、招集通知書などが求められています。要するに、議事録は本案でじっくり読むための書類ではなく、緊急の保全で「いま何が決まったことになっているか」を裁判所に一気に示すための武器です。

だからこそ、議事録のまずさは後から人を刺します。会議当日は「とりあえず登記できる形にしておこう」と軽く考えていた議事録でも、後日になると、出席者の整合性が取れない、議案の特定が足りない、委任状との噛み合わせが悪い、取締役会議事録と総会議事録で日付や理由がずれている、といった点が次々に表に出ます。東京地裁の役員地位仮処分の記載例でも、役員変更登記申請がされたこと、総会で取締役が解任・選任されたとされること、そしてその根拠として議事録類が出てくる構成になっており、議事録の記載がそのまま「地位の外観」を作ることが分かります。

逆に、支配権紛争を見据えるなら、議事録で最低限落としてはいけないのは、会議の存在そのものと、決議過程の骨格です。いつ、どこで、誰が出席し、誰が議長で、どの議題が上程され、どの説明や異議があり、どの採決で、どの結果になったのか。この骨格が薄いと、後で「実際には開催されていない」「別の議題をすり替えた」「利害関係者が議決に入っていた」といった主張にさらされやすくなります。議事録は美文である必要はありませんが、争点になりそうな部分ほど事実を痩せさせずに残す必要があります。

実務上さらに重要なのは、議事録を単独で作らないことです。議事録だけ整っていても、招集通知、委任状、株主名簿、定款、取締役会資料、登記申請書類と噛み合っていなければ、すぐに綻びが出ます。東京地裁が保全申立てで求めている資料群も、議事録単体ではなく、株主資格資料、定款、株式払込資料、招集通知、登記資料などを束で出す前提です。したがって、本当に強い議事録とは、単独で立派な文書ではなく、周辺資料と整合する議事録です。

第10講の結論を一言でいえば、議事録は会議のあとに残る事務書類ではありません。決議効力、役員地位、代表権、登記、保全のすべてを後から支えるか、逆に崩すかを決める証拠文書です。会議の場では人が人を動かしますが、裁判では紙が人を刺します。支配権紛争において議事録が怖いのは、その紙が、数か月後、数年後に「その日に会社で何が起きたことになるか」を決めてしまうからです。

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