第19講  妊娠・出産・育児休業対応の実務|不利益取扱いを避けながら運営する

第19講
妊娠・出産・育児休業対応の実務|不利益取扱いを避けながら運営する

妊娠・出産・育児休業対応で使用者側が最も注意すべきなのは、制度を「取らせるかどうか」の問題としてではなく、不利益取扱いを避けつつ職場運営をどう設計するかの問題として捉えることです。法令上、妊娠・出産そのもの、産前産後休業、母性健康管理措置、軽易業務転換、育児休業の申出や取得などを理由とする不利益取扱いは禁じられており、厚生労働省も具体例を指針やQ&Aで示しています。さらに、育児・介護休業法関係では、申出時の個別周知や意向確認など、事業主に求められる対応が近年強化されています。

まず出発点として、会社は「制度利用者が出た後に考える」のでは遅いです。妊娠・出産等の申出があった時点で、どの制度が使えるのかを個別に周知し、本人の意向を確認する運用が必要になります。厚生労働省の両立支援資料でも、妊娠・出産等の申出時に育児休業制度の個別周知・意向確認を行うこと、さらに改正育児・介護休業法のもとで一定時期の個別の意向聴取・配慮が求められていることが示されています。つまり、使用者側では、制度説明を一般的な社内掲示で済ませるのではなく、個別対応の入口を持つことが必要です。

ここで重要なのは、妊娠・出産・育休取得者に対する人事運用が、後から「不利益取扱い」と見られないようにすることです。厚生労働省のQ&Aは、妊娠・出産・育休等の事由を「契機として」不利益取扱いがなされた場合、原則として違法と解されるとし、その判断について、原則として当該事由の終了から1年以内に不利益取扱いがなされた場合は「契機として」いると考える整理を示しています。人事異動、不利益な評価や降格、雇止めなどは、この問題に直結しやすい典型例です。使用者側としては、「たまたまこの時期だった」と言うだけでは足りず、その人事措置が妊娠・出産・育休とは無関係に、以前から予定され、合理的な理由に基づいていたことを説明できる必要があります。

したがって、実務では評価・配置・雇用継続の判断を、制度利用と切り離して記録化することが重要です。たとえば、育休取得予定者の評価を下げる、復帰後に当然のように補助的業務へ落とす、短時間勤務利用者を昇進候補から外す、といった運用は危険です。もちろん、業務内容や勤務可能時間の違いが処遇に影響する場面はあり得ますが、その場合でも、制度利用それ自体を理由にした不利益取扱いではないこと、業務上の必要性や評価基準との関係が合理的に説明できることが必要です。厚生労働省は、妊娠・出産等を理由とする解雇その他不利益取扱いを禁止しており、その具体例をかなり広く示しています。

また、妊娠・出産対応では、そもそも労働基準法上の保護にも注意しなければなりません。労働基準法は、出産予定日前6週間以内(多胎妊娠は14週間以内)の女性が請求した場合の産前休業、産後8週間の就業制限などを定めています。これは会社の裁量で縮めたり無視したりできるものではありません。したがって、使用者側としては、まず法定休業の基本線を踏まえたうえで、その前後の引継ぎ、代替要員、業務分担見直しを組む必要があります。

さらに、育休対応で会社が事故を起こしやすいのは、取得前よりも復帰時です。休業取得中は制度対応として処理していても、復帰後の配置、時短勤務、業務分担、評価の設計が曖昧だと、現場不満と本人不満が同時に噴き出します。厚生労働省の両立支援資料は、制度の個別周知や意向確認だけでなく、職場環境づくりや両立支援の実務的ツール整備を企業向けに示しています。使用者側としては、復帰時面談を行い、勤務可能時間、残業可否、送迎事情、在宅勤務の可否、業務の優先順位を明示し、管理職にも共有しておくべきです。

ここで見落としやすいのが、ハラスメント問題との接続です。妊娠・出産や育休申出に対して、嫌味、取得抑制、配置上の圧力、評価への示唆などがあると、単なる人事運用ではなく、マタハラ・育休ハラスメントの問題になります。制度上は利用を認めていても、現場で「本当に取るのか」「迷惑だ」「復帰後は責任ある仕事は無理だろう」といった言動が横行していれば、会社としての対応不備が問われやすいです。厚生労働省が不利益取扱いの禁止とあわせて、相談体制や雇用環境整備を重視しているのはこのためです。

使用者側の実務としては、少なくとも次の順序で整えるのが安全です。第一に、妊娠・出産・育休等の申出を受けた際の個別周知・意向確認フローを決めること。第二に、代替要員や業務引継ぎを含む部署対応の手順を定めること。第三に、評価・配置・昇進判断が制度利用と混同されないよう記録を残すこと。第四に、復帰時面談と復帰後の就業条件整理を標準化すること。第五に、管理職向けに不利益取扱い禁止とハラスメント防止の教育を行うことです。これらは、単に法令違反を避けるためだけでなく、制度利用者と現場双方の不満を小さくし、職場運営を安定させるためにも必要です。

要するに、妊娠・出産・育児休業対応における使用者側の核心は、制度を認めることではなく、制度利用を理由とする不利益取扱いを避けながら、復帰後まで見据えた運営を作ることにあります。申出時の個別対応、評価・配置の記録化、復帰時の条件整理、管理職教育まで整っている会社ほど、この分野の紛争は起きにくくなります。逆に、制度はあるが運用が属人的で、現場に任せきりの会社では、法令違反と職場不満が同時に生じやすいです。使用者側労働法務としては、育休取得の可否ではなく、取得前・取得中・復帰後を通じた一貫運用を設計できているかを問うべきです。

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