第18講 復職可否はどう判断するか|主治医意見、産業医意見、配置可能性の検討
第18講
復職可否はどう判断するか|主治医意見、産業医意見、配置可能性の検討

復職可否の判断で使用者側が最も避けるべきなのは、診断書の「復職可」という一文だけで結論を出すことです。メンタルヘルス不調からの復職は、治療上の回復と、職場で求められる業務遂行能力の回復とが必ずしも一致しません。厚生労働省の「職場復帰支援の手引き」も、主治医の判断は日常生活における病状の回復を基礎にしていることが多く、必ずしも職場で必要な業務遂行能力まで回復しているとは限らないと明示しています。さらに、事業者は休業開始から復職後フォローまでを含む支援プログラムを整備することが重要だとされています。
その前提として、会社には労働者が安全に働けるよう必要な配慮をする義務があります。したがって、復職判断は「戻したいかどうか」という経営感覚だけで決めるものではなく、安全配慮義務の一環として、無理なく働ける状態か、再燃や悪化の危険が高くないかを見極める作業になります。復職を急ぎすぎて悪化させても、逆に十分な検討なく復職を引き延ばしても、どちらも問題になり得ます。
まず主治医意見の位置づけですが、これは重要な出発点です。ただし、主治医は治療の専門家であり、職場の具体的業務、配置、人員体制、通勤負荷、残業の有無などを十分に把握していないことがあります。厚生労働省の手引きは、主治医による復職可能判断の段階で、産業医等による精査や主治医への情報提供を組み合わせることを予定しています。つまり、会社側は主治医意見を尊重しつつも、そのまま受け取るだけではなく、業務内容や職場条件を補足して判断材料を整える必要があります。
ここで意味を持つのが産業医意見です。厚生労働省の両立支援ガイドラインでは、主治医の意見を産業医等に提供し、職場で必要とされる業務遂行能力等を踏まえた職場復帰の可否に関する意見を聴取し、本人の意向や復帰予定部署の意見も踏まえて総合判断する流れが示されています。産業医は、単に病名の重さをみるのではなく、その人がどの業務ならどの程度こなせるか、どの配慮があれば就業可能かを職場側に引き寄せて評価できる立場です。
したがって、使用者側の実務では、主治医意見と産業医意見を対立的に捉えるべきではありません。主治医は治療面、産業医は就業面を中心にみる。両者の視点をつなぐために、会社側が業務内容、勤務時間、通勤、対人負荷、配慮可能な範囲を整理して提示することが必要です。主治医からの情報が十分でない場合、厚生労働省は、本人の同意を得たうえで追加情報を収集することも想定しています。
復職判断では、配置可能性の検討も不可欠です。復職可否は「元の職場・元の業務に即時フルタイムで戻れるか」だけで決まるものではありません。厚生労働省の資料は、配置転換も含めて職場復帰の可否を判断すること、必要に応じて職場復帰支援プランを作成することを示しています。つまり、元の業務にそのまま戻すのが難しくても、短時間勤務、軽減業務、残業禁止、対人折衝の少ない配置、段階的な業務復帰などで就業可能性があるなら、その選択肢を検討すべきです。
他方で、会社が必ずどこかに受け皿を作らなければならないというものでもありません。実際にどのような業務が存在し、どの程度の配慮が可能で、現場運営に無理がないかは会社ごとに異なります。だからこそ、使用者側では「配慮可能性がない」と結論づける前に、どの部署で、どの業務なら、どの条件なら受け入れられるかを具体的に検討し、その検討経過を記録しておくべきです。後で争いになったとき、「元職復帰が無理だった」だけでは弱く、「他配置や軽減措置も含めて検討したが、現実に受け入れ可能な業務がなかった」と示せるかが差になります。これは厚生労働省が復帰予定部署の意見聴取や支援プラン策定を重視していることとも整合します。
復職可否の判断手順としては、①本人から復職意思と診断書を提出させる、②主治医意見の不足部分を確認する、③産業医等の意見を聴く、④本人の意向を確認する、⑤復帰予定部署の受入可能性と配慮内容を聴取する、⑥必要なら配置転換や段階的復帰案を作る、⑦最終判断を記録化する、という流れが安全です。これは厚生労働省の手引きや両立支援ガイドラインが示す流れに沿っています。
また、復職判断は一度の会議で終わるものではありません。厚生労働省は、職場復帰後のフォローアップまで含めた5ステップを示しており、復職後も経過観察や業務調整が必要であることを前提にしています。したがって、会社としては、復職決定書面、配慮内容、面談頻度、残業制限、再受診ルールなどを整理しておく方が安全です。
要するに、復職可否の判断で会社がみるべきなのは、病名や診断書の文言それ自体ではなく、当該労働者が、当該職場で、どの条件なら、安全に、継続して就労できるかという一点です。主治医意見は出発点、産業医意見は就業面の補強、配置可能性の検討は会社側の役割です。この三つを噛み合わせずに復職を決めると、戻しても事故、戻さなくても紛争になりやすい。使用者側労働法務としては、「復職可」の紙を見るのではなく、「復職後の就労像」を具体的に描けるかを基準に判断すべきです。