脳脊髄液減少症と損害賠償請求 ――診断や因果関係が争点となりやすい傷病について

交通事故や転倒事故などの後、頭痛、めまい、耳鳴り、倦怠感、集中力低下といった症状が長く続くことがあります。その中で問題となることがあるのが、脳脊髄液減少症です。
脳脊髄液減少症は、脳や脊髄の周囲を満たしている脳脊髄液が漏出し、減少することで、様々な症状を生じるとされる疾患概念です。日本では篠永正道医師らによって提唱され、一定の臨床的広がりを持つ一方で、国際疾病分類には記載がなく、現在も診断や評価をめぐって慎重な検討を要する分野です。
この傷病に対する治療として知られているのが、ブラッドパッチです。正式には硬膜外自家血注入療法といい、患者自身の血液を硬膜外に注入することで、脳脊髄液の漏出部位を閉鎖し、症状の改善を図る治療法です。なお、平成28年4月からは、このブラッドパッチ治療が保険適用となっています。
もっとも、法律実務の場面では、脳脊髄液減少症が問題となる事案は、必ずしも単純ではありません。
争点になりやすいのは、主として次のような点です。
第一に、事故と症状との因果関係です。
事故前にはなかった症状が、事故後に継続して現れているとしても、その症状が本当に事故によるものか、他の原因によるものではないかが争われることがあります。
第二に、診断の信用性や医学的裏付けです。
画像所見、診療経過、症状の推移、ブラッドパッチの実施状況やその効果などを、丁寧に積み上げていく必要があります。
第三に、後遺障害や損害額の評価です。
症状が仕事や日常生活にどの程度の支障を与えているのか、治療費、休業損害、慰謝料、逸失利益などをどのように主張・立証するかが重要になります。
脳脊髄液減少症は、症状自体が見えにくく、周囲に理解されにくいことも少なくありません。そのため、被害者の方が「つらさが伝わらない」「保険会社に十分評価してもらえない」と感じる場面もあります。こうした事案では、医学的資料を整理したうえで、法的観点から適切に主張を組み立てることが重要です。
当事務所でも、現在、脳脊髄液減少症が問題となる案件が1件係属中です。事故後に原因不明の体調不良が続いている、治療や症状について十分に理解してもらえない、損害賠償請求の見通しを知りたいという場合には、早めにご相談ください。