第14講 解雇・雇止めの前に考えるべきこと|“辞めてもらう”の法的リスク
第14講 解雇・雇止めの前に考えるべきこと|“辞めてもらう”の法的リスク

中小企業の現場では、「もう辞めてもらうしかないのではないか」という相談は少なくありません。もっとも、法律上、使用者が一方的に労働契約を終了させる解雇は、かなり強い規制を受けています。無期雇用であれば、解雇は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合には権利濫用として無効になりますし、有期雇用であれば、契約期間の途中解雇はやむを得ない事由がなければできません。さらに、更新を重ねてきた有期契約などでは、雇止めであっても一定の場合に無効となり、従前と同一条件で更新されたものとみなされることがあります。つまり、会社が考える「辞めてもらう」は、法的には解雇なのか、契約期間途中の解雇なのか、雇止めなのかをまず切り分けないといけません。
まず無期雇用の解雇で大事なのは、「問題がある」という抽象評価では足りず、どんな事実があり、その事実に対して会社がどこまで対応してきたかが問われることです。厚生労働省も、勤務態度の問題や業務命令違反などを理由にする場合でも、労働者の落ち度の程度、行為の内容、会社への影響、やむを得ない事情の有無など、さまざまな事情を踏まえて最終的に判断されると説明しています。したがって、実務上は、いきなり「解雇ありき」で進めるより、注意指導、配置の見直し、改善機会の付与、指導記録の積み上げを先に行う方が安全なことが多いといえます。これは解雇の有効性が総合判断になる以上、自然な帰結です。
次に、有期雇用は「期間があるのだから切りやすい」と誤解されがちですが、むしろ期間途中の解雇は無期雇用より厳しく見られやすい場面があります。労働契約法17条は、有期労働契約について、やむを得ない事由がある場合でなければ契約期間満了までの間に解雇できないと定めています。したがって、「合わないから途中で切る」「期待したほど働かないからすぐ終了させる」という発想は危険です。有期契約の途中で終了させたいなら、まず本当に途中解雇が必要な事情があるのか、合意退職や業務内容の調整で対応できないのかを検討すべきです。
さらに、期間満了時の雇止めも、自動的に自由とはいえません。厚生労働省は、過去に反復更新された有期契約で、その雇止めが無期契約の解雇と社会通念上同視できるもの、または労働者に更新期待について合理的理由があるものでは、更新拒絶に客観的合理性と社会通念上の相当性がなければ、雇止めは認められず、従前と同一条件で更新されたものと扱われると案内しています。更新回数、仕事内容、更新手続、他の労働者の更新状況などが判断要素になり得るため、会社としては「有期だから満了で終わり」と短絡しない方がよい場面が多いです。
また、解雇を考える場面では、そもそも法律上できない解雇がある点も外せません。厚生労働省は、主な例として、業務上の傷病による休業期間とその後30日間、産前産後休業期間とその後30日間の解雇制限を挙げています。加えて、労基署への申告を理由とする解雇や、労働組合活動、妊娠・出産、育児介護休業の取得等を理由とする解雇には別の法規制もかかり得ます。したがって、問題社員対応の延長線上で解雇を考えていても、その人が今どんな保護場面にあるのかを先に点検する必要があります。
手続面でも見落としがちなのが、解雇予告です。やむを得ず解雇を行う場合でも、原則として30日前の予告、または30日分以上の平均賃金の支払いが必要です。さらに、労働者は、解雇の予告を受けた日から退職日までの間に解雇理由証明書を請求でき、退職時にも退職事由を含む証明書を請求できます。つまり、会社としては、解雇理由を後から曖昧に書き換えるのではなく、その時点で説明可能な理由として整理しておく必要があるわけです。なお、解雇予告除外認定は予告手当の例外に関する手続であって、民事上の解雇の有効性そのものを保証するものではないと厚生労働省資料でも説明されています。
実務的にいえば、解雇・雇止めの前に会社が考えるべきことはかなり明確です。
その終了が、無期雇用の解雇なのか、有期契約途中の解雇なのか、期間満了による雇止めなのか。
就業規則や雇用契約書に根拠はあるのか。
注意指導や改善機会をどこまで与え、どこまで記録化しているのか。
本人の言い分や事情聴取をしているか。
別の配置や業務調整で回避できないのか。
30日予告や理由証明の準備はできているか。
こうした点を飛ばして「辞めてもらう」だけを先に決めると、後で解雇無効、地位確認、未払賃金請求といった形で、会社側の負担が大きくなりやすいです。これは条文と厚労省の整理からみた、かなり実務的な教訓です。
結局のところ、解雇・雇止めでいちばん危ないのは、「会社としては当然だ」と思っていることです。法律は、会社の不満の強さではなく、理由の合理性、処分の相当性、契約類型、更新期待、手続の適正を見ます。だからこそ、解雇や雇止めは、感情で決めるのではなく、事実と記録で組み立てる必要があります。中小企業法務では、解雇の巧拙よりも、解雇しなくて済むところまで整理したか、それでもなお終了が必要かを詰めたかが勝負になることが多いのです。
まとめ
無期雇用の解雇は、客観的合理性と社会通念上の相当性を欠けば無効となります。有期雇用の期間途中解雇には「やむを得ない事由」が必要で、期間満了時の雇止めでも、更新期待が法的に保護される類型では、合理性と相当性を欠く更新拒絶は認められません。
また、業務上傷病による休業期間や産前産後休業期間など、法律上解雇が制限される場面があります。解雇には原則30日前予告または30日分以上の平均賃金が必要で、労働者から請求があれば解雇理由証明書等の交付も必要です。
したがって、会社が解雇・雇止めの前に本当に考えるべきことは、「辞めてもらえるか」ではなく、契約類型、根拠規程、記録、改善機会、手続を踏まえてもなお終了が適法に説明できるかです。そこを飛ばすと、解雇はむしろ会社側の大きな法的リスクになります。