第8講 財産分与の基本|預金・保険・退職金・住宅ローンをどう分けるか

第8講 財産分与の基本|預金・保険・退職金・住宅ローンをどう分けるか

離婚で特に誤解が多いのが、財産分与です。
「名義が夫だから妻は取れない」「専業主婦だったから半分は無理」「住宅ローンが残っている家は分けようがない」といったイメージを持たれている方も少なくありません。けれども、財産分与は、単に名義で機械的に決まる話ではありません。裁判所は、財産分与を「夫婦が婚姻中に協力して取得した財産を、離婚する際または離婚後に分けること」と説明しています。法務省も、夫婦の協力によって形成された財産であれば、名義人にかかわらず財産分与の対象になると案内しています。

また、法務省は、財産分与は夫婦財産の清算が基本でありつつ、離婚後生活の保障や、解決金・損害賠償的な要素も考慮しながら決められると説明しています。もっとも、実務でまず中心になるのは、やはり「婚姻中に築いた財産をどう清算するか」です。

第8講では、財産分与の基本構造を押さえたうえで、預金、保険、退職金、住宅ローン付き不動産をどう考えるかを整理します。
離婚の場面では感情が先に立ちやすいのですが、財産分与はかなり資料勝負です。だからこそ、最初に地図を持っておくことが大切です。

1 財産分与は「婚姻中に協力して築いた財産」を分ける手続である

財産分与の出発点はシンプルです。
夫婦が婚姻中に協力して取得し、または維持した財産を、離婚の際に清算するという考え方です。裁判所の案内でも、調停では「夫婦が協力して得た財産がどれくらいあるのか」「財産の取得や維持に対する夫婦双方の貢献の度合い」などを把握して話合いを進めるとされています。

ここで大切なのは、財産分与は「誰が働いていたか」だけで決まるものではないという点です。
専業主婦・専業主夫であっても、家事や育児を通じて他方の就労や財産形成を支えていたのであれば、その協力は財産形成への寄与として評価され得ます。裁判所の令和8年4月1日施行後の案内でも、寄与の程度が異なることが明らかでないときは相等しいものとされると明示されています。

2 名義が相手でも、それだけで対象外にはならない

財産分与で最も多い誤解の一つが、「名義が相手だから自分には関係ない」というものです。
しかし、法務省は、夫婦の協力によって形成された財産であれば、財産の名義人にかかわらず財産分与の対象になると説明しています。たとえば、婚姻中に夫の収入で土地建物を購入し、夫単独名義になっている場合でも、夫婦の協力で形成された財産であれば財産分与の対象になり得ます。

逆にいえば、名義が自分だから全部守れる、というものでもありません。
財産分与では、名義よりも「その財産が婚姻中の協力で形成・維持されたか」が重要になります。だからこそ、離婚事件では、通帳、不動産資料、保険証券、証券口座資料などを丁寧に集める必要があるのです。裁判所も、申立ての標準的添付書類として、不動産登記事項証明書、固定資産評価証明書、預貯金通帳写し、残高証明書などを挙げています。

3 共有財産と特有財産を分けて考える必要がある

もっとも、婚姻中に存在する財産が全部分与対象になるわけではありません。
実務では、まず共有財産特有財産を分けて考えます。共有財産は夫婦の協力で形成された財産で、特有財産は婚姻前から持っていた財産や、相続・贈与など夫婦の協力とは別に取得した財産を指す、という整理が一般的です。裁判所の提出書証案内でも、特有財産と主張するものについても資料提出が必要であり、そのことを裏付ける資料が必要だとされています。

つまり、「これは自分の固有財産だ」と言うだけでは足りません。
婚姻前からあった預金なのか、相続でもらったものなのか、どこまでが婚姻前部分でどこからが婚姻後部分なのかを、資料で区別できることが重要です。財産分与では、対象財産に入るかどうか自体が最初の争点になることが少なくありません。

4 基準時はいつか――実務では「別居時」が大きな意味を持つ

財産分与では、「何を対象にするか」を決めるための基準時が重要です。
裁判所の実務資料では、清算的財産分与は夫婦の経済的協力関係が終了した時点、一般的には別居時を基準時とする考え方が示されています。また、別居前に離婚調停を申し立てた場合などには、夫婦関係が壊れた時として調停申立日が基準日になることもあるとされています。

この基準時はかなり大事です。
なぜなら、別居後に一方が預金を動かした、保険を解約した、株式を売却したといった場面で、「本来どの時点の財産を問題にするのか」が争いになるからです。裁判所の書証提出案内でも、財産によって評価時期が異なり、自分が主張する基準時が別居時と異なるなら、両時点の資料が必要になるとされています。

5 預金は「別居時の残高」が非常に重要になる

預金は、財産分与で最も基本的かつ揉めやすい項目です。
裁判所の資料では、預貯金について、通帳や取引履歴、残高証明などを別居時のものとして提出するよう案内されています。また、預貯金通帳は、表紙や表紙裏、定期・貯蓄のページまで含めて提出が必要とされています。

実務では、「今いくら残っているか」だけでなく、「別居時にいくらあったか」が重要です。
別居後に引き出されていれば、その使途や取得者が争点になります。横浜家裁の一覧表記載例でも、別居後に払い戻された現金について、生活費に使われたのか、管理下にある現金と評価すべきかが具体的に争点化しています。

ですから、離婚を意識した段階では、残高だけでなく、別居前後の動きが分かる通帳・履歴をきちんと確保しておくことが大切です。

6 保険は「解約返戻金」で考えるのが基本になる

生命保険や学資保険も、財産分与の対象になり得ます。
裁判所の提出書証案内では、生命保険・共済について、保険証券とともに、別居時の解約返戻金の証明書を提出するよう求めています。しかも、解約返戻金がない場合でも提出が必要で、保険証券記載の見込額では足りず、保険会社等への照会が必要とされています。

また、裁判所の実務資料では、預貯金や生命保険の解約返戻金は、基準時の金額とするのが一般的とされています。東京家裁系の資料でも、生命保険については基準時の解約返戻金額を評価額とするのが一般的だとされています。

つまり、保険は「将来いくらもらえるか」ではなく、まずはその時点で解約したらいくら戻るかで考えるのが実務の基本です。
学資保険のように子どものための性格が強い保険でも、形式的には解約返戻金額が一覧表に載ることがあり、そのうえで対象性や扱いを争うことがあります。

7 退職金は「まだもらっていなくても」問題になることがある

退職金も、離婚事件では重要な財産です。
裁判所の資料では、退職金について、別居日に自己都合退職したと仮定した場合に支払われる金額が分かる資料、たとえば勤務先作成の退職金証明書や退職金規程などの提出が求められています。横浜家裁の審理資料でも、基準時に自己都合退職した場合の金額を示す勤務先作成の計算書や退職金規程等の提出が一般的とされています。

そして、婚姻前の勤務期間がある場合には、その部分をどう扱うかも問題になります。
裁判所資料でも、婚姻前の勤務期間がある場合には、勤務開始時期を明らかにするよう求めています。つまり、退職金の全部が当然に対象になるのではなく、婚姻期間に対応する部分がどこまでか、という議論が出てくるわけです。

退職金は「まだ支給されていないから関係ない」と思われがちですが、そう単純ではありません。
将来性の高い退職金請求権が現実的に見込める場合には、離婚時点での財産分与の中で問題となることがあります。

8 住宅ローン付き不動産は「家」と「借金」をセットで見る

自宅不動産は、感情面でも金額面でも最も揉めやすい項目です。
裁判所の各種財産目録や一覧表の資料でも、不動産と住宅ローンは関連付けて記載することが求められており、住宅ローンについては不動産との関連を明記するよう案内されています。札幌家裁の書証提出案内でも、住宅ローンの償還表または残高証明書を別居時の資料として提出するよう示されています。

この点が大切なのは、家だけ見て「資産がある」と考えると誤るからです。
自宅に価値があっても、住宅ローン残高がそれを上回っていれば、実質的にはプラス財産ではないことがあります。横浜家裁の一覧表記載例でも、マンションの査定価額と住宅ローン残高を並べて整理する形が示されています。

したがって、住宅ローン付き不動産は、
不動産の現在価値、
別居時または基準時のローン残高、
誰が住み続けるのか、
名義と連帯保証の関係、
をまとめて考える必要があります。
「家をもらう」「ローンだけ相手が払う」といった単純な話では済まないのが通常です。

9 不動産の評価は「別居時の存在」と「現在の時価」を分けて考えることがある

不動産については、対象となるかどうかと、いくらで評価するかが少しずれます。
大阪家裁の資料では、不動産は基準日に存在したものが財産分与の対象となる一方、分与の際は現物分与の可能性があるため、現時点の時価で評価するとされています。神戸家裁資料でも、住宅ローンや居住状況との関係で、基準日で評価する場合も、離婚時に近い時点で評価する場合もあり得るとされています。

このため、不動産は「別居時の家なのだから別居時の値段で固定」とは限りません。
資料としては、登記事項証明書、固定資産評価証明書、必要に応じて査定書などが重要になります。裁判所の提出書類案内もそのように整理しています。

10 資料を出せる人が強い

財産分与は、結局のところ資料の世界です。
裁判所の案内でも、申立て時の標準的添付書類として、不動産登記事項証明書、固定資産評価証明書、預貯金通帳写し、残高証明書などが示され、各家裁の実務資料でも、保険の解約返戻金証明、退職金資料、住宅ローン残高証明、株式の評価資料などの提出が求められています。

言い換えると、離婚で「財産はたぶんあるはずだ」と思っていても、資料がなければ話は進みにくいです。
そのため、離婚を考え始めた段階では、通帳、不動産資料、保険証券、ローン関係書類、退職金関係資料、証券口座資料などをできるだけ確保しておくことが重要です。

11 いつまで請求できるのか――今は特に日付に注意が必要である

財産分与は、離婚後ならいつまでも請求できるわけではありません。
2026年3月28日現在の裁判所案内では、離婚後に話合いがまとまらない場合、離婚の時から2年以内に家庭裁判所に調停または審判を申し立てることができるとされています。ところが、裁判所は同じページで、令和8年4月1日施行後は、離婚した日の翌日から起算して5年とする新制度を案内しています。つまり、今はちょうど制度の切替直前です。

この点は時期で結論が変わるので、かなり重要です。
今の時点で一般論として語るなら、現在はまだ2年ルールだが、2026年4月1日以降は5年ルールに変わる、という理解が安全です。

12 まとめ

第8講のまとめです。
財産分与は、夫婦が婚姻中に協力して取得・維持した財産を離婚時または離婚後に分ける制度であり、名義だけで決まるものではありません。夫婦の協力で形成された財産であれば、相手名義でも対象になり得ます。預金は別居時の残高が重要で、保険は基準時の解約返戻金、退職金は別居時に自己都合退職したと仮定した金額、不動産は基準日に存在したものを現在の時価で評価することがあり、住宅ローンは不動産とセットで整理する必要があります。請求期限は、2026年3月28日現在は2年ですが、2026年4月1日からは5年に変わる予定です。

財産分与で本当に大切なのは、「感覚的に不公平だ」と思うことだけではなく、
何が対象財産か、
いつの時点で、
いくらと評価するのか、
それを何の資料で裏付けるのか、
を順に整理することです。
離婚の場面では感情が強く動きますが、財産分与はかなり地味で、かなり資料的です。だからこそ、早めに一覧化しておくことが、その後の交渉や調停を安定させます。

次回は、**「名義が相手でも分けられる?|共有財産と特有財産の見分け方」**を取り上げます。
第8講では全体像を扱ったので、次は「どこまでが共有で、どこからが特有か」をもう一段細かく整理します。

第9講に進めます。
今回は「名義」と「財産の出どころ」がずれやすい回なので、共有財産と特有財産の整理だけ現行の裁判所・法務省情報で合わせてから、本文化します。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA