第12講 賃貸借物件の処理|事務所・店舗・工場をいつどう明け渡すか

第12講 賃貸借物件の処理|事務所・店舗・工場をいつどう明け渡すか

法人破産において事務所、店舗、工場、倉庫等の賃貸借物件が存在する場合、実務上の中心課題は、賃料の発生をどこで止めるか、物件をどの状態で返還するか、そしてその間に存在する財産や資料をどう回収・保全するか、という三点に集約される。賃貸借物件は、破産会社にとって事業の拠点である一方、破産手続開始後は急速に「費用の発生源」に転化する。とくに賃料滞納が既に進行している場合、賃貸人との関係は感情的にも悪化していることが多く、明渡しが遅れるほど、賃料相当損害金、原状回復、残置物処理費用、鍵交換費用等をめぐる紛争が拡大しやすい。

もっとも、破産開始決定があったからといって、直ちにすべてを放棄して立ち去れば足りるわけではない。賃貸物件内には、帳簿、印章、契約書、PC、在庫、什器備品、個人私物、廃棄予定物などが混在しているのが通常であり、これらを整理しないまま明渡しを急ぐと、財団財産の散逸、証拠資料の喪失、従業員私物との混同、リース物件や他人物との誤処理といった二次的問題を生じる。したがって、管財人としては、単に「いつ退去するか」を決めるのではなく、「何を持ち出し、何を残し、何を廃棄対象とし、その費用をどう位置づけるか」を段階的に整理しなければならない。

また、賃貸借処理では、保証金・敷金の存在がしばしば問題となる。賃借人側から見れば、保証金返還請求権は破産財団に属し得る有力な財産であるが、現実には未払賃料、原状回復費用、残置物撤去費用等との充当により、大きく目減りし、場合によっては全く戻らないこともある。ここで重要なのは、賃貸人の主張をそのまま受け入れるのでも、反射的に争うのでもなく、契約条項、明渡時の現況、通常損耗との区別、見積書の相当性等を踏まえ、返還額の有無を冷静に査定することである。原状回復条項が広く書かれていても、すべてが当然に財団負担となるわけではなく、逆に、破産会社側の使用状況が著しく悪い場合には一定の負担を免れない。

工場や店舗の場合には、さらに設備の取り外し、看板撤去、配線・配管、危険物保管、産業廃棄物処理、近隣説明等が絡み、単なる「明渡し」よりもはるかに重い事務となることがある。そのため、賃貸借物件の処理は、法律論だけで完結せず、現場実査、関係者立会い、工程管理の要素を強く持つ。管財人としては、賃貸人との交渉において、対立を前提としすぎるのではなく、返還時期と返還状態を具体化することにより、不要な費用膨張を防ぐ視点が重要である。賃貸借の処理は、法人破産における「早く片づけるべき論点」であると同時に、「急ぎすぎると財団を傷める論点」でもある。

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