第10講  年次有給休暇の管理実務|時季指定義務と時季変更権をどう使うか

第10講
年次有給休暇の管理実務|時季指定義務と時季変更権をどう使うか

年次有給休暇は、使用者側にとって「与えるかどうか」を選べる制度ではありません。法定要件を満たした労働者には当然に発生し、会社はその取得を適切に管理しなければなりません。近年は、年5日の時季指定義務も導入され、有給休暇管理は単なる福利厚生の問題ではなく、法令遵守の中核課題になっています。労働基準法39条は、付与日数、出勤率要件、計画的付与、時季指定義務などを定めています。(elaws.e-gov.go.jp)

年休実務でまず押さえるべきは、年休は原則として労働者の請求する時季に与えなければならないという点です。使用者には一定の場合に時季変更権がありますが、それは「事業の正常な運営を妨げる場合」に限られます。単に忙しい、代わりがいない、みんなが取り始めると困る、といった抽象的事情だけで常に拒めるわけではありません。時季変更権は便利な管理権限ではなく、例外的な調整手段として理解すべきです。厚生労働省も、年休取得の原則や時季変更権の考え方を案内しています。(mhlw.go.jp)

また、2019年以降、年10日以上の年休が付与される労働者に対しては、会社が年5日について時季を指定して取得させる義務を負います。(mhlw.go.jp) ここで問題になるのは、現場任せにしていると、誰が何日取得したかを正確に把握できず、義務違反が起こりやすいことです。有給休暇管理簿の整備はもちろん、付与日、取得日数、残日数を一元管理する仕組みが必要です。

実務でよくあるのは、労働者が遠慮して年休を取らず、会社もあえて声をかけないまま、結果として5日取得義務を満たせなくなるケースです。また、計画年休制度を導入しているのに、個別取得との整理が曖昧で、年5日義務との関係が混乱している会社もあります。年休管理は、制度の存在以上に、誰がどの時点で管理責任を負うのかが重要です。人事だけでなく、現場管理職が取得状況を把握し、早期に調整できる体制を作る必要があります。

さらに、退職時の年休取得も紛争化しやすい論点です。退職予定者が残日数をまとめて取得したいと申し出る場合、時季変更権の行使は現実には難しいことが多く、対応を誤るとトラブルになります。こうした場面も含め、年休は「普段は取らせず、最後に揉める」制度にしないことが重要です。

使用者側の年休管理実務は、取得申請への対応、時季変更権の適切な理解、5日取得義務の履行、管理簿の整備、退職時対応まで含めた総合管理です。有給休暇は労働者の権利であると同時に、会社側の管理課題でもあります。年休を軽く扱う会社ほど、法令違反と現場不満が同時に蓄積しやすいことを理解すべきです。

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