第13講 懲戒処分の基本|戒告・減給・出勤停止・懲戒解雇の使い分け
第13講
懲戒処分の基本|戒告・減給・出勤停止・懲戒解雇の使い分け

懲戒処分は、会社が職場秩序を維持するために持つ重要な手段ですが、使用者側が最も「やり過ぎ」で無効を招きやすい領域の一つでもあります。実務では、問題行動があった以上、会社が何らかの処分をするのは当然だと考えがちです。しかし、法的には、懲戒は就業規則に根拠があり、その規定が周知され、かつ当該処分が行為の性質・態様その他の事情に照らして客観的合理性と社会的相当性を備えていなければなりません。厚生労働省のモデル就業規則解説でも、就業規則に定めのない事由による懲戒はできず、懲戒が合理性を欠き相当でない場合は懲戒権の濫用として無効になり得ると整理されています。
まず出発点として、懲戒の種類とその重さを会社側で整理しておく必要があります。一般には、軽いものから順に、戒告・けん責・譴責、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇などが設けられますが、法令上これらの名称や構成が一律に決まっているわけではありません。重要なのは、自社の就業規則の中で、どのような行為にどの程度の処分を対応させるのかが、段階的かつ一貫的に定められていることです。厚生労働省のモデル就業規則でも、減給・出勤停止と懲戒解雇を分けて定め、情状によりより軽い処分にとどめる余地を残す構成が採られています。
使用者側が外しやすい第一のポイントは、懲戒事由の定めです。問題社員対応の現場では、「服務規律違反だから懲戒できるだろう」と感覚的に進みがちですが、就業規則に懲戒根拠がなければ危険です。常時10人以上の労働者を使用する事業場では、制裁に関する事項を定める場合、その内容を就業規則に記載しなければならず、就業規則を変更したときは届出も必要です。厚生労働省も、モデル就業規則や各労働局の資料で、懲戒規定を就業規則に明記することを強く求めています。
第二のポイントは、規則の周知です。懲戒規定が存在しても、それが労働者に周知されていなければ、適用自体が問題になります。厚生労働省の判例解説でも、就業規則が労働者に周知されていなかったことが問題となった裁判例が紹介されています。したがって、就業規則を作って棚に置いておけば足りるのではなく、社内イントラ、書面配布、閲覧体制などを通じて、いつでも確認できる状態にしておく必要があります。懲戒処分の場面で初めて規程を持ち出すような運用は極めて危ういです。
第三のポイントは、相当性です。たとえば遅刻数回で直ちに懲戒解雇、軽微な私語で長期出勤停止、初回のミスで降格といった処分は、事由の存在それ自体とは別に、重すぎるとして無効となる可能性があります。懲戒は、当該行為の内容だけでなく、故意か過失か、初回か反復か、注意指導歴があるか、会社への影響はどの程度か、本人の反省状況はどうか、同種事案での過去処分との均衡はどうか、といった事情を総合して決める必要があります。厚生労働省のモデル就業規則解説でも、過去の同種事例における処分内容等を考慮して公正な処分を行う必要があるとされています。
第四のポイントは、減給処分の上限です。使用者側実務でしばしば見落とされるのがここです。労働基準法91条は、減給の制裁について、1回の額が平均賃金の半額を超えてはならず、複数回にわたる場合でも総額が一賃金支払期における賃金総額の10分の1を超えてはならないとしています。これは懲戒としての減給の法的上限であり、会社の裁量で自由に決められるものではありません。厚生労働省・各労働局の資料でもこの制限は明確に説明されています。
第五に、懲戒解雇と普通解雇を混同しないことが重要です。懲戒解雇は、企業秩序違反に対する最も重い制裁であり、単に能力不足や適性不足といった事情だけでは通常足りません。無断欠勤の継続、重大な経歴詐称、重大な命令違反、横領や背任など、就業規則上の懲戒解雇事由に該当し、かつ他の軽い処分では足りないといえるだけの重さが必要です。厚生労働省のモデル就業規則でも、懲戒解雇事由を別建てで定めつつ、情状によっては普通解雇や減給・出勤停止にとどめる余地を残しています。使用者側としては、「辞めさせたいから懲戒解雇」という発想ではなく、「最重処分に相当するほどの規律違反か」を先に検討すべきです。
実務運用としては、懲戒の前段階にある事実調査と聴聞も極めて重要です。会社が事実関係を十分に確認せず、一方的な申告だけで処分を決めると、後から事実認定の甘さ自体が問題になります。ハラスメント事案、情報持出し、経費不正、職場秩序違反などでは、関係者ヒアリング、客観資料の収集、本人への弁明機会付与を経て、処分理由を特定しておく必要があります。就業規則に懲戒委員会や弁明手続を定めている場合は、その手続を飛ばすこと自体が不利に働きます。法令上すべての懲戒に一律の聴聞義務が明文化されているわけではありませんが、使用者側防御の観点からは、手続の丁寧さが相当性判断に強く影響します。
結局のところ、懲戒処分で会社が押さえるべき軸は四つです。第一に、就業規則に根拠があること。第二に、その規則が周知されていること。第三に、当該行為に対して処分の重さが均衡していること。第四に、事実調査と本人対応を含む手続が雑でないことです。この四点が揃って初めて、戒告・減給・出勤停止・懲戒解雇の使い分けが安定します。逆に、ルールも曖昧、記録も乏しい、手続も飛ばす、でも処分だけ重い、という会社では、懲戒は秩序維持の手段ではなく紛争の火種になります。使用者側労働法務としては、「処分できるか」ではなく、「その処分を後で説明し切れるか」を基準に考えるべきです。