第4講 後継者候補をどう見極めるか|「身内だから」では決められない理由
第4講
後継者候補をどう見極めるか|「身内だから」では決められない理由

中小企業の事業承継では、「誰に継がせるか」を考える段階で、つい「身内だから」「長く会社にいるから」「本人も嫌とは言っていないから」といった事情で話が進みがちです。しかし、実際には、後継者候補の見極めこそが事業承継の成否を左右する核心部分の一つです。事業承継は、会社の看板や肩書を渡す作業ではなく、会社の将来を託せる人間かどうかを見極める作業だからです。しかも中小企業では、後継者に求められる役割が広く、単に業務に詳しいとか、オーナーの子であるとかいうだけでは足りません。後継者候補の見極めを誤ると、承継後に経営が停滞するだけでなく、従業員の不安、取引先の離反、金融機関との関係悪化、親族間の対立といった複数の問題が一気に表面化することがあります。
そもそも、中小企業の後継者に求められるのは、単なる「社長になる意思」ではありません。まず必要なのは、会社を引き受ける覚悟です。会社経営は、うまくいっているときだけ表に立てばよいものではなく、資金繰りが苦しいとき、クレームや不祥事が起きたとき、重要な人材が辞めたときに、最終責任を負って判断しなければなりません。中小企業では、その負担がオーナー個人に集中しやすく、場合によっては個人保証の問題も絡みます。したがって、後継者候補に必要なのは、「継いでもよい」という程度の曖昧な姿勢ではなく、会社の重みを引き受ける意思があるかどうかです。親に言われたから、周囲が期待しているからというだけでは、いざというときに踏ん張れないことがあります。
次に重要なのは、その人に経営者としての適性があるかという点です。ここでいう適性は、頭がよいとか、人当たりがよいといった抽象的なものだけではありません。たとえば、数字を見て現状を把握できるか、決断を先送りしすぎないか、部下に任せるべきところと自分で抱えるべきところを区別できるか、厳しい局面でも感情に流されず判断できるか、といった点が問われます。現場で優秀な社員であることと、会社全体の最終責任を負う経営者になれることは別問題です。営業成績がよい、技術に詳しい、創業者の子であるといった事情は、それだけで経営者適性を基礎付けるものではありません。後継者候補を見るときは、「今の役割をうまくこなしているか」ではなく、「最終責任者として会社全体を見渡せるか」という視点が必要です。
また、後継者候補が社内外の信頼を得られるかどうかも極めて重要です。中小企業では、経営者個人が会社の信用そのものになっていることが少なくありません。金融機関との交渉、主要取引先との関係、社内での求心力などは、制度よりも人物への信頼によって支えられている部分があります。そのため、後継者候補に能力があったとしても、従業員がついてこない、取引先が不安を抱く、金融機関が慎重になるということは十分にあり得ます。とりわけ親族内承継では、「社長の子だから継ぐのだろう」と形式的には受け止められても、実際には周囲がその人物をまだ経営者として見ていないことがあります。従業員承継でも、優秀な幹部であることと、全員を率いる立場として納得されることは別です。後継者候補の見極めでは、本人の内在的能力だけでなく、周囲との関係の中で信頼が形成されるかを見なければなりません。
さらに、後継者候補を見極める際には、その人の「今」だけでなく、「育つ余地」があるかも重要になります。事業承継は、完全に成熟した経営者をどこかから連れてくる作業ではなく、候補者を一定期間かけて育てながら実権を移していく過程であることが多いからです。そのため、現時点で完璧ではなくても、学ぶ姿勢があるか、他人の意見を聞けるか、失敗から修正できるか、少しずつ判断の幅を広げられるかといった要素は大きな意味を持ちます。逆に、現段階では業務に精通していても、他人の助言を聞かない、苦手な分野を放置する、自分の限界を認めないというタイプは、承継後に失速するおそれがあります。後継者候補を見るときには、「今どこまでできるか」だけでなく、「これからどこまで伸びるか」という観点も不可欠です。
この点で、親族内承継には独特の難しさがあります。オーナーとしては、自分の子に会社を継いでもらいたいという思いを持ちやすく、それ自体は自然です。しかし、親子関係があるために、評価が甘くなったり、逆に厳しすぎたりすることがあります。子どもが会社にいるだけで「そのうち継ぐだろう」と周囲が思い込み、本人の意思確認や適性判断が曖昧なまま時間が過ぎることも少なくありません。また、本人もまた、親の期待に引きずられて本音を言えないことがあります。身内だからこそ率直に話しにくく、身内だからこそ客観的な評価が難しいのです。したがって、親族内承継を考える場合ほど、「子だから」ではなく、「会社を託せる人物か」という視点を意識的に持つ必要があります。
従業員承継でも、別の意味で同じ問題があります。長年会社を支えた幹部に対して、オーナーが強い信頼や恩義を感じることは自然です。しかし、「忠実だった」「長く頑張ってくれた」ということと、経営者として適任かどうかは別問題です。補佐役としては優秀でも、最終判断を引き受ける立場になると迷いやすい人もいますし、部門責任者としては有能でも、会社全体を横断的に見るのが苦手な人もいます。また、本人に経営者となる覚悟があっても、株式取得資金や家族の理解、社内の受け止めなど、周辺条件が整わなければ承継は安定しません。従業員承継では、人物評価に加えて、実際に承継可能な環境があるかどうかも含めて見極める必要があります。
では、後継者候補をどう見極めればよいのか。実務的には、いきなり結論を出すのではなく、一定の役割と責任を持たせながら観察することが有効です。たとえば、主要取引先との交渉を任せてみる、金融機関との面談に同席させる、採用や人事の判断に関与させる、部門単位ではなく会社全体を見た計画策定を担わせる、といった形で、経営者に近い役割を段階的に経験させるのです。その過程で、数字への感覚、対人調整能力、決断力、困難な局面での態度などが見えてきます。後継者候補の見極めは、面接のように一度で済むものではなく、実際の責任を負わせながら判断していくほかありません。