第6講  自社株とは何か|中小企業で株式が特に重要になる理由

第6講
自社株とは何か|中小企業で株式が特に重要になる理由

中小企業の事業承継を考えるとき、実務上、最も重要なテーマの一つになるのが自社株です。もっとも、日常会話の中で「株」というと、上場会社の株式や投資対象としての株を思い浮かべることが多いため、中小企業オーナーの中には、「うちの会社の株など身内の中の話にすぎない」「会社を継がせるのだから、社長を替えれば足りるのではないか」と受け止めている方も少なくありません。しかし、中小企業において自社株は、単なる財産の一種ではなく、会社支配そのものを意味することが多いのです。事業承継において自社株が重要になるのは、株式の帰属がそのまま、誰が会社を動かせるのか、誰が最終的な決定権を持つのかという問題に直結するからです。

株式会社では、会社の所有と経営は本来別のものです。代表取締役が日々の業務執行を担うとしても、その前提には、株主総会による役員選任や、会社の基本的事項についての株主意思があります。上場会社のように株主が多数分散している会社では、この構造が抽象的に感じられるかもしれませんが、中小企業では事情が異なります。中小企業では、オーナーが株式の大半、あるいは全部を保有し、その人が代表取締役として経営も担っていることが多いため、会社の所有と経営が事実上重なっています。そのため、普段は「株主」と「社長」を区別して意識する機会があまりありません。しかし、事業承継の局面では、この二つをきちんと区別して考えないと、承継後の会社支配が不安定になります。社長を交代しても、自社株が後継者に移っていなければ、経営の土台が移ったとはいえないことがあるのです。

たとえば、現オーナーが代表取締役を退任し、子や役員を新代表に就けたとしても、株式を引き続き現オーナーが持ち続けている場合、法的にはなお現オーナーが会社支配の中核を握っていることになります。株主として役員選任に影響力を持ち、重要場面では会社の方向を左右できるからです。もちろん、段階的承継の一環として、しばらく株は旧オーナーが持ちつつ経営を移していくという設計自体はあり得ます。しかし、それが整理された方針に基づくものでなく、単に「とりあえず代表だけ替えた」という状態にとどまると、新しい経営者の権限が曖昧になります。従業員から見ても、取引先から見ても、「結局、最後に決めるのは誰なのか」が分からない状態となり、承継後の体制が定着しにくくなります。中小企業の事業承継では、役職の移行だけでなく、株式の帰属まで含めて設計しなければならないのはこのためです。

また、自社株は単なる支配権の問題にとどまらず、相続財産としての意味も持っています。中小企業オーナーにとって、自社株は個人資産の中で大きな割合を占めることが少なくありません。会社の業績が安定しているほど、自社株の評価額も高くなり、相続の場面では重要な財産になります。ここで問題になるのは、自社株をどう評価し、誰に承継させるかという点です。オーナーとしては、経営の安定のために、後継者に自社株を集中させたいと考えるのが自然です。しかし、自社株も相続財産である以上、他の相続人との関係を無視することはできません。遺言がない場合には相続人間で共有的な状態が生じることがありますし、遺留分との調整が必要になることもあります。つまり、自社株は、会社支配の問題であると同時に、親族間の財産承継の問題でもあるのです。この二つの性質が重なるために、自社株の扱いは事業承継において特に難しくなります。

さらに、中小企業の自社株には、市場で自由に売買される上場株式とは違う独特の性質があります。上場株式であれば、市場価格があり、売ろうと思えば一定の流動性があります。しかし、非上場の中小企業の株式は、基本的に外で簡単に売却できるものではなく、その価値も一義的には定まりません。しかも、会社にとっては重要な支配権の源泉である一方、相続人の中には「会社経営には関わらないが、財産としての価値は欲しい」と考える人も出てきます。このように、自社株は、持っている人にとっては会社支配の道具でありつつ、他方では相続財産として分ける対象にもなるため、承継設計を誤ると、経営権と財産権が衝突しやすくなります。事業承継において自社株が難しいのは、単に株数の問題ではなく、その背後に支配と相続の両面があるからです。

中小企業では、こうした自社株の問題が、長年曖昧にされたままになっていることも珍しくありません。現オーナーが「うちの会社は自分のものだ」という感覚で経営していても、実際には昔の増資で親族や役員に株が渡っていたり、創業時の名義がそのまま残っていたり、相続後の名義変更が済んでいなかったりすることがあります。平時にはそれで特に支障がないように見えても、事業承継の局面では、「後継者に株を集めたいのに、そもそも誰が株主なのかがはっきりしない」「相続人の一人が株式の権利を主張し始めた」「昔の株主が今さら存在感を持ち始めた」といった問題が一気に表面化します。自社株が重要なのは、理屈の上で会社支配に関わるからというだけでなく、現実にそこが最も揉めやすいポイントになりやすいからでもあります。

また、後継者の立場から見ても、自社株の帰属は極めて重要です。たとえば、後継者が代表取締役になったとしても、十分な株式を持っていなければ、会社の重要判断について常に旧オーナーや他の株主の意向を気にしながら経営しなければならなくなります。それでは、名目上は承継していても、実質的には独立した経営ができません。逆に、後継者が自社株を適切に取得し、会社支配の基盤を持つことができれば、金融機関や取引先に対しても「この人が本当に承継したのだ」というメッセージになります。事業承継において後継者が必要とするのは、肩書だけではなく、会社を動かす権限の裏付けであり、その中心にあるのが自社株なのです。

もちろん、自社株を後継者に移せばそれで全て解決するわけではありません。株式の移転方法には、贈与、売買、相続などがあり、それぞれ税務・資金・親族関係の問題がありますし、会社法上の定款設計や譲渡制限の確認も必要になることがあります。しかし、少なくとも出発点として押さえるべきなのは、自社株が「財産の一つ」ではなく、「会社支配の中核」であるということです。この理解が曖昧なままだと、事業承継はどうしても「社長の椅子を誰に渡すか」という表面的な話にとどまり、承継後の安定性を欠くことになります。

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