第9講 名義が相手でも分けられる?|共有財産と特有財産の見分け方

第9講 名義が相手でも分けられる?|共有財産と特有財産の見分け方

離婚の財産分与でいちばん混乱しやすいのは、「これは共有財産なのか、それとも特有財産なのか」という線引きです。
実際の相談でも、「夫名義の預金だから妻は請求できないのではないか」「妻名義の保険だから夫は触れられないのではないか」「親からもらったお金も半分になるのか」といった疑問がよく出ます。けれども、裁判所は、財産分与の対象となるのは婚姻中に夫婦の協力で得た財産であり、一方名義で取得した財産でも、実質的に夫婦の共有財産とみられる場合は対象になり得ると案内しています。反対に、婚姻前から各自が持っていたものや、婚姻中でも相続・贈与で取得したものなどは対象にならないと考えられています。

この回で大切なのは、名義ではなく、出どころと形成過程で見るという感覚です。
共有財産か特有財産かは、表札のような名義だけで決まるのではなく、その財産が婚姻中の協力で作られたのか、それとも婚姻前からあったのか、相続や贈与で入ったのかで整理していきます。裁判所の実務資料でも、婚姻中、基準時までに取得し基準時に存在した財産は、特段の事情がない限り名義を問わず対象となり、相続や贈与だから対象外だと主張する側が証拠で立証すべきだとされています。

1 共有財産とは何か

共有財産とは、離婚実務では、夫婦が婚姻中に協力して形成し、または維持してきた財産を指すのが基本です。
典型例は、婚姻中の給与から作った預金、婚姻後に購入した自宅不動産、婚姻中に積み立てた保険の解約返戻金、婚姻期間に対応する退職金相当額などです。裁判所は、財産分与の手続では、夫婦が協力して得た財産がどれくらいあるのか、取得や維持に対する双方の貢献がどの程度かを把握して進めると説明しています。

このため、たとえば夫だけが外で働いていて、妻が専業主婦だったとしても、直ちに「夫の収入だから全部夫のもの」とはなりません。
横浜家庭裁判所の実務資料でも、寄与割合は通常50%ずつとするのが一般的であり、異なる割合を主張するならその根拠の主張立証が必要だとされています。家事や育児を通じた支えも、財産形成への協力として実務では前提に置かれている、という理解でよいです。

2 特有財産とは何か

これに対して特有財産は、夫婦の協力によって形成されたとはいえない財産です。
裁判所のQ&Aでは、婚姻前から各自が所有していたもの、婚姻中でも一方が相続・贈与等により取得したもの、社会通念上一方の固有財産とみられる衣類や装身具などは、財産分与の対象にはならないと考えられるとされています。横浜家庭裁判所の資料でも、婚姻前に形成されていた財産や、婚姻後でも相続・贈与で取得した財産は、一般的には特有財産として財産分与の対象とならないと整理されています。

したがって、親から相続した現金、婚姻前から持っていた預金、結婚前に購入していた有価証券などは、まず特有財産の候補になります。
ただし、後で触れるように、特有財産そのものでも、婚姻中に共有財産と混ざったり、その管理運用に夫婦の協力が強く関わったりすると、どこまでが特有でどこからが共有かが争われることがあります。裁判所も、特有財産であるか否か自体が争点になることが多いので、取得時期や原因を主張立証するよう求めています。

3 「名義が相手だから無理」はかなり危ない思い込みである

離婚実務では、名義と実質がずれることが珍しくありません。
夫名義の預金でも、婚姻中の給与から蓄えたものであれば共有財産になり得ますし、妻名義の保険でも、婚姻中の家計から保険料を払っていれば対象に入り得ます。裁判所のQ&Aは、一方の名義で取得した財産であっても、実質的に夫婦の共有財産とみられる場合は対象になり得るとはっきり示しています。福井家裁の注意事項も、婚姻中、基準時までに取得し基準時に存在した財産は、特段の事情がない限り名義の如何を問わず対象になるとしています。

逆に、自分名義だから全部守れるとも限りません。
財産分与は「誰の通帳か」だけを見る手続ではなく、「何によって形成されたか」を見る手続です。そのため、通帳、保険証券、不動産資料、証券口座資料などを集めるときは、名義だけで仕分けるのではなく、婚姻中の収入や支出の流れの中で考える必要があります。裁判所も、申立ての標準的添付書類として、不動産登記事項証明書、固定資産評価証明書、通帳写し、残高証明書などの提出を案内しています。

4 典型的な共有財産の見分け方

共有財産の典型は、婚姻中の収入からできた財産です。
預金であれば、婚姻後に給与や事業収入から蓄えた部分、保険であれば婚姻中の保険料支払に対応する解約返戻金、退職金であれば婚姻期間に対応する部分が、まず共有財産の中心になります。岡山家裁の一覧表注意事項では、預貯金は基準時の残高、保険は基準時の解約返戻金、退職金は基準時自己都合退職額に婚姻から基準時までの期間割合を掛けた金額を記載するとされています。

自宅不動産も、婚姻後に購入し、家計や夫婦の信用力を背景に維持してきたものであれば、原則として共有財産の候補です。
もっとも、不動産は住宅ローンとセットで見なければならず、単純に「家の名義が夫だから夫のもの」とも、「家があるから資産が大きい」ともいえません。岡山家裁の資料では、不動産の評価額は現在時価を入れ、住宅ローン残高は別途負債欄に入力する形が示されています。

5 典型的な特有財産の見分け方

特有財産としてまず押さえやすいのは、婚姻前から持っていたものと、婚姻中でも相続・贈与で取得したものです。
たとえば、結婚前から持っていた1000万円の預金、親から単独で相続した現金、婚姻中に親族から単独贈与された有価証券などは、原則として特有財産の方向です。裁判所Q&Aと横浜家裁の資料は、いずれもその整理を明示しています。

ただし、ここで重要なのは、「特有財産らしい」と思う側が、その出どころを証明しなければならないという点です。
福井家裁の注意事項では、相続や贈与で得たから対象外だと主張する場合、そのように主張する側が証拠で立証する必要があるとされています。つまり、「親からもらったお金だったはずだ」という記憶だけでは足りず、贈与の経過が分かる振込記録、相続の資料、婚姻前残高が分かる通帳などが大切になります。

6 いちばん揉めるのは「混ざった財産」である

実務で本当に難しいのは、最初から真っ白に共有、真っ白に特有とはいえない財産です。
たとえば、婚姻前の預金を婚姻後の家計口座に入れてしまった場合、親からの援助金を住宅購入資金に入れた場合、相続した現金を婚姻中の投資口座に組み込んだ場合などです。岡山家裁の記載例でも、購入額の一部に妻の両親からの援助金が入っており、その割合について特有財産の主張をしている例が示されています。

この種の事案では、「全部共有」か「全部特有」かという二択ではなく、一部だけ特有部分を控除するという考え方が実務上かなり重要になります。
神戸家裁の記載の手引きでも、当該財産の形成が夫婦の同居開始前に始まっている場合は、同居期間に相当する部分のみが分与対象財産となると案内されています。つまり、形成過程が婚姻前から続いている財産は、婚姻期間対応部分だけを共有とみる処理があり得ます。

7 第三者名義でも安心はできない

名義の問題は、夫婦のどちらか名義にとどまりません。
子名義の預金など、第三者名義になっている財産でも、実質的には夫婦の一方が管理していて、婚姻関係財産として扱うべきものがあり得ます。岡山家裁の一覧表注意事項では、第三者名義の財産でも財産分与の対象となるものは、当該財産を管理している者の財産として表に入力するよう案内されています。

ですから、「子ども名義にしてあるから絶対に触れられない」という理解も危険です。
もちろん、本当に子の固有財産なら話は別ですが、離婚直前に名義だけを移したようなケースや、実質的には親が管理しているケースでは、実体を見て判断される余地があります。財産分与は名義より実質を見る、という原則がここでも表れます。

8 基準時を押さえないと、共有か特有かの議論もぶれる

共有財産と特有財産を見分けるには、いつの時点を基準にするかも大切です。
裁判所の実務資料では、対象財産を決める基準時は原則として、夫婦の経済的協力関係が失われた別居時とされています。横浜家裁の資料でも、一般的には別居時が基準時となると案内されています。

この基準時が大切なのは、別居後の出金や名義変更があるからです。
別居後に口座からお金が動いた、保険が解約された、株が売られたという場合でも、まず基準時に何が存在していたかを押さえないと、対象財産の議論そのものが曖昧になります。岡山家裁の資料でも、基準時に存在していた財産を入力し、その裏付け資料を付けるよう求めています。

9 結局、勝負は資料で決まる

共有財産と特有財産の区別は、理屈だけなら単純に見えますが、実際には資料がないとほとんど進みません。
婚姻前残高を示す通帳、相続や贈与の資料、保険の解約返戻金証明、退職金規程、不動産登記事項証明書、住宅ローン残高証明など、どれも地味ですが非常に重要です。裁判所は、財産分与の審理で必要に応じて資料提出を求めるとしており、各家裁の一覧表・注意事項もかなり具体的に資料の種類を指定しています。

特有財産を守りたい側も、共有財産を掘り起こしたい側も、やることは結局同じです。
「これは違う」と口で言うだけではなく、いつ取得し、何のお金でできて、基準時にいくらあったのかを出せるようにすることです。裁判所が一覧表を重視しているのも、そのためです。

10 まとめ

第9講のまとめです。
共有財産とは、婚姻中に夫婦の協力で形成・維持した財産であり、一方名義であっても実質的に夫婦共有なら財産分与の対象になり得ます。特有財産とは、婚姻前から持っていた財産や、婚姻中でも相続・贈与で取得した財産などで、原則として対象外です。ただし、対象外だと主張する側に証拠による立証が必要です。親の援助金、婚姻前預金の混入、相続財産の運用、子名義預金など、境目が曖昧なケースでは、一部だけ特有部分を控除する発想や、実質を見て判断する姿勢が重要になります。

要するに、名義ではなく、出どころと形成過程で見る
これが第9講の核心です。離婚の財産分与では、「誰の名前か」より「どうやってできた財産か」がずっと大事です。そこを資料で押さえられるかどうかが、共有財産と特有財産の線引きを左右します。

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