第29講 特別寄与料とは何か|相続人でない親族が介護していた場合

第29講

特別寄与料とは何か|相続人でない親族が介護していた場合

寄与分は、共同相続人の中に、被相続人の財産の維持又は増加に特別に貢献した者がいるときに、その相続分を増やして調整する制度でした。これに対して、現実には、長年介護や世話をしていたのが相続人ではない親族であることが少なくありません。典型的には、被相続人の子の配偶者のように、実際には介護の中心を担っていたのに、自分自身は相続人ではないという場面です。こうした場合に、相続人ではない親族の貢献を全く無視するのは不公平だという問題意識から設けられたのが、特別寄与料の制度です。裁判所は、相続人ではない被相続人の親族で、被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者は、相続人に対し、その寄与に応じた額の金銭の支払を請求できると説明しています。

この制度は、民法第1050条として設けられたもので、2019年7月1日より前に開始した相続には使えません。裁判所の手続案内でも、令和元年7月1日より前に開始した相続については、この申立てはできないと明記されています。したがって、特別寄与料は「昔の相続にも当然に使える一般原理」ではなく、比較的新しい制度であり、適用できる相続開始時期が限られています。

特別寄与料のポイントは、まず請求できるのが相続人ではなく、相続人以外の親族だという点です。裁判所は、申立人について、被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより、被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族であって、相続人、相続放棄をした者、欠格事由に該当する者、廃除によって相続権を失った者を除くと整理しています。つまり、特別寄与料は、寄与分のように「相続人の取り分を増やす制度」ではなく、相続人ではない親族が、相続人に対して金銭を請求する制度です。

ここで重要なのは、特別寄与料の対象となる寄与の中身です。裁判所は、条文どおり、無償で療養看護その他の労務の提供をしたことによって、被相続人の財産の維持又は増加に特別の寄与をしたことを要件として示しています。法務省の改正資料の要旨でも、相続人以外の親族が被相続人の療養看護等を行った場合、一定の要件のもとで相続人に対して金銭請求できる制度だと説明されています。したがって、特別寄与料は「親族として世話をしていた」という抽象的な話だけでは足りず、無償の療養看護や労務提供が、被相続人の財産維持・増加と結び付いていることが必要です。

この点は、寄与分とかなり似ています。寄与分でも、親族として通常期待される範囲を超える特別な貢献が必要でした。特別寄与料も、制度趣旨からみて、単なる近居や日常的な付き添いではなく、特別の寄与といえる程度の無償の貢献が求められます。もっとも、寄与分と違うのは、こちらは相続人ではない親族のための制度であり、結論も「相続分の増額」ではなく「金銭支払請求」になることです。民法1050条の条文要旨として、特別寄与者は相続人に対して寄与に応じた額の金銭の支払を請求でき、家庭裁判所は寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮してその額を定めるとされています。

したがって、特別寄与料は「相続人の一人として入れてもらえる」制度ではありません。あくまで、相続人ではない親族が、相続人に対して別枠で金銭を求める制度です。この違いは実務上かなり大きいです。寄与分なら、遺産分割の中で具体的相続分を動かす話になりますが、特別寄与料では、相続人の法定相続分や遺言上の地位そのものを変えるのではなく、その外側で金銭調整を行うことになります。

また、特別寄与料は当然に自動発生して裁判所が拾ってくれるものでもありません。裁判所は、当事者間の協議が調わないとき又は協議できないときに、家庭裁判所の調停又は審判の手続を利用できると説明しています。さらに、特別の寄与に関する処分調停の申立書ページでも、実際の審理では追加の照会や事情聴取があるとされています。つまり、寄与の内容、期間、無償性、財産維持増加との関係などを、結局は主張立証していかなければなりません。

申立期間もかなり短いので注意が必要です。裁判所は、特別寄与料の申立ては、特別寄与者が相続の開始があったこと及び相続人を知った時から6か月を経過したとき、又は相続開始の時から1年を経過したときはできないと明示しています。これは相続放棄の3か月ほどではないにせよ、かなり短い期間です。したがって、「まず遺産分割が全部終わるのを見てから考えよう」としているうちに、特別寄与料の申立期限を過ぎる危険があります。

申立先は、裁判所によれば、相手方の住所地の家庭裁判所又は当事者が合意で定める家庭裁判所です。費用は、申立人1人につき収入印紙1200円分が基本で、相手方又は被相続人が複数いる場合にはその人数に応じて増えます。必要書類としては、申立人・相手方の戸籍謄本、被相続人の死亡記載のある戸籍、進行に関する照会回答書などが標準的に挙げられています。つまり、特別寄与料は「口頭で不公平を訴える制度」ではなく、きちんとした家事手続として設計されています。

実務感覚でいえば、特別寄与料が問題になるのは、まさに「相続人ではない親族が長年介護していたのに、法的には何ももらえないのか」という場面です。他方で、この制度は万能ではありません。請求できるのは金銭であって遺産そのものではありませんし、無償の療養看護等と財産維持増加との関係を示す必要もあります。さらに、請求相手は相続人であり、期限も短い。つまり、制度趣旨としては救済的ですが、使い勝手まで広く軽い制度ではありません。これは裁判所の手続説明と民法1050条の要件構造からそのまま導かれる理解です。

結局のところ、特別寄与料とは、相続人ではない被相続人の親族が、無償で療養看護その他の労務提供をして被相続人の財産の維持又は増加に特別の寄与をしたときに、相続人に対して金銭の支払を求める制度です。寄与分が相続人の制度であるのに対し、特別寄与料は相続人以外の親族の制度であり、結論も相続分の増減ではなく金銭請求になります。相続の現場で「実際に尽くしたのは相続人ではない親族だった」というときは、寄与分ではなく、この特別寄与料の問題として整理する必要があります。

第30講では、ここまでの特別受益・寄与分・特別寄与料も踏まえて、遺産分割で揉めやすい論点|評価時点・使込み・感情対立の実務を扱います。ここから先は、個別制度を超えて、相続紛争がどこでこじれやすいかという全体像に入ります。

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