第32講  逸失利益とは何か|将来の収入減をどう計算するのか

第32講
逸失利益とは何か|将来の収入減をどう計算するのか

後遺障害の賠償で、慰謝料と並んで大きな比重を占めるのが逸失利益です。これは、事故によって後遺障害が残った結果、将来にわたって労働能力が低下し、その分だけ得られたはずの収入を失うことになったとして、その減少分を金銭的に評価するものです。

簡単にいえば、「この事故がなければ将来得られたはずの収入」と「事故のために現実には得られなくなった収入」の差額を、将来分も含めて評価する考え方です。そのため、後遺障害等級が認定されたから当然にいくら、という単純な話ではなく、被害者の職業、年齢、収入、障害内容、将来の働き方などを踏まえて計算する必要があります。

実務では、逸失利益はおおむね、基礎収入、労働能力喪失率、喪失期間、中間利息控除という要素で構成されます。まず基礎収入とは、事故前の収入ないし将来認められるべき収入の土台です。給与所得者であれば現実の給与額が中心になりますし、自営業者であれば確定申告上の所得額が問題になります。主婦や学生のように現実収入が明確でない類型では、賃金センサス等を用いて基礎収入を認定することがあります。

次に、労働能力喪失率です。これは、後遺障害によって何割程度、働く力が失われたと評価するかという問題です。自賠責の等級表に対応した目安がよく用いられますが、あくまで目安にすぎず、職業や障害部位との関係によって修正されることがあります。たとえば、同じ上肢の障害でも、肉体労働者とデスクワーカーでは実際の就労制限の程度が異なりえます。

さらに、喪失期間とは、その労働能力の低下がいつまで続くものとして評価するかという期間です。症状固定時から67歳までを一つの目安とする考え方がよくみられますが、高齢者では平均余命や就労実態が問題になり、若年者では67歳以後まで家事労働や就労可能性が議論になることもあります。また、むち打ちのような神経症状では、後遺障害が一生続くとしても、賠償上は一定年数に制限して評価されることがあります。

そして、中間利息控除とは、将来得られるはずだった収入を今まとめて受け取る以上、その分を一定程度割り引くという考え方です。実務ではライプニッツ係数などを使って計算されます。これは「将来の損害を現在価値に引き直す」ための技術的処理であり、逸失利益の金額に大きく影響します。

重要なのは、逸失利益は単なる計算問題ではなく、「その人がどのように働き、どのような将来を予定していたか」という生活実態の評価だということです。現に減収している場合は比較的わかりやすいのですが、事故後も同じ会社で働いている場合や、一見すると収入が下がっていない場合でも、昇進機会の喪失、配置の制限、転職可能性の低下など、見えにくい不利益が存在することがあります。

反対に、等級が認定されたからといって、必ずしもその等級表どおりの逸失利益が全面的に認められるわけでもありません。現実の就労状況、症状の内容、治療経過、職業との適合性などを踏まえて、かなり個別的に判断されます。

したがって、逸失利益では、「等級が何級か」だけでなく、「その障害がこの人の仕事と生活にどのような具体的影響を与えるか」を丁寧に示すことが重要です。次回からは、この基本構造を前提に、会社員、自営業者、主婦、学生、高齢者といった属性ごとに、何が問題になるのかを順に見ていきます。

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