第48講 後遺障害案件で和解するとき何を見るべきか|金額だけで決めてよいか
第48講
後遺障害案件で和解するとき何を見るべきか|金額だけで決めてよいか

後遺障害案件で和解の話が出ると、どうしても提示金額に目が向きがちです。もちろん金額は重要です。しかし、後遺障害の案件では、金額だけを見て和解を決めるのは危険です。なぜなら、この種の事件では、一度和解してしまうと、その後に症状が続いたり、生活上の不利益が顕在化したりしても、原則として追加請求は難しくなるからです。したがって、和解の判断は、いまの金額の多寡だけではなく、将来も含めた全体像で考えなければなりません。
まず見るべきは、提示額の内訳です。慰謝料、逸失利益、将来治療費、介護費、装具費、通院交通費、休業損害など、どの項目がどのように評価されているのかを確認する必要があります。総額がそこそこ見えても、実は逸失利益が極端に低く見積もられている、将来治療費が全く入っていない、過失相殺の割合が重い、といったことは珍しくありません。和解は総額だけでなく、計算の構造を読むことが大切です。
次に、将来治療や介護の可能性です。重度後遺障害はもちろん、比較的軽い等級であっても、症状が長期化することがあります。痛みの継続、再手術の可能性、定期受診、服薬、リハビリ、介護機器の更新など、今後も費用や負担が生じうるなら、その点が和解条件にどう反映されているかを見なければなりません。将来分を見落として、現在の金額だけで判断すると、後から取り返しがつかなくなります。
さらに、就労への影響も重要です。現時点で復職しているからといって、逸失利益の問題が消えるわけではありません。配置転換、昇進制限、残業不能、長時間勤務不能、離職リスクなど、症状の影響は時間差で現れることがあります。とくに高次脳機能障害や上肢・下肢機能障害の案件では、就労上の不利益がじわじわ表面化することが少なくありません。
また、過失相殺の評価も和解判断では大きな要素です。こちらの過失割合が少し動くだけで、総額はかなり変わります。後遺障害案件では損害額自体が大きくなりやすいため、過失の数%の違いが実額としては非常に大きくなります。したがって、「等級がどうか」だけでなく、「過失がどう評価されるか」も併せて見ておく必要があります。
そして、訴訟継続のコストと見通しです。後遺障害案件は、争えば時間も労力もかかります。医学的立証が必要になり、家族や勤務先の協力も要ることがあります。したがって、和解を考えるときには、「理論上もう少し取れるかもしれない」という話だけでは足りません。その上積みの可能性が、時間的・精神的・実務的コストに見合うのかという視点も必要です。
結局、和解とは「いくらで終わるか」を決めるだけではなく、「どの不確実性をここで閉じるか」を決めることです。後遺障害案件では、その不確実性の中に、将来治療、介護、就労、生活の質、過失割合などが全部入っています。だからこそ、金額だけで決めてよいかと問われれば、答えは明確にノーです。数字は重要ですが、数字だけでは足りません。