第5講 試用期間をどう設計するか|本採用拒否が争われないための実務
第5講
試用期間をどう設計するか|本採用拒否が争われないための実務

試用期間は、会社が採用後に適性や勤務状況を見極めるための重要な制度です。しかし、実務では「試用中だから自由に切れる」という誤解が根強く、ここで事故を起こす会社が少なくありません。法的には、試用期間中の労働契約は、解約権留保付労働契約と理解され、通常の解雇より広い範囲で解約の自由が認められる一方、それでも客観的合理的理由と社会通念上の相当性が必要とされています。厚生労働省の解説でも、そのような整理が明示されています。
したがって、試用期間を設ける目的は、あとで都合よく切るためではなく、採用時には十分把握できなかった適性、能力、勤務態度、協調性、健康状態等を一定期間見極めることにあります。この趣旨に照らせば、本採用拒否が許されるのは、試用の結果として、雇用継続が相当でないといえる事情が具体的に確認された場合に限られます。単に「なんとなく合わない」「期待ほど優秀ではない」「雰囲気が違った」といった抽象的評価だけでは危ういのです。
使用者側の実務で重要なのは、試用期間を制度として設計する段階から、本採用判断の資料が残る仕組みを作ることです。まず、就業規則や雇用契約書で試用期間の長さ、延長の可否、試用中の労働条件、本採用拒否や解約の可能性を明記しておく必要があります。一般に厚生労働省の過去資料でも、試用期間を設ける企業の多くは6か月程度以下としており、長すぎる試用期間は制度趣旨との関係で説明が難しくなりがちです。
次に、試用期間中の評価を記録化することが不可欠です。遅刻欠勤の状況、業務指示への対応、報連相の欠如、協調性の問題、能力不足の具体場面、指導内容、改善機会の付与、その後の変化などを、上司の印象論ではなく具体的事実として残しておくべきです。試用期間は短いため、後から「問題があった」と言っても、その間に指導した形跡がなければ、会社の判断は唐突に見えやすくなります。
さらに、本採用拒否の判断は、期間満了直前に慌てて行うべきではありません。厚生労働省の資料でも、試用期間終了前に余裕をもって本人へ伝える運用が多数とされています。 実務的にも、面談、指導、改善機会付与、再確認という流れを踏まずに満了日に突然通知するのは危険です。
結局、試用期間は「自由に見極められる期間」ではありますが、「無理由で切ってよい期間」ではありません。会社としては、制度設計、評価記録、指導経過、通知時期の四点を押さえる必要があります。試用期間の実務は、採用の延長線上にありますが、ここで失敗すると解雇紛争の入口になります。だからこそ、試用期間は短い制度であるにもかかわらず、使用者側労働法務の中でも特に丁寧な設計が求められるのです。