第17講  休職制度をどう設計するか|私傷病休職で揉めないための規程整備

第17講
休職制度をどう設計するか|私傷病休職で揉めないための規程整備

私傷病休職制度は、使用者側にとって「あると便利な制度」ではなく、実務上の事故を防ぐための重要な調整装置です。もっとも、休職制度は法律が一律に内容を定めているものではなく、多くは就業規則や休職規程によって個別企業ごとに設計されています。だからこそ、制度設計が曖昧だと、休職に入れる場面、休職期間の数え方、復職の可否、満了時の扱いなどで紛争が生じやすくなります。厚生労働省のモデル就業規則でも、私傷病による欠勤が一定期間に及ぶときの休職、休職期間、復職、休職満了時の扱いなどが条文化されており、使用者側では少なくともこの程度の骨格は整えておく必要があります。 (mhlw.go.jp)

まず、休職制度設計の第一歩は、休職に入る要件を明確にすることです。たとえば「業務外の傷病により欠勤が○か月継続したとき」「就業継続が困難と会社が判断したとき」など、発動要件が必要になります。ここが曖昧だと、現場ごとに取扱いがぶれ、ある社員にはすぐ休職命令を出し、別の社員には長く欠勤を放置するという不均衡が生じます。また、欠勤日数を基準にするのか、就労制限を伴う就業困難状態を基準にするのかによっても運用は変わります。重要なのは、休職が懲戒や退職勧奨の代用品ではなく、就労不能又は就労困難な状態に対する制度であることを規程上も明確にすることです。 (mhlw.go.jp)

次に重要なのが、休職期間をどう設定するかです。実務では、勤続年数に応じて3か月、6か月、1年など段階的に設定する例が多く、厚生労働省のモデル就業規則も勤続年数に応じた期間区分を置いています。もっとも、問題は長短そのものではなく、その期間設定に社内的な整合性があるかです。極端に短い休職期間では回復機会の付与として不十分になりやすく、逆に長すぎると人員管理上の負担が大きくなります。会社の業種、代替要員確保のしやすさ、過去の運用実態などを踏まえ、制度趣旨に沿った長さにしておく必要があります。 (mhlw.go.jp)

第三に、休職中の処遇を定めておくことも欠かせません。休職中の賃金を無給とするのか、一部支給とするのか、賞与算定や勤続年数への算入をどうするのか、社会保険料や連絡義務はどう扱うのか、といった点です。私傷病休職では無給とする例が一般的ですが、その場合でも傷病手当金など外部制度の案内をどう行うか、診断書提出義務や定期報告義務をどう定めるかを整えておかなければ、会社と本人の間で認識齟齬が生じやすくなります。休職期間中の連絡不通や、会社が回復状況をまったく把握できない状態は、満了時判断を難しくします。 (mhlw.go.jp)

さらに、使用者側実務で特に揉めやすいのが、復職基準の曖昧さです。「医師が復職可といえば戻せる」「本人が働けると言えば戻す」といった運用では足りませんし、逆に「会社が不安なら戻さない」というだけでも危険です。したがって、規程上、復職には「従前業務に耐え得る程度に回復したこと」なのか、「相当な範囲の業務に就ける見込みがあること」なのか、主治医意見・産業医意見・会社面談をどう位置づけるのかを整理しておく必要があります。厚生労働省の職場復帰支援手引きも、復職可否判断は主治医意見だけでなく、職場の実情や就業上の配慮可能性を踏まえて行うことを前提にしています。 (mhlw.go.jp)

また、休職満了時の扱いも就業規則で必ず詰めておくべき点です。典型的には、休職期間満了までに復職できないときは自然退職又は退職とする規定が置かれますが、その表現や運用が曖昧だと後で争われやすくなります。特に、満了直前の時点で会社がどの資料をもとに復職不能と判断したのか、本人に意見提出や診断書提出の機会を与えたのか、他の就業可能性を検討したのか、といった点は紛争で重要になります。規程に書いてあるから当然終了するというものではなく、満了時判断の手順まで整えておく必要があります。 (mhlw.go.jp)

この点に関連して、部分復職や試し出勤制度をどう位置づけるかも考えておくと有益です。復職は、常にフルタイム・通常業務への完全復帰だけとは限りません。短時間勤務、軽減業務、試し出勤、段階的復職を制度として認めるかどうかで、運用の柔軟性は大きく変わります。厚生労働省の職場復帰支援資料でも、職場復帰支援プランやリハビリ出勤的な考え方が紹介されています。もっとも、これらを導入するなら、賃金、評価、勤怠管理、労災関係との整理まで含めて制度化しておくべきで、善意の場当たり対応にしないことが重要です。 (mhlw.go.jp)

使用者側の観点からは、休職制度は少なくとも次の事項を規程に落とし込むべきです。すなわち、①休職事由、②休職命令の手続、③休職期間、④休職中の処遇、⑤報告義務・診断書提出義務、⑥復職基準と判断手順、⑦試し出勤等の有無、⑧休職満了時の扱い、⑨再休職の取扱い、⑩主治医・産業医意見の取得方法、といった点です。これらが整理されていれば、個別案件で感情的・場当たり的に動く余地が小さくなり、会社の判断は安定します。逆に、制度が曖昧な会社では、休職に入れる段階でも、戻す段階でも、終わらせる段階でも揉めます。 (mhlw.go.jp)

要するに、私傷病休職制度は、会社が不調者を外に置くための装置ではなく、就労不能状態にある労働者を一定期間秩序立てて処遇し、回復可能性を見極め、復職又は終了の判断を適正に行うための制度です。使用者側労働法務としては、個別案件ごとに悩む前に、就業規則・休職規程の段階で揉めやすい論点を先回りして潰しておくべきです。制度設計が丁寧な会社ほど、休職は紛争の入口ではなく、むしろ紛争予防の仕組みとして機能します。 (mhlw.go.jp)

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