時間外手当請求は「残業時間の計算」だけではない────いま実務で争点になりやすい最新トピック

いま実務で争点になりやすい最新トピック

時間外手当請求というと、「何時間残業したのか」を計算する事件だと思われがちです。もちろん計算は重要ですが、近年の実務では、それ以前の論点、すなわちそもそもその時間が労働時間に当たるのか、その人に労働基準法上の保護が及ぶのか、会社が採用している制度が有効なのかが、より大きな争点になることが少なくありません。

まず増えているのが、テレワーク下の残業です。会社としては「打刻がない」「申告がない」と主張しがちですが、テレワークではPCのログイン・ログオフ記録、VPN接続履歴、チャットやメールの送信時刻など、客観的な資料が残ります。厚生労働省も、テレワークであっても使用者には労働時間を適正に把握する責務があると示しています。つまり、在宅勤務だから会社が把握しなくてよい、ということにはなりません。

次に、今なお頻出なのが名ばかり管理職の問題です。課長、店長、所長といった肩書があっても、実際には採用・人事・シフト・予算に関する十分な権限がなく、待遇面でも管理監督者にふさわしい優遇がない場合には、残業代請求が認められる余地があります。管理監督者性は肩書ではなく実態で決まるため、この論点は業種を問わず繰り返し問題になります。

また、固定残業代も典型的な争点です。会社側は「固定残業代を払っているから追加の残業代はない」と考えがちですが、法律上はそう単純ではありません。通常賃金部分と割増賃金部分が判別できること、何時間分なのかが明示されていること、固定時間を超えた分を別途支払う仕組みがあることなどが必要です。制度設計が曖昧であれば、固定残業代の抗弁自体が崩れることがあります。

さらに近時は、裁量労働制の有効性も見逃せません。2024年4月以降、裁量労働制には新たな手続や本人同意・撤回に関する整備が求められています。そのため、企業が「うちは裁量労働だから残業代は出ない」と説明していても、制度導入の手続に不備があれば、その前提自体が崩れる可能性があります。時間外手当請求では、就業規則や労使協定、届出の有無まで丁寧に見る必要があります。

加えて、近年は副業・兼業業務委託の広がりにより、そもそも誰が使用者で、どの時間が通算され、どの法制度が適用されるのかという問題も増えています。副業先との通算で法定時間外になる場合や、形式上はフリーランスでも実態として指揮命令下にある場合には、従来より複雑な検討が必要です。

そして、業種別では、医師・運転者・建設業がとくに注目です。2024年4月から、医師には時間外・休日労働の上限規制と追加的健康確保措置が、運転者には年960時間上限や改善基準告示が、建設業には上限規制の本格適用が入っています。医療分野では宿日直許可の有無と範囲、運送業では拘束時間や荷待ち時間、建設業では36協定や現場実態が、未払残業代と直結する争点になりやすくなっています。

時間外手当請求は、もはや「電卓で計算するだけ」の事件ではありません。勤務記録の集め方、制度の有効性、職種・業界特有のルール、消滅時効や付加金まで含めて、初動での整理が結果を大きく左右します。会社側・労働者側のいずれであっても、早い段階で資料を精査し、どこが本当の争点なのかを見極めることが重要です。なお、未払賃金請求権等の時効は当分の間3年とされており、請求可能期間の確認も欠かせません。

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