第5回 役員・従業員対応|賃金、退職金、説明責任の順番
役員・従業員対応|賃金、退職金、説明責任の順番

法人破産管財で役員・従業員対応を誤ると、財産把握も、労働債権処理も、集会報告も一気に崩れます。順番としては、まず役員側から事実と資料を引き出すこと、次に従業員の雇用状況と未払労働債権を確定すること、そのうえで賃金・退職金の法的扱いと見通しを説明すること、さらに必要に応じて未払賃金立替払制度につなぐことが基本です。破産法40条は、法人破産では理事、取締役、執行役、監事、監査役、清算人などに説明義務を課しており、東京地裁の法人用「打合せ補充メモ」も、代表者の現住所・連絡先・勤務先や、追加申立予定の有無まで整理対象にしています。つまり、開始決定後の最初の窓口は、従業員ではなく、まず会社側事情を最も知る役員・代表者です。
この「役員先行」は、役員に先にお金を回すという意味ではありません。意味があるのは、説明責任と資料引継ぎが先行するということです。東京地裁の同メモは、代表印・社印・預貯金通帳・保険証券・賃貸借契約書・リース契約書・帳簿類・決算書類・税務申告書控えなどを、可能な限り管財人との打合せ時に持参するよう求めています。さらに、従業員の人数、全員解雇済みか雇用継続中か、未払給与・退職金・解雇予告手当の有無、給与台帳・賃金台帳の有無まで確認項目になっています。役員対応の本質は、役員を保護することではなく、従業員対応の前提資料を揃えることにあります。
その次に来るのが、従業員側の現状把握です。法人破産では、誰がまだ雇用中で、誰がいつ退職し、何が未払なのかが曖昧だと、その後の処理が全て曇ります。東京地裁書式が、雇用中の人数と1か月の給与合計、未払給与・退職金・解雇予告手当、給与台帳・賃金台帳の有無を一まとまりで確認させているのはそのためです。管財人の実務としては、まず「雇用関係の現在地」を確定し、次に「未払労働債権の範囲」を切り出し、その後で個別説明に入る順が安定します。最初から抽象的に「配当でどうなるか」を語るより、名簿・台帳・退職日・未払期間を押さえる方が、裁判所にも従業員にも説明可能です。
賃金と退職金の説明では、法的な位置づけを混同しないのが大事です。破産法2条7項は財団債権を「破産手続によらないで破産財団から随時弁済を受けることができる債権」と定義し、149条1項は開始前3か月間の使用人の給料請求権を財団債権としています。また149条2項は、破産手続終了前に退職した使用人の退職手当請求権のうち一定部分を財団債権としています。他方、それ以外の給料や退職手当が当然に一般破産債権と同列で放置されるわけではなく、101条は、優先的破産債権である給料・退職手当について、裁判所が他の利害関係人を害しないと認める場合に弁済許可を出せることを予定しています。したがって従業員への説明は、「全部すぐ払える」でも「全部配当待ち」でもなく、直近賃金等は財団債権として強く保護され、その他も優先的破産債権として扱われ得るという整理で行うのが正確です。
さらに、説明責任は金額の話だけでは終わりません。破産法86条は、給料請求権や退職手当請求権を有する者に対し、管財人が破産手続参加に必要な情報を提供するよう努めることを求めています。だから法人破産管財で従業員に説明すべきなのは、「いくら払えるか」だけでなく、「今後どの手続で進むのか」「何を届け出るのか」「どの資料が必要か」「いつ管財人に問い合わせるべきか」という手続面も含みます。役員から情報を受け取り、従業員に手続を見える形で返していく。この往復ができて初めて、労働債権対応は“処理”ではなく“説明可能な処理”になります。
未払が大きい案件では、未払賃金立替払制度の案内も早い段階で要ります。裁判所のQ&Aは、会社破産で未払給与等がある場合、破産管財人に尋ねるよう案内しつつ、一定要件の下で未払賃金立替払制度を利用できるとしています。JOHASの公式説明でも、法律上の倒産には破産手続開始決定が含まれ、労働者についてはパート・アルバイトも対象になり得る一方、代表権を有する会社役員等は対象外とされています。したがって、役員・従業員対応の「順番」は、役員にはまず説明義務と資料引継ぎを求め、従業員には労働債権の把握と制度案内を先行させる、という形で分けておくのが実務的です。
要するに、法人破産管財における役員・従業員対応は、情緒の問題ではなく設計の問題です。役員については、まず40条に沿って事実・資料・連絡体制を確保する。従業員については、未払賃金・退職金・解雇予告手当と台帳を確定する。そのうえで、149条・101条・86条に沿って、どこまでが随時弁済の射程に入り、どこからが優先的破産債権として処理され、何をどう説明すべきかを順序立てて示す。裁判所に受けるのは、誰に同情したかではなく、誰に何を、どの順番で、どの根拠に基づいて処理したかが見える管財です。