第12講 親権はどう決まるのか|裁判所が見るポイント

第12講 親権はどう決まるのか|裁判所が見るポイント

離婚で子どもがいる場合、多くの方が最も強く気にするのが親権です。
もっとも、親権の話は感情だけでは整理しにくく、しかも今は法改正の切替時期でもあるため、まず制度の地図を押さえることが大切です。2026年3月28日現在の現行法では、未成年の子がいる夫婦が離婚する場合、親権者は父母のいずれか一方を定めなければなりません。他方で、2026年4月1日施行の改正後は、離婚時に父母の**双方(共同親権)または一方(単独親権)**を定めることができる仕組みに変わります。裁判所も、令和8年3月31日以前に離婚する場合は一方を定めなければならないこと、令和8年4月1日以降は双方または一方を定める仕組みになることを案内しています。

このため、第12講では、親権の話を二つの層に分けて考えます。
一つは、今もこれからも変わらない核心である**「子の利益」**です。もう一つは、2026年4月1日以降の制度変更として、共同親権が選択肢に入るという点です。法務省のQ&Aでも、家庭裁判所が親権者の指定や変更を判断する際には、父母と子との関係、父母同士の関係、その他一切の事情を考慮し、子の利益の観点から最善の判断をすることが求められると説明されています。

1 親権は「親の勝ち負け」ではなく「子の利益」で決まる

親権の事件で、裁判所が中心に見るのは親の気持ちそのものではなく、その子にとってどの形が最も利益になるかです。
法務省の改正法Q&Aでも、家庭裁判所は親権者の指定・変更に当たり、父母と子との関係、父母同士の関係、その他一切の事情を考慮するとされ、当事者の一方に有利な原則や、共同親権・単独親権のどちらかを例外扱いするような建て付けではないと説明されています。つまり、裁判所は「母親が原則」「父親は不利」といった単純な図式で決めるのではなく、個別の子の利益から見て判断する、というのが制度の基本です。

この「子の利益」は抽象的に聞こえますが、実務ではかなり具体的です。
子がこれまで誰に主として世話されてきたのか、今どのような生活環境にあるのか、父母が今後どの程度安定して養育に関われるのか、父母の対立が子にどう影響しているのか、といった事情が見られます。裁判所の「子の監護者の指定調停」の案内でも、今までの養育状況、双方の経済力や家庭環境、子の年齢・性別・性格・就学状況、子の意向などを把握し、子の福祉の観点から話合いを進めるとされています。親権と監護者は別制度ですが、子の養育の適否を見る視点としては重なりが大きいです。

2 現行法では、離婚時は単独親権が前提である

2026年3月28日現在の民法819条では、協議離婚でも裁判離婚でも、未成年の子については父母の一方を親権者と定める仕組みです。e-Gov掲載の民法条文でも、協議上の離婚ではその協議で父母の一方を親権者と定めなければならず、裁判上の離婚では裁判所が父母の一方を親権者と定めるとされています。裁判所の離婚調停案内も、令和8年3月31日以前に離婚する場合は、父母のいずれか一方を親権者と定めなければならないと明記しています。

このため、現時点で離婚を先行させる場合には、「どちらが親権者になるか」を避けて通れません。
もっとも、後で触れるように、親権者と監護者を分けること自体は制度上可能です。裁判所は、親権者を定めて離婚しても、実質的保護のために親権者とは別に監護者を定めることがあると案内しています。つまり、親権の有無と、実際に子と同居して日常生活をみる者が、必ずしも常に完全一致するわけではありません。

3 2026年4月1日以降は、共同親権も選択肢に入る

これに対して、2026年4月1日施行後は、離婚時に父母双方を親権者とするか、一方を親権者とするかを、協議・調停・訴訟で定めることになります。裁判所の「離婚後の親権者の定めに関する手続等」は、改正後、父母は協議や調停で共同親権か単独親権かを定めることができ、協議等が調わなければ、裁判所が子の利益のために父母双方とするか一方とするかを判断すると案内しています。法務省も、改正法は離婚後も子の利益を確保することを目的として、親権・監護等のルールを見直したと説明しています。

ただし、ここで大事なのは、改正後も共同親権が常に優先されるわけではないという点です。
法務省Q&Aは、共同親権と単独親権のどちらかを法律上の原則・例外として定めたものではなく、裁判所は子の利益の観点から最善の判断をする、と明言しています。つまり、共同親権に変わるから必ず共同になる、という理解は正確ではありません。

4 裁判所が特に見るポイント

親権をめぐって裁判所が重視する事情は、結局のところ「その子を今後安定して育てられるか」に集約されます。
裁判所の監護者指定調停の案内では、今までの養育状況、双方の経済力、家庭環境、子の年齢・性格・生活環境などが挙げられています。加えて法務省Q&Aは、当事者の意見だけでなく、子が意見を表明した場合には、その意見も適切な形で考慮されると説明しています。つまり、実務では、これまでの主たる養育実績、生活の継続性、子の意向、父母の協力可能性が大きな要素になります。

ここでよく出てくる実務感覚が、いわゆる監護の継続性です。
裁判所の家事調停研究会資料でも、「監護環境の継続性」を重視することがあるとされており、別居後の安定した生活状況がその後の判断に影響し得ることが示されています。つまり、急な引渡しや感情的な奪い合いより、子が現にどのように安定して暮らしているかが重く見られやすい、ということです。もっとも、これは絶対ではなく、虐待やDVなど安全上の問題がある場合には別の評価になります。

5 子の意見も無視されない

親権は親同士の争いに見えますが、子自身の意見も無視されません。
法務省Q&Aは、家庭裁判所が親権者の指定・変更をする際、子が意見を表明した場合には、その意見を適切な形で考慮することを含むと明記しています。裁判所の監護者指定調停の案内も、子の意向を尊重した取決めができるよう事情を把握するとしています。

もちろん、子の年齢や発達段階によって、意見の重みや聞き取り方は違います。
ただ、少なくとも「子どもは小さいから意思は関係ない」と一刀両断にできるものではありません。親権を争う場面では、親の主張の強さより、子の生活と気持ちをどこまで具体的に見られるかが大切です。

6 DV・虐待がある場合は、単独親権が強く意識される

ここは改正後特に重要です。
法務省の改正法Q&Aでは、父母の一方が子の心身に害悪を及ぼすおそれがある場合や、父母の一方が他方から身体に対する暴力その他心身に有害な影響を及ぼす言動を受けるおそれがあり、父母が共同して親権を行うことが困難と認められる場合には、裁判所は必ず単独親権としなければならないと整理されています。しかも、身体的DVに限らず、精神的DV、経済的DV、性的DV等によって共同行使が困難な場合も含み得ると法務省は説明しています。

また、共同親権の下でも、DVや虐待から避難する必要があるような急迫の事情があるときは、一方の親が単独で親権を行使できるとされています。法務省Q&Aは、DVや虐待からの避難に伴う子の転居や、緊急医療、入学手続の期限切迫などを例示しています。裁判所も、急迫の事情があるときは一方の親が単独で決定できると案内しています。

7 共同親権になっても、何でも共同決定ではない

改正後の共同親権について、よくある誤解は「日常のことまで全部二人で決めないといけないのか」という点です。
裁判所は、共同親権であっても、すべての事項を共同で決定する必要があるわけではなく、共同で行使すべきなのは、身上監護に関する重大な行為、財産管理行為、身分行為の代理などだとしています。他方で、身上監護に関する日常の行為は、一方の親が単独で決定できるとされています。

したがって、共同親権は「常に二人そろってハンコ」という制度ではありません。
むしろ、日常生活は同居親が担いながら、重大事項は子の利益のために協議し、急迫の事情があれば単独対応も可能、という設計です。ただし、父母の対立が強く、重大事項の協議が事実上できないような場合は、そもそも共同親権が子の利益にかなうかが改めて問われます。

8 親権と監護者は分けて考える場面がある

親権の話をややこしくするのが、監護者という別の概念です。
裁判所は、親権者を定めて離婚したとしても、親権者が常に適任者とは限らないため、実質的な子の保護を図るために、親権者とは別に監護者を定めることがあると説明しています。別居中や離婚後に、どちらが現実に子を養育するかをめぐって争いがある場合には、「子の監護者の指定調停・審判」が使われます。

つまり、親権者になれなかったら子と全く関われない、というものでもありませんし、逆に親権者になれば当然に日常監護も全部担う、という単純なものでもありません。
実務では、親権、監護、面会交流、養育費がセットで動くので、親権だけを切り離して考えない方が安全です。裁判所の離婚調停案内も、親権に加えて、子との交流や養育費も一緒に話し合うことが望ましいとしています。

9 結局、親権で大切なのは「子にとって安定した養育像」を示せるかどうか

親権事件では、抽象的に「自分の方が愛している」と言うだけでは足りません。
裁判所が見ているのは、これまで誰がどのように世話をしてきたか、今後どういう生活を用意できるか、学校や保育園、通院、生活リズム、父母間の協力可能性、DV・虐待の有無などです。法務省も裁判所も、最終的には「子の利益」を軸に、父母と子との関係、父母同士の関係、その他一切の事情を考慮するとしています。

その意味で、親権の争いは、親の主張の激しさではなく、子の生活をどれだけ具体的に、安定的に描けるかで見られやすい分野です。
対立仮説としては、「監護継続性が強い親が有利」という見方がありますが、これは安全上の問題がない通常事案で特に意味を持ちやすいのであって、DV・虐待や著しい不適切養育が疑われる事案では、継続性より保護が前に出ます。

10 まとめ

第12講のまとめです。
2026年3月28日現在の現行法では、離婚時の親権者は父母の一方を定める必要がありますが、2026年4月1日以降は、共同親権か単独親権かを定める制度に変わります。ただし、どちらかが原則というわけではなく、裁判所は常に子の利益を軸に、父母と子との関係、父母同士の関係、生活環境、子の意見などを総合して判断します。DVや虐待のおそれ、あるいは父母が共同して親権を行うことが困難な事情がある場合には、改正後も単独親権が強く意識され、法的には必ず単独親権とすべき場合もあります。共同親権になっても、日常行為まで全部共同決定ではなく、重大事項は共同、日常行為や急迫時は単独対応があり得ます。

親権は、親の勝ち負けの話ではありません。
裁判所が見ているのは、「この子が今後どこで、誰と、どう安定して暮らせるか」です。だからこそ、親権を考えるときは、感情的に相手を下げることより、自分が子の生活をどう支え、どう守ってきたか、これからどう支えられるかを具体的に整理することが大切です。

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