第11講 慰謝料はどんなときに認められるのか|請求できる場合と難しい場合
第11講 慰謝料はどんなときに認められるのか|請求できる場合と難しい場合

離婚の相談では、「離婚するなら慰謝料は当然にもらえるのではないか」と思われていることが少なくありません。
しかし、実務では、離婚しただけで当然に慰謝料が発生するわけではありません。裁判所は、慰謝料を「相手方の不法行為によって被った精神的苦痛を慰謝するための損害賠償」であり、相手方の行為によって離婚せざるを得なくなったような場合などに請求できると説明しています。つまり、出発点は「離婚したこと」そのものではなく、相手方に法的に問題のある行為があり、そのために精神的苦痛を受けたかです。
第11講では、慰謝料が認められやすい場面、難しい場面、財産分与との違い、そして離婚調停や訴訟の中でどう位置付けられるのかを整理します。
この論点は、感情と法的評価がずれやすいところなので、最初に線を引いておくことが大切です。
1 慰謝料は「不法行為」があるときの損害賠償である
慰謝料は、つらかったから当然にもらえる、という性質のものではありません。
裁判所の案内どおり、慰謝料請求は相手方の不法行為によって受けた精神的苦痛を対象とする損害賠償です。したがって、まず問題になるのは、「相手方の行為が、法的に見て不法行為と評価できるか」です。離婚後に慰謝料だけが争いになったときは家庭裁判所の慰謝料請求調停が使え、離婚前であれば夫婦関係調整調停(離婚)の中で慰謝料も話し合うことができます。
この整理からすると、慰謝料が認められやすいのは、単なる不仲ではなく、相手方に責任を基礎づける行為がある事案です。
逆にいえば、夫婦関係が冷え切っていても、それが法的に相手方の違法な行為に基づくとまではいえない場合には、慰謝料の見通しは弱くなります。
2 慰謝料が認められやすい典型例
典型例としてまず挙げやすいのは、不貞行為です。
不貞は、裁判離婚の法定離婚原因にもなり得る典型的な事情であり、離婚に至った経緯の中で慰謝料請求の根拠になりやすい論点です。裁判所も、相手方の行為によって離婚せざるを得なくなった場合などに慰謝料を請求できるとしていますし、不貞を原因とする離婚や慰謝料は、まさにその代表例です。
次に、DVやモラハラのうち違法性が強いものも、慰謝料が認められやすい場面です。
身体的暴力はもちろん、継続的な威圧、人格否定、生活費の締め付け、強い支配などが、離婚原因であると同時に精神的苦痛の賠償問題になることがあります。内閣府はDVを身体的暴力に限らず、精神的・性的・経済的暴力も含むものとして整理しており、こうした行為が離婚に至らせた場合には、慰謝料の問題になり得ます。
さらに、悪意の遺棄に近いような事情、たとえば正当な理由なく生活費を一切渡さない、病気の配偶者を放置するなど、夫婦としての基本的義務を著しく踏み外す行為も、慰謝料が問題になり得ます。
要するに、慰謝料が認められやすいのは、単に「別れたい」ではなく、相手方に責任を問える事情がある事案です。
3 反対に、慰謝料が難しい典型例
一方で、性格の不一致だけでは慰謝料は難しいことが多いです。
もちろん、価値観のずれや会話の断絶が離婚原因になることはあります。けれども、慰謝料は不法行為による精神的苦痛の賠償なので、単なる相性の悪さや自然な関係悪化だけでは、直ちに慰謝料請求に結びつきません。裁判所の説明が慰謝料を「不法行為」に基づくものとしている以上、この点は実務上かなり重要です。
同じように、どちらか一方だけが明確に悪いとまではいえない不仲、長年のすれ違い、生活習慣の違い、親族関係の摩擦といった事情だけでは、慰謝料の見通しは一般に強くありません。
離婚そのものは成立し得ても、「精神的苦痛に対する損害賠償」というレベルまで届くかは別問題だからです。
4 「離婚原因があること」と「慰謝料が認められること」は少し違う
ここは混同されやすいところです。
たとえば裁判離婚では「婚姻を継続し難い重大な事由」が問題になりますが、そこから直ちに慰謝料が出るとは限りません。慰謝料は別途、不法行為として評価できる行為と、それによる精神的苦痛の発生が問題になります。裁判所も、離婚訴訟では離婚そのものに加えて、離婚に伴う慰謝料を求める訴訟を併せて起こすことができると説明しており、離婚判断と慰謝料判断が別論点であることを示しています。
したがって、実務では、
「離婚は認められる可能性がある」
ことと、
「慰謝料まで認められる可能性が高い」
ことを分けて見た方が安全です。
この二つを同じものとして扱うと、見通しを誤りやすくなります。
5 慰謝料と財産分与は別物だが、完全に無関係でもない
慰謝料と財産分与は、よく一緒に語られますが、制度としては別です。
法務省は、財産分与について、①婚姻中の共同生活で形成した財産の公平な分配、②離婚後の生活保障、③離婚原因を作ったことへの損害賠償という性質があると説明し、特に①が基本だとしています。つまり、財産分与には慰謝料的な要素が議論されることはあっても、中心はあくまで財産の清算です。
そのため、実務では、
財産分与で清算する話
と
慰謝料で精神的苦痛を賠償する話
を基本的には分けて考えます。
もっとも、和解や調停の場面では、全部をまとめて一つの金額で調整することもあります。ここが、制度上は別でも、現実の解決では重なり合うところです。
6 請求の相手は、まず配偶者が中心になる
離婚に伴う慰謝料は、まず配偶者に対して問題になります。
裁判所の慰謝料請求調停も、離婚した元夫または元妻が申立人となることを前提にしています。つまり、制度の基本形は、離婚原因を作った相手配偶者に対する精神的苦痛の賠償請求です。
もちろん、不貞事案では第三者、いわゆる不倫相手への請求が問題になることもあります。
ただ、離婚シリーズ全体の整理としては、まずは配偶者との間で何を請求するのかを固める方が実務的です。離婚そのもの、財産分与、婚姻費用、親権、養育費などと同時並行で動くからです。
7 慰謝料を求めるなら、経緯と証拠がかなり重要になる
慰謝料は感情の話に見えますが、手続ではかなり証拠の世界です。
裁判所は、慰謝料請求調停で、当事者双方から離婚に至った経緯や原因がどこにあったかを聴き、必要に応じて資料提出を受けて事情を把握すると説明しています。つまり、単に「ひどかった」「つらかった」と述べるだけでなく、何が、いつ、どのように起きたのかを示すことが重要です。
不貞であればメッセージ、宿泊記録、写真、探偵報告書。
DV・モラハラであれば録音、LINE、診断書、相談記録、日記形式のメモ。
悪意の遺棄に近い事情なら、生活費不払いの記録や別居経過。
このように、慰謝料は「怒りの強さ」で決まるのではなく、不法行為の立証と苦痛の説明可能性でかなり左右されます。
8 離婚前なら離婚調停の中で、離婚後なら慰謝料請求調停で扱える
手続の入口も整理しておくと分かりやすいです。
裁判所は、離婚前であれば夫婦関係調整調停(離婚)の中で慰謝料を話し合うことができ、離婚後に慰謝料だけが残った場合には慰謝料請求調停を利用できると案内しています。慰謝料請求調停の申立先は相手方の住所地の家庭裁判所が原則で、収入印紙は1200円です。
また、話合いで終わらず訴訟になる場合には、離婚訴訟とともに慰謝料請求を併せて提起することもできます。
裁判所の家事事件Q&Aもその点を明示しています。つまり、慰謝料は、調停段階でも訴訟段階でも、離婚と並行して扱われることが多い論点です。
9 実務では「慰謝料だけを最大化する」より、全体の解決を見ることが多い
離婚事件では、慰謝料だけが独立して大事なのではありません。
現実には、親権、養育費、面会交流、婚姻費用、財産分与、年金分割など、他の論点と強く絡みます。裁判所も、離婚調停では慰謝料だけでなく、財産分与や年金分割なども一緒に話し合えると案内しています。
そのため、実務では、慰謝料だけを一点突破で考えるより、
全体の条件の中でどう位置付けるか
を考えた方がよいことが多いです。
たとえば、不貞の証拠は強いが子どもの条件調整も大きい事案では、慰謝料の名目だけにこだわらず、全体解決の中で有利な着地を狙う方が合理的なこともあります。
対立仮説としては、「慰謝料を強く主張すべき事案」と「全体和解の材料として持つべき事案」は分かれます。この見極めは、証拠の強さと他論点の重さで変わります。
10 結局のところ、慰謝料が問題になるかは「責任を問える行為」があるかで決まる
第11講の核心はここです。
慰謝料は、離婚の飾りではなく、不法行為に基づく損害賠償です。だから、認められやすいのは不貞やDVなど、相手方に責任を問いやすい行為がある場合であり、難しいのは性格の不一致や自然な不仲のように、違法な行為として切り出しにくい場合です。裁判所の制度説明は、この線をかなりはっきり示しています。
信頼度A:慰謝料は「離婚したから当然」ではなく、「相手方の不法行為による精神的苦痛」の賠償として考える、という整理です。
反証条件としては、個別事案で財産分与の中に慰謝料的要素がどこまで織り込まれたか、または不法行為の立証が十分かどうかで、実際の結論や額は動きます。法務省も財産分与に慰謝料的性質が論じられてきたことを示しています。