第7講  労働時間とはどこまでを指すのか|始業前後、持ち帰り、待機時間の整理

第7講
労働時間とはどこまでを指すのか|始業前後、持ち帰り、待機時間の整理

使用者側労務管理で最も紛争化しやすいのが、労働時間の把握です。会社としては「指示していない残業」「自主的にやっている準備」「少し早く来ているだけ」と考えていても、法的には労働時間と評価されることがあります。労働基準法上の労働時間は、使用者の明示の指示がある場合だけでなく、黙示の指示の下に置かれている時間や、使用者の指揮命令下にあると評価される時間も含みます。厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」でも、その整理が示されています。

実務で問題になりやすいのは、始業前準備、終業後の片付け、着替え、朝礼、持ち帰り業務、来客待機、電話番、手待時間などです。これらは一律に労働時間ともいえず、一律に労働時間でないともいえません。判断の中心は、その時間が業務遂行のために事実上必要とされていたのか、会社として黙認・容認していたのか、自由利用がどこまで可能であったのか、という点にあります。たとえば、業務開始前の機器立上げや清掃が慣行として要求され、参加しないことが現実的でないなら、会社が明示的に命じていなくても労働時間性が問題になります。

厚生労働省ガイドラインは、使用者に対し、タイムカード、ICカード、パソコン使用時間、事業者の現認などの客観的方法により労働時間を把握することを求めています。自己申告制を採る場合にも、実態調査や適正な運用確保が必要とされ、単に申告書を出させるだけでは足りません。したがって、「残業申請がないから残業はない」という会社の整理は危険です。実態として業務が行われていれば、申請漏れや未申請残業も問題になります。

また、管理職の現場感覚と人事労務の設計がずれている会社も少なくありません。現場では「みんな少し早く来ている」「持ち帰りでやっておいてくれ」といった運用が常態化していても、人事部門は把握していないことがあります。このずれがあると、後で未払残業代請求を受けた際、会社全体として一貫した説明ができません。労働時間管理は、制度の問題であると同時に、現場文化の問題でもあります。

使用者側としては、労働時間の範囲をめぐる紛争を防ぐため、まず何が労働時間に当たり得るのかを正しく理解し、その上で始業前後の業務、持ち帰り業務、待機時間などの扱いを明文化・周知する必要があります。さらに、実態に合った把握方法を整備し、申請制度と現場運用が食い違わないようにすることが重要です。労働時間の問題は、会社が「残業を命じたかどうか」だけでは終わりません。実態として働かせていたかどうかが問われる以上、使用者側の管理は、見えている時間だけでなく、見えにくい時間まで含めて設計されなければなりません。

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