第15講  ハラスメント対応の初動|パワハラ・セクハラ・マタハラ調査の実務

第15講
ハラスメント対応の初動|パワハラ・セクハラ・マタハラ調査の実務

使用者側にとって、ハラスメント対応で最も重要なのは「正しい結論」そのものより、初動を誤らないことです。というのも、パワハラ、セクハラ、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントは、いずれも事業主に防止措置と事後対応が法的に求められており、相談があったのに放置した、相談窓口が機能していない、調査が杜撰だった、相談者が不利益取扱いを受けた、といった対応不全それ自体が会社のリスクになるからです。厚生労働省は、事業主に対し、方針の明確化と周知、相談体制の整備、相談があった場合の事実関係の迅速かつ正確な確認、被害者・行為者への適正な対処、再発防止措置、プライバシー保護、不利益取扱いの禁止などを求めています。

まず初動の第一歩は、相談を「受け切る」ことです。ここで会社がやりがちなのは、管理職や担当者がその場で「それはハラスメントではない」「よくある指導の範囲だ」「大ごとにしないでほしい」と評価を先行させてしまうことです。しかし、厚生労働省の資料では、現実に発生している場合だけでなく、発生のおそれがある場合や、放置すれば就業環境が悪化するおそれがある場合、ハラスメントに当たるか微妙な場合も含めて広く相談に対応することが求められています。つまり、初期段階で会社が結論を急ぐのではなく、まず相談内容を受け止め、窓口として動き出せる状態にすることが重要です。

次に必要なのは、相談ルートと調査ルートを分けて考えることです。相談窓口は、被害申告を聞く場であると同時に、会社が今後どの程度の調査に進むかを決める入口でもあります。この段階で最低限整理すべきなのは、いつ、どこで、誰が、誰に、何をしたのか、継続性があるのか、証拠や同席者がいるのか、今すぐ保護措置が必要か、という点です。厚生労働省のハラスメント関係指針は、相談があった場合、事実関係を迅速かつ正確に確認することを事業主の義務として位置づけています。

この「迅速かつ正確に確認すること」という要請は、使用者側実務では極めて重い意味を持ちます。遅すぎれば証言や記憶が散り、チャットやメールの証拠も消えやすくなりますし、雑すぎれば結論の信用性が崩れます。したがって、相談を受けた後は、関係資料の保全、ヒアリング対象者の整理、聞き取り順序の設計が重要です。一般には、まず申告者から具体的事情を聴取し、その後、関係者や同席者、最後に行為者本人を聴く流れが取りやすいですが、報復や証拠隠滅のおそれがある場合は順序を工夫する必要があります。ここで重要なのは、最初から「犯人探し」にするのではなく、事実認定のための調査として進めることです。

また、初動で見落としてはならないのが、暫定措置です。ハラスメント相談では、最終結論が出るまで何もしない、という運用が最も危険です。被害申告の内容によっては、席替え、担当変更、接触回避、指揮命令系統の一時調整、在宅勤務の活用、相談者へのメンタル面の支援など、事実認定前でも必要な保護措置をとるべき場面があります。妊娠・出産等ハラスメントの指針でも、事実確認後には被害者への配慮措置を適正に講ずることが求められており、その具体例として職場環境の改善、制度利用に向けた環境整備、関係改善への援助、メンタルヘルス相談対応などが挙げられています。初動でも、この発想を前倒しで持っておくべきです。

さらに、使用者側が強く意識すべきなのが、プライバシー保護と不利益取扱い禁止です。相談したこと自体が職場に漏れたり、相談者が異動・降格・孤立などの不利益を受けたりすると、元のハラスメント問題に加えて会社対応自体が違法視されやすくなります。厚生労働省は、相談者・行為者等のプライバシーを保護するための措置を講じて周知すること、相談したことや事実確認に協力したこと等を理由として不利益な取扱いをしてはならない旨を定め周知することを求めています。

調査実務では、記録の作り方も重要です。使用者側で後に効いてくるのは、「誰が悪いと思ったか」ではなく、「どの資料と供述をもとに、どのように事実認定したか」です。したがって、相談受付票、ヒアリングメモ、チャット・メール・録音等の資料一覧、時系列表、暫定措置の実施記録、最終判断メモを残しておくべきです。特にヒアリングメモは、感想ではなく、日時、発言内容、同席者、供述の揺れ、確認した資料との対応関係が分かる形にすることが重要です。後で会社判断の合理性を支えるのは、この地味な記録です。これはパワハラ、セクハラ、マタハラのいずれでも共通します。

そのうえで、事実が確認できた場合には、被害者への配慮措置、行為者への措置、再発防止の三本を動かさなければなりません。厚生労働省の各指針は、事実確認ができた場合、被害者に対する配慮措置を適正に行うこと、行為者に対する措置を適正に行うこと、再発防止に向けた措置を講ずることを求めています。行為者に対する措置は、就業規則に基づく注意、指導、配置変更、懲戒など事案に応じて選ぶべきであり、被害者保護だけで終わらせると、会社の規律維持としては不十分です。逆に、行為者処分だけを急いで被害者への配慮や再発防止が弱いと、これもまた不十分です。

結局のところ、ハラスメント対応の初動で会社が押さえるべき順番は、相談受付、記録化、暫定保護、迅速かつ正確な事実確認、プライバシー管理、不利益取扱い防止、最終措置、再発防止です。ここで大切なのは、相談を受けた担当者個人の力量に頼らず、会社として同じ手順で動けるようにしておくことです。ハラスメント対応は、放置すると職場秩序の問題になり、急ぎすぎると手続の問題になります。使用者側労働法務としては、「誰が悪いか」を急ぐより先に、「会社としてどう受け、どう調べ、どう守るか」の型を持つことが重要です。

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