遺産使い込みの判決を得た後も安心できない───判決金請求債権を被保全債権とする詐害行為取消請求

判決金請求債権を被保全債権とする詐害行為取消請求
相続をめぐる紛争では、遺産分割そのものよりも先に、預貯金や売却代金、家賃収入などが一部の相続人によって使い込まれてしまうことがあります。しかも、ようやく返還を命じる判決を得ても、その頃には債務者名義の財産が親族や関係者に移され、回収が著しく難しくなっていることは珍しくありません。
このような場面で重要になるのが、詐害行為取消請求です。債務者が財産を移して責任財産を減少させた場合、一定の要件のもとで、その贈与や売買などの財産移転を取り消し、逸出した財産の回復を求めることができます。裁判所の要件事実教材でも、詐害行為取消請求では、被保全債権の発生原因事実、財産権を目的とする行為、当該債権が詐害行為の前の原因に基づくこと、債権者を害すること、詐害意思が請求原因として整理されています。
ここで実務上よく誤解されるのが、**「もう不当利得返還請求権ではなく判決金請求債権なのだから、詐害行為取消の被保全債権として弱いのではないか」**という点です。
しかし、重要なのは債権の呼び名ではありません。問題となるのは、その債権の土台になっている原因事実が、財産移転より前にあるかどうかです。裁判所の整理でも、債権者は、被保全債権について「詐害行為の前の原因に基づいて生じたこと」を主張立証すべきとされており、要するに、判決日そのものよりも、もともとの遺産使い込みという原因事実が先に存在していたかが核心になります。したがって、遺産使い込みが先にあり、その後に返還判決を得て、さらに財産移転がされたような事案では、判決金請求債権を被保全債権として詐害行為取消請求を検討する余地は十分あります。
典型例としては、遺産使い込みが問題化した後に、債務者が自宅不動産を配偶者や子に贈与する、関係の深い第三者に形式的な売買をする、預金を別口座に移す、といったケースです。無償の贈与はもちろん、表面上は対価のある売買であっても、それが実質的に財産隠しの準備になっている場合には問題になります。裁判所の教材でも、詐害行為取消請求の典型的な要件として、行為時の無資力や詐害意思が整理されており、また相当の対価を得た処分であっても、金銭化によって隠匿等のおそれを現に生じさせ、債務者にその意思があり、受益者もそれを知っていたときには、なお取消しの対象となり得るとされています。
実際の訴訟で大切なのは、感情的に「財産を逃がされた」と訴えることではなく、時系列を証拠で固めることです。
つまり、
遺産使い込みの時期、
返還義務を基礎付ける資料、
判決の内容、
財産移転の時期と相手方、
移転当時の資力状況、
受益者の認識、
を丁寧に積み上げる必要があります。
裁判所の要件事実でも、請求原因として、被保全債権の発生原因、財産処分行為、その先後関係、無資力、詐害意思を順に主張立証する構造が示されています。裏を返せば、証拠の拾い方と並べ方で、事件の強さは大きく変わります。
さらに注意したいのは、詐害行為取消請求には期間制限があることです。裁判所の教材では、債務者が債権者を害することを知って行為をしたことを債権者が知った時から2年、また詐害行為の時から10年を経過すると、訴えを提起できないと整理されています。判決を得て安心している間に、取消しの手当てが遅れることは避けなければなりません。
遺産使い込みの事案では、「勝てるかどうか」だけでなく、「回収できるかどうか」まで見て動く必要があります。
せっかく返還判決を得ても、相手方の財産移転を放置すれば、判決が実質的に空振りになることがあります。逆に、早い段階で財産の動きを把握し、判決金請求債権を前提に詐害行為取消請求や執行の組み立てを進めれば、回収可能性は大きく変わります。
遺産の使い込みで判決を得たものの回収に不安がある方、相手方の財産移転が疑われる方は、判決取得後の回収局面まで含めて、早めに弁護士へ相談することをお勧めします。