第7講 保証契約|主債務との関係を外さずに請求を立てるには
第7講
保証契約|主債務との関係を外さずに請求を立てるには

保証契約の事件でまず押さえなければならないのは、保証債務は主債務から独立して単独で立つものではないということです。民法446条は、保証人は主たる債務者がその債務を履行しないときに、その履行をする責任を負うと定めています。また、保証契約は書面でしなければ効力を生じず、その内容を記録した電磁的記録による場合も書面と同様に扱われます。つまり、保証請求の事件では、単に「この人が保証人です」と言うだけでは足りず、何の債務について、どのような保証契約が成立したのかを、主債務とのつながりごと示さなければなりません。
要件事実的にみると、債権者が保証人に対して請求を立てる場面では、まず、主債務の発生原因、内容、金額、弁済期の到来を押さえる必要があります。そのうえで、その主債務を対象とする保証契約が、誰と誰の間で、どの範囲について成立したかを積み上げることになります。保証は主債務への付従性を持つため、主債務の輪郭が曖昧なままでは、保証請求も不安定になります。たとえば、売買代金債務を保証するのか、貸金債務を保証するのか、継続的取引から生じる将来債務まで含むのかによって、訴訟の組み立てはかなり違ってきます。保証事件でありがちな失敗は、保証契約書や念書だけを前面に出し、肝心の主債務の特定が弱いまま進んでしまうことです。
さらに、保証債務の範囲も軽視できません。民法447条は、保証債務が、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たるすべてのものを包含すると定めています。他方で、448条は、保証人の負担が主たる債務より重いときは、主たる債務の限度に減縮されるという建て付けを採っています。したがって、債権者側としては、元本だけでなく遅延損害金や違約金まで請求したい場面が多いのですが、その前提として、何が主債務に従たるものとして保証の射程に入るのかを丁寧に整理する必要があります。逆に保証人側からみれば、主債務を超える負担を当然に押しつけられるわけではないという点が、重要な反論の足場になります。
もっとも、通常の保証では、債権者は直ちに保証人へ全額請求できるとは限りません。民法452条は、債権者が保証人に履行請求をしたとき、保証人は、まず主たる債務者に催告するよう求めることができるという催告の抗弁を定め、453条は、主たる債務者に弁済資力があり、かつ執行が容易であることを示したときは、まず主たる債務者の財産について執行するよう求めることができるという検索の抗弁を定めています。したがって、保証請求訴訟では、単に主債務の存在と保証契約の成立だけでなく、その保証が通常保証なのか、連帯保証なのかを外さずに押さえる必要があります。
ここで決定的に重要なのが、連帯保証です。民法454条は、保証人が主たる債務者と連帯して債務を負担したときは、前記の催告の抗弁・検索の抗弁を有しないと定めています。実務で「保証人」と言われているものの多くは、実際には連帯保証として作られているため、債権者側はこの点を請求原因のレベルで押さえれば、主たる債務者への先行追及を経ずに保証人へ請求しやすくなります。逆に保証人側としては、契約書の文言、署名経緯、保証条項の位置づけを精査し、本当に連帯保証まで引き受けているのかを点検することが重要です。保証事件では、「保証」か「連帯保証」かの違いが、そのまま防御手段の違いになります。
また、保証契約の事件では、保証人が「保証したのは確かだが、何の債務を保証したのかははっきりしない」という形で争われることが少なくありません。特に継続的取引、賃貸借、取引基本契約、親族間の貸付けのような場面では、保証の対象債務が一個の特定債務なのか、将来発生する不特定債務まで含むのかで、責任範囲は大きく変わります。この意味で、保証請求の事件は、保証契約書そのものの文言だけでなく、主契約、請求書、取引経過、更新や変更の有無まで含めて読み解く必要があります。主債務の内容が途中で変わっているのに保証契約がそれに追随しているのか不明な場合、債権者の請求は思った以上に脆くなります。これは、保証があくまで主債務に従たるものであるという構造から当然に導かれます。
加えて、近年の実務で非常に重要なのが、個人保証に関する保護規定です。まず、個人根保証契約については、民法465条の2以下が規律を置いており、個人根保証では極度額の定めが必要です。将来発生する不特定の債務を個人に無限定に保証させることを防ぐためであり、保証人が個人である場面では、契約書に極度額の明確な定めがあるかが実務上の重要チェックポイントになります。したがって、継続的取引や賃貸借、反復的貸付けなどに関する保証では、単に「全部保証する」といった抽象的文言だけでは済まず、個人根保証として有効な形になっているかが先に問われます。
さらに、事業用融資に関する第三者の個人保証については、民法465条の6以下により、原則として公証人による保証意思確認を経なければ効力を生じません。法務省の説明資料によれば、この規制は、個人的情義などから安易に保証人となり、想定外の多額の保証債務を負って生活破綻に至る事例を防ぐ趣旨で設けられたものです。他方で、主債務者が法人である場合の取締役等や議決権の過半数保有者、主債務者が個人である場合の共同事業者や、事業に現に従事している配偶者などには例外があります。ですから、事業資金の融資に関する個人保証では、債権者側は「保証契約書がある」だけで安心できず、公正証書による意思確認が必要な類型か、例外類型かまで点検しなければなりません。
保証人保護は、契約締結時だけではありません。現行民法には、保証人への情報提供に関する規定も置かれています。法務省資料によれば、個人保証一般について、主たる債務者が期限の利益を喪失したときは、債権者はそれを知った時から2か月以内に保証人へ通知しなければならず、通知を怠ると、その間に生じた遅延損害金については保証人へ請求できないと整理されています。また、主たる債務者の履行状況に関する情報提供義務や、事業上の債務について個人に保証を委託する場合の、主たる債務者から保証人への財産状況・収支・他の債務・担保状況等の情報提供義務も設けられています。後者については、一定の要件の下で保証人に取消権が認められます。保証事件では、こうした情報提供ルール違反が、請求の全部又は一部を崩す防御手段になり得ます。
結局のところ、保証契約の事件でいちばん大切なのは、保証を単独の約束として扱わないことです。債権者側からみれば、主債務の発生・内容・履行期 → 保証契約の成立と方式 → 通常保証か連帯保証か → 個人保証特有の無効事由・取消事由・情報提供ルールという順番で組み立てる必要があります。逆に保証人側からみれば、主債務の不明確さ、保証の対象範囲、連帯保証性の有無、極度額欠缺、公証手続の欠缺、情報提供義務違反など、攻めどころは相当にあります。保証事件は、表面上は「保証人だから払え」という単純な構図に見えますが、実務では、主債務との関係を一つでも外すと請求全体が不安定になる契約類型だといえるでしょう。