第11講  契約解除と損害賠償の横断整理|どの契約類型でも最後に問題になること

第11講
契約解除と損害賠償の横断整理|どの契約類型でも最後に問題になること

売買、請負、賃貸借、消費貸借、委任、和解と、契約類型ごとに請求原因や典型抗弁はかなり違います。しかし、紛争が煮詰まってくると、最後はかなりの頻度で、解除できるのか解除したとして何をどこまで請求できるのか、そして損害賠償はどの範囲まで認められるのかという横断的な論点に収れんします。民法も、契約各論の外側に、債務不履行による損害賠償、契約解除、解除の効果、賠償額の予定といった共通ルールを置いており、ここを押さえると、個別契約の見え方がかなり整理されます。

まず、損害賠償の出発点は民法415条です。現行法は、債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき、または履行が不能であるときに、債権者は損害賠償を請求できるとしつつ、その不履行が契約その他の債務発生原因および取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由による場合には免責される、という構造を採っています。さらに、同条2項は、履行不能、履行拒絶の明確表示、契約解除または解除権発生の場合には、履行に代わる損害賠償を請求できると定めています。したがって、実務では、損害賠償請求を立てるとき、単に「約束違反があった」と言うだけでは足りず、どの不履行類型なのか、免責事由はないのか、履行請求を維持するのか、それとも履行に代わる賠償へ切り替えるのかを区別する必要があります。

そのうえで、損害の範囲は民法416条が決めています。条文は、債務不履行に対する損害賠償は、まず通常生ずべき損害を対象とし、さらに特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見すべきであったときは請求できるとしています。したがって、契約実務では、逸失利益、追加費用、転売損、代替調達費、営業上の波及損害などを主張する場面でも、それが通常損害なのか、それとも特別事情に基づく損害なのかを意識しなければなりません。ここを曖昧にすると、金額を大きく積んでも、法的な射程の説明が弱くなります。

次に、解除です。解除は当然に起こるのではなく、民法540条により、相手方に対する意思表示によって行い、その意思表示は撤回できません。つまり、解除は、頭の中で「もう終わりだ」と考えただけでは足りず、どの時点で、どの不履行を理由に、解除の意思を表示したのかが訴訟上の問題になります。内容証明郵便、メール、訴状送達、準備書面など、どの行為が解除の意思表示に当たるのかは、かなり実務的な論点です。

解除の原則形は民法541条の催告解除です。当事者の一方が債務を履行しない場合、相手方は相当期間を定めて履行を催告し、その期間内に履行がなければ契約を解除できます。ただし、期間経過時点の不履行が、その契約および取引上の社会通念に照らして軽微であるときは解除できません。ここが実務で非常に重要で、解除の可否は、単に期限徒過があったかだけでなく、その不履行が契約全体から見てどの程度の重みを持つかで決まります。ですから、「一度遅れたから直ちに解除できる」と短絡するのではなく、催告の内容、相当期間の長さ、不履行部分の重大性を丁寧に見なければなりません。

他方で、民法542条は無催告解除を認める場面を列挙しています。典型は、債務の全部の履行が不能である場合、債務者が全部の履行を拒絶する意思を明確に示した場合、一部不能や一部拒絶でも残部だけでは契約目的を達せない場合、定期行為のように特定時期に履行しなければ契約目的を達成できない場合、そのほか催告しても契約目的に足りる履行がされる見込みがないことが明らかな場合です。つまり、解除において本当に問われているのは、「催告を要するか」という形式だけではなく、なお履行を待つ意味があるのか残部の履行で契約目的を達せられるのかという実質です。

もっとも、債権者側に原因がある不履行であれば、話は変わります。民法543条は、不履行が債権者の責めに帰すべき事由によるものであるときは、債権者は541条・542条による解除ができないと定めています。したがって、解除の事件では、債務者の不履行ばかりを見るのではなく、受領拒絶、協力義務違反、仕様未確定、履行環境の不備など、債権者側の振る舞いが解除を妨げる事情になっていないかも点検しなければなりません。

解除の効果については、民法545条が中心です。条文は、解除権が行使されると、各当事者は相手方を原状に復させる義務を負い、金銭を返還するときは受領時からの利息を付し、解除権の行使は損害賠償請求を妨げないとしています。さらに546条は、この場面に533条の規定を準用しています。したがって、解除は「白紙に戻す」だけの制度ではなく、原状回復と損害賠償が併存し得る制度です。実務で大事なのは、解除したから当然に金銭請求が消えるわけでも、解除したら損害賠償に移れないわけでもない、という点です。解除後は、原状回復請求と損害賠償請求をどう組み合わせるかが問題になります。

このあたりは、契約類型ごとに姿を変えて現れます。売買なら、解除によって目的物返還と代金返還が問題になりつつ、契約不適合による拡大損害や代替調達費が乗ってきます。請負なら、完成物や出来高部分の返還・評価が絡み、賃貸借なら、解除後の明渡し、未払賃料、使用利益相当額、原状回復が連続します。つまり、解除それ自体は横断論点ですが、その後ろに続く原状回復の中身は、各契約類型の性質によって相当違ってきます。だからこそ、解除一般の条文を押さえたうえで、各論との接続を誤らないことが重要になります。

さらに、契約実務では賠償額の予定違約金条項がよく登場します。民法420条は、当事者が債務不履行について損害賠償額を予定できること、その場合に裁判所は原則として増減できないこと、そして賠償額の予定は履行請求や解除権行使を妨げないことを定めています。また、違約金は、賠償額の予定と推定されます。したがって、契約書に違約金条項がある事件では、それが単なる制裁文言なのか、損害額の予定として働くのか、そして解除や履行請求との関係をどう整理するのかが重要になります。違約金条項があるから他の請求が全部排除される、と短絡するのは危険です。

結局のところ、どの契約類型でも最後に問われやすいのは、①どの不履行があり、②それが415条上の損害賠償に結び付くのか、③541条・542条で解除できるのか、④545条以下で解除後をどう処理するのか、⑤416条で損害範囲をどこまで取れるのか、⑥420条の賠償額予定や違約金がどう効くのか、という流れです。契約各論の知識だけでは、ここで詰まります。逆に、この横断整理が入ると、売買でも請負でも賃貸借でも、「今どの段階の争いをしているのか」がかなり見えやすくなります。契約事件の終盤で強いのは、個別条文をたくさん知っている人というより、解除と損害賠償の共通構造を崩さずに運べる人だと思います。

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