第4講 遺産には何が含まれるのか|不動産・預金・株式・借金まで

第4講 遺産には何が含まれるのか|不動産・預金・株式・借金まで

相続の場面でまず問題になるのは、「そもそも何が遺産に入るのか」という点です。
多くの方は、相続と聞くと、自宅、預金、株式のようなプラスの財産を思い浮かべます。もちろんそれらは典型的な相続財産です。しかし、相続は「財産をもらう制度」というより、亡くなった方の財産関係を包括的に引き継ぐ制度です。民法896条は、相続人が被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継すると定めており、相続の対象には負債も含まれます。

したがって、相続を考えるときは、何が残っているかだけではなく、何を負っていたかまで見なければなりません。
しかも実務では、遺産に入るもの、遺産分割の対象になるもの、税法上は相続税の対象になるものが、きれいに一致しないことがあります。この違いを早めに整理しておくと、後の混乱をかなり防ぐことができます。

1 相続財産の基本は「権利も義務も引き継ぐ」ということ

民法896条の出発点は明快です。
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継します。ただし、被相続人の一身に専属したものは承継しません。つまり、基本は包括承継であり、例外としてその人だけに結びついた権利義務は相続されない、という構造です。

この考え方からすると、相続財産には、所有権、預金債権、株式などの権利だけでなく、借入金や未払金などの債務も含まれます。
家庭裁判所の財産目録書式でも、不動産、預貯金、債権、その他の財産と並んで、負債の欄が独立して設けられており、実務上も「プラスの財産だけを調べればよい」という扱いにはなっていません。

2 典型的に相続財産に入るもの

まず分かりやすいのは、不動産です。
被相続人名義の土地や建物は、典型的な相続財産です。自宅、賃貸アパート、駐車場用地、山林、農地など、名義が被相続人にある不動産は相続の対象になります。法務省の相続登記案内でも、相続人が法定相続人や遺産分割の内容を証する書類を添えて、不動産の名義変更を行うことが前提になっています。

預貯金も、相続財産の中心です。
普通預金、定期預金、貯蓄預金など、金融機関にある被相続人名義の口座は、相続開始によってそのまま相続の問題になります。銀行実務では、死亡の申出があると口座が凍結されることが多く、その後は相続手続に従って払戻しや解約が進められます。家庭裁判所の財産目録でも、預貯金は主要な財産項目として整理されています。

株式や投資信託などの有価証券も、当然に相続財産に入ります。
上場株式、非上場株式、投資信託、国債などは、被相続人が持っていた財産的価値ある権利として相続の対象です。中でも非上場株式は、金額評価だけでなく、会社支配権や事業承継とも結びつくため、単なる「金融資産」として片付けにくいことがあります。相続税の案内でも、有価証券は相続税の対象財産の典型として扱われています。

さらに、貸付金や未収金、損害賠償請求権などの債権も、原則として相続財産になり得ます。
家庭裁判所の書式でも、「債権(貸付金、損害賠償金など)」が財産目録の対象として示されており、被相続人が誰かにお金を貸していた、売掛金が残っていた、損害賠償の請求権を有していたといった場合には、これも相続の検討対象になります。

3 借金や負債も相続される

相続で見落とされやすいのが、借金です。
住宅ローン、事業資金の借入れ、カードローン、消費者金融からの借入れ、未払金、滞納税、公租公課など、被相続人が負っていた債務は、原則として相続の対象になります。民法896条が「一切の権利義務」を承継するとしている以上、プラスの財産だけ受け取り、マイナスの財産だけ切り離すことは原則できません。

家庭裁判所の財産目録でも、負債は独立の項目として記載が求められており、実務上も、相続開始後は資産とともに債務の有無を調査することが前提になっています。
たとえば、預金が相当額あっても、連帯保証や多額の借入れが隠れていれば、見かけほど有利な相続ではないことがあります。こうした場合に相続放棄や限定承認の検討が必要になるのは、相続が「負債も含めて引き継ぐ制度」だからです。

4 一身専属のものは相続されない

もっとも、何でも相続されるわけではありません。
民法896条ただし書は、「被相続人の一身に専属したもの」は承継しないとしています。これは、その人だけに強く結びついた権利義務は、死亡によって当然に相続人へ移るものではない、という考え方です。

この第4講では細かい類型論までは立ち入りませんが、最低限、「被相続人の財産に属した一切の権利義務」という原則にも例外があることは押さえておくべきです。
相続の実務では、「これは相続財産に入るのか、それとも本人固有の問題で終わるのか」が争点になることがあるため、迷ったものは早めに整理する必要があります。

5 祭祀財産は通常の遺産とは別のルールで承継される

もう一つ重要なのが、祭祀財産です。
民法897条は、系譜、祭具、墳墓の所有権については、民法896条の一般的な相続承継とは別に、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継すると定めています。被相続人の指定があればその指定が優先し、指定がないときは家庭裁判所が定めることがあります。

つまり、墓地、墓石、仏壇、仏具などは、通常の意味で「相続人全員で分ける遺産」とは少し違う扱いになります。
税法上も、国税庁は、墓地や墓石、仏壇、仏具、神を祭る道具など日常礼拝をしている物は相続税がかからない主な財産として挙げています。もちろん、骨とう的価値があるなど投資対象になるものは別ですが、一般的な祭祀財産は通常の分割対象や課税対象とはずれることがあります。

6 生命保険金は「遺産」と「税務」で扱いがずれることがある

実務で非常に誤解が多いのが、生命保険金です。
家庭裁判所の遺産分割手続Q&Aでは、相続人が受取人に指定されている生命保険金は、その相続人の固有財産になると整理されています。つまり、典型的には、普通の意味での遺産分割の対象と当然に同じになるとは限りません。

しかし、税法上は別の見方が入ります。
国税庁は、被相続人の死亡によって取得した生命保険金で、被相続人が保険料を負担していたものなどは、相続税の課税対象になると説明しています。さらに、そのような死亡保険金は相続税法上のみなし相続財産として扱われます。したがって、民事上の遺産分割の対象かどうかと、税法上の課税対象かどうかは、同じではありません。

このずれは、相談の現場で非常に重要です。
「保険金は遺産ではないから完全に無関係」と思い込むのも危険ですし、「保険金も当然に全員で分けるべきだ」と短絡するのも危険です。保険契約者、被保険者、保険料負担者、受取人が誰かによって、民事と税務の整理が変わり得ます。

7 死亡退職金も税法上は相続税の対象になり得る

死亡退職金についても、似た注意が必要です。
国税庁は、被相続人に支給されるべきであった退職手当金や功労金などを受け取ったときは、相続税の課税対象になると案内しています。これは、通常の意味での相続財産と同じかどうかとは別に、税法上はみなし相続財産として扱われる場面があるということです。

そのため、会社から「死亡退職金が出る」と聞いたときには、単に受け取って終わりではなく、誰が受取人か、相続税との関係はどうか、遺産分割との関係をどう整理するかを見ておく必要があります。
相続では、財産の名目だけで判断するのではなく、法的性質と税務上の扱いを分けて考える場面が少なくありません。

8 結局、実務では「財産目録」を作る発想が大切である

相続で揉めやすいのは、最初から「何をどう分けるか」に入ってしまうからです。
本来はその前に、まず何があるのか何が負債なのか何が通常の遺産とは違う扱いになるのかを一覧化する必要があります。家庭裁判所の財産目録の作成例でも、現金、預貯金、不動産、債権、その他、自動車、負債などを項目ごとに整理する形になっています。

この作業を丁寧に行うだけで、相続の見通しはかなり変わります。
不動産はあるがローンも残っている、預金は少ないが株式はある、生命保険金は出るが通常の遺産分割対象とは整理が違う、といったことが見えてくるからです。相続は「分ける前の棚卸し」が非常に大切な分野です。

9 まとめ|遺産は「プラスもマイナスも」見る必要がある

相続財産には、不動産、預貯金、株式、貸付金などのプラス財産だけでなく、借金や未払金などの負債も含まれます。民法896条は、相続人が被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継すると定めており、相続は包括承継が原則です。

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