第5講 相続開始後にまず何をするか|初動対応と必要書類

第5講 相続開始後にまず何をするか|初動対応と必要書類

相続は、人が亡くなった瞬間から法律上始まります。
もっとも、実際の現場では、悲しみや慌ただしさの中で「何から手を付ければよいのか分からない」という状態になりがちです。しかし、相続には後回しにしてよいことと、早めに確認しなければならないことがあります。特に、相続放棄のように期間制限のある手続や、不動産の相続登記のように義務化された手続があるため、初動で全体像をつかむことが重要です。

相続開始後の初動は、突き詰めると次の四つに整理できます。
すなわち、誰が相続人かを確定すること、遺言書の有無を確認すること、何が遺産かを把握すること、借金がないかを調べることです。この土台が固まらないまま預金払戻しや遺産分割の話合いに入ると、途中で前提が崩れ、やり直しになる危険があります。金融機関や法務局の手続でも、結局は戸籍、遺言、相続関係、財産資料の提出が求められます。

1 まず確認すべきなのは「期限のある手続」である

相続開始後に最初に意識すべきなのは、何よりも期限のある手続があるという点です。
代表例は相続放棄です。家庭裁判所は、相続放棄の申述は、民法により「自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内」にしなければならないと案内しています。また、承認するか放棄するかをその期間内に決められない場合には、家庭裁判所に熟慮期間の伸長を申し立てることができます。

したがって、死亡直後の段階で「財産はありそうだが借金も不安だ」「事業関係の負債や保証が見えない」「故人の資料が散らばっていて中身が分からない」という場合には、まず3か月という時計が動いていることを意識すべきです。
この段階で安易に判断する必要はありませんが、少なくとも放棄を検討すべき事案かどうかは早めに見極める必要があります。家庭裁判所も、申述先は被相続人の最後の住所地の家庭裁判所であると案内しています。

また、不動産がある場合には、相続登記も放置できません。
法務省は、令和6年4月1日から、相続や遺言によって不動産の所有権を取得した相続人は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、その不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請する義務があると案内しています。遺産分割が成立した場合には、その成立日から3年以内に分割内容を踏まえた登記申請も必要です。

2 最初にやるべきことは、遺言書の有無を確認することである

相続開始後の初動として、非常に大きな意味を持つのが遺言書の有無の確認です。
遺言書があるかないかで、その後の流れはかなり変わります。遺言書があれば、その内容に従って遺産の帰属が決まることがあり、遺言書がなければ相続人全員による遺産分割協議が必要になるのが原則です。金融機関の相続手続でも、遺言書の有無は最初に確認される主要項目です。

ここで大切なのは、遺言書の種類によって対応が違うということです。
法務局に保管されている自筆証書遺言については、相続開始後、家庭裁判所での検認が不要です。これに対し、法務局保管ではない自筆証書遺言や秘密証書遺言は、通常、家庭裁判所での検認が必要です。法務局の案内でも、この制度で保管された遺言書は検認不要であることが明示されていますし、相続登記の必要書類案内でも、法務局保管以外の遺言書には検認が必要と整理されています。

そのため、遺言らしき書面を見つけたときは、すぐに内容どおり動き出すのではなく、まずどの方式の遺言か、検認が必要か、法務局保管かを確認する必要があります。
この確認を飛ばすと、その後の預金払戻しや不動産登記の段階で手続が止まることがあります。ゆうちょ銀行の案内でも、遺言書がある場合、自筆証書遺言・秘密証書遺言は検認済みのものが必要であるとされています。

3 次に、相続人を確定するために戸籍を集める

遺言書の有無と並んで、初動で欠かせないのが相続人の確定です。
相続では、感覚的に「家族だから相続人だろう」と考えるのでは足りません。前婚の子、養子、代襲相続人などがいると、見込みと法的結論がずれることがあります。そのため、最終的には戸籍で相続人を確定する必要があります。法定相続情報証明制度も、戸除籍謄本等の束と相続関係一覧図を提出する仕組みとして設けられています。

実務上、まず集めることになるのは、被相続人の戸籍関係書類です。
金融機関の相続手続では、被相続人の婚姻から死亡までの連続した戸籍謄本が必要書類の例として挙げられています。また、法務局の相続登記関係の案内でも、相続人の範囲を確認するために戸籍関係書類が必要になる前提で説明されています。

戸籍集めは面倒に感じられがちですが、ここを雑にすると後で必ずひずみが出ます。
たとえば、一部の相続人が漏れたまま遺産分割協議書を作っても、その協議は有効に成立しません。調停申立ての場面でも、裁判所は当事者の戸籍謄本等の提出を求めています。つまり、戸籍は単なる形式資料ではなく、相続手続の土台です。

4 財産調査は「あるもの」だけでなく「負債」も見る

相続の初動でやってしまいがちな誤りは、預金や不動産などのプラス財産だけを見てしまうことです。
しかし、相続は権利だけでなく義務も承継する制度ですから、負債の有無まで調べなければなりません。家庭裁判所の財産目録書式でも、現金、預貯金、不動産、債権等と並んで負債欄が設けられており、実務上も資産と負債を一体で把握することが前提になっています。

したがって、初動では、通帳、不動産関係書類、証券会社からの郵便物、固定資産税関係資料、保険証券、借入契約書、ローン返済予定表、クレジット関係資料などを一か所に集める発想が大切です。
特に不動産については、法務局の案内でも、相続登記や評価のために固定資産課税明細書や固定資産評価証明書が必要になるとされています。遺産分割調停の必要書類案内でも、不動産登記事項証明書や固定資産評価証明書、預貯金の残高証明書や通帳写しが典型資料として挙げられています。

この段階では、財産を完全に評価し切る必要まではありません。
まず大事なのは、どの金融機関に口座があるのか、どんな不動産があるのか、借金や保証が見当たらないかを一覧にすることです。後で正確な評価や分配を考えるとしても、最初の棚卸しが雑だと、放棄の判断も協議の見通しも立ちません。

5 預金口座は「死亡の申出」と「必要書類の準備」が実務の入口になる

預金については、相続開始後、金融機関ごとの手続に従って動かすことになります。
少なくとも一般的には、名義人の死亡が金融機関に把握されると、相続手続が完了するまで口座が停止される流れになります。ゆうちょ銀行でも、相続の申出があると当該口座に停止設定を行うと案内しています。

そのうえで、金融機関は相続確認表や必要書類の提出を求めます。
ゆうちょ銀行の例では、遺言書の有無、被相続人の情報、相続人全員の情報、口座情報等を確認した上で、被相続人の連続した戸籍謄本、通帳等、相続人の印鑑登録証明書、場合によっては遺産分割協議書や検認済み遺言書などを提出する流れになっています。もっとも、必要書類は相続形態や金融機関によって異なるため、各金融機関の個別案内に従う必要があります。

したがって、初動では「すぐに下ろせるか」よりも、「どこの金融機関に何があり、どの書類が必要になるか」を押さえることが重要です。
この視点があるだけで、口座凍結後に慌てて戸籍や協議書を集める展開をかなり避けることができます。

6 不動産があるなら、早い段階で名義と資料を確認する

不動産がある相続では、できるだけ早く名義と資料の確認をしておくべきです。
不動産は、相続人間での分け方が難しいだけでなく、今は相続登記が義務化されているため、長く放置することの不利益が以前より大きくなっています。法務省は、相続登記の申請義務違反には、正当な理由がない場合、10万円以下の過料の対象となり得るとしています。

この段階で手元に置いておきたい資料としては、固定資産税の納税通知書や課税明細書、登記事項証明書、固定資産評価証明書などがあります。
法務局の相続登記関係資料でも、固定資産課税明細書や固定資産評価証明書、相続する方の住民票、戸籍関係書類などが必要書類として示されています。調停の必要書類でも、不動産登記事項証明書と固定資産評価証明書が基本資料です。

つまり、不動産相続の初動では、「どの不動産があるか」を知るだけでは不十分で、誰名義か、評価資料は何か、今後の登記に何が要るかまで見ておくことが大切です。
ここが曖昧だと、共有のまま放置される、不動産だけ後回しになる、登記の段階で資料不足になる、といった問題が起きやすくなります。

7 必要書類は「相続人確定」「財産把握」「手続先提出」に分けて考える

相続開始後に集める書類は、多そうに見えて、整理するとそれほど複雑ではありません。
大きく分ければ、相続人を確定する書類、財産を把握する書類、提出先に出すための本人確認・印鑑関係書類の三つです。法定相続情報証明制度も、戸除籍謄本等と相続関係一覧図を整えて、その後の各種手続に使いやすくする制度です。

相続人確定のためには、被相続人の戸籍・除籍・改製原戸籍や、相続人の現在戸籍が中心になります。
財産把握のためには、通帳、残高証明、証券資料、保険証券、登記事項証明書、固定資産評価証明書、固定資産課税明細書、借入資料などが典型です。提出先向けには、住民票、印鑑登録証明書、遺産分割協議書、遺言書、場合によっては遺言執行者選任審判書などが必要になります。これは法務局、家庭裁判所、金融機関の各案内に沿った整理です。

この三つに分けて考えると、やるべきことがかなり見えやすくなります。
相続の初動で大事なのは、完璧に処理することではなく、どの書類がどの目的で必要なのかを見失わないことです。

8 まとめ|初動では「急ぐべきこと」と「整理すべきこと」を分ける

相続開始後にまずやるべきことは、慌てて分け方を決めることではありません。
まず、相続放棄の3か月や相続登記の3年といった期限のある問題を意識しつつ、遺言書の有無、相続人の確定、財産と負債の把握を進めることが重要です。とりわけ、相続放棄は被相続人の最後の住所地の家庭裁判所への申述が必要であり、不動産は相続登記の申請義務の対象になります。

必要書類としては、戸籍関係書類、通帳や残高資料、不動産関係資料、印鑑登録証明書、住民票、遺言書、遺産分割協議書などが中心になります。
もっとも、提出先ごとに必要書類は少しずつ違うため、法定相続情報証明制度の活用も視野に入れつつ、金融機関や法務局、裁判所の案内に沿って整えるのが実務的です。

結局のところ、相続の初動で大切なのは、急ぐべきものは急ぎ、急がなくてよいものは整理して進めるという姿勢です。
この順番を守るだけで、後の混乱ややり直しをかなり減らすことができます。

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