第15講 親の介護や貢献はどう評価されるか|寄与分の基本

第15講 親の介護や貢献はどう評価されるか|寄与分の基本

相続では、「長年親の介護をしてきたのに、法定相続分どおりでは納得できない」「兄は家業を無報酬で支えてきた」「自分だけが親にお金を出してきた」といった不満が非常に多く出ます。
こうした場面で問題になるのが寄与分です。寄与分とは、共同相続人のうち、被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者について、法定相続分に上乗せする形で考慮される取り分のことです。裁判所の案内でも、遺産分割に当たり、特別に寄与した相続人には法定相続分のほかに寄与分が認められ得ると整理されています。

もっとも、寄与分は「苦労した人が報われる制度」とだけ理解するとずれます。
法律上の中心は、あくまで被相続人の財産の維持又は増加に結び付く特別の寄与があったかどうかです。したがって、精神的支えになった、気持ちの上で一番尽くした、というだけでは足りず、財産面との結び付きが必要になります。これは民法904条の2の文言と、裁判所の手続案内の整理から導かれます。

1 寄与分が認められる人は「相続人」である

まず大前提として、寄与分を主張できるのは共同相続人です。
裁判所の寄与分調停案内でも、申立人は、事業労務、財産上の給付、療養看護その他の方法により特別の寄与をした相続人とされています。つまり、どれほど尽くしていても、相続人でない人は、原則としてこの「寄与分」そのものは主張できません。

この点は実務で非常に重要です。
たとえば、長男の妻が主に介護を担っていたような場面では、直ちに「その妻の寄与分」が問題になるわけではありません。もっとも、現在は、相続人ではない親族については別途特別寄与料の制度があり、一定の要件のもとで金銭請求が可能です。裁判所は、相続人ではない被相続人の親族が無償で療養看護その他の労務提供をした場合、特別寄与料を請求し得ると案内しています。

2 どんな行為が寄与分の対象になり得るのか

民法904条の2が典型として挙げているのは、被相続人の事業に関する労務の提供、財産上の給付、被相続人の療養看護、その他の方法です。
裁判所の寄与分調停案内でも、申立人の類型としてこの文言がそのまま示されています。したがって、実務で問題になりやすいのは、①家業従事型、②金銭等の給付型、③療養看護型、④財産管理型、という整理です。

ユーザーが挙げた同居介護、家業従事、療養看護は、まさにこの中心類型に当たります。
たとえば、無報酬又は低報酬で長年家業を支え、従業員を雇う費用を節約させた場合や、無償で療養看護を行い、本来必要だった介護費用や付添費用の支出を免れさせた場合は、財産の維持に結び付く形で寄与分が問題になりやすい、という理解になります。これは条文の類型と、裁判所が要求する「財産の維持又は増加」という要件から導かれる実務的整理です。

3 同居して介護しただけで足りるのか

ここが最も誤解されやすい点です。
親と同居していた、介護をしていた、頻繁に病院へ連れて行っていた、という事情はもちろん重要ですが、それだけで直ちに寄与分が認められるわけではありません。家庭裁判所は、親族間において通常期待される程度を超えた貢献が必要だと明示しており、単に他の相続人より頑張っていたというだけでは足りないとしています。

したがって、介護型の寄与分では、どの程度の負担だったのか、どれほど継続的だったのか、無償だったのか、外部サービス利用をどれだけ代替したのかが問題になります。
実務的には、通常の親族的扶助の範囲を超えて、介護費用や付添費用の支出を相当程度免れさせたといえるかが焦点になりやすいです。これは、裁判所の「通常期待される程度を超える」基準と、条文が要求する「財産の維持又は増加」の要件を合わせて読むと自然です。

4 家業従事型は比較的イメージしやすい

寄与分の中で分かりやすいのが、家業従事型です。
相続人が被相続人の事業に長年従事し、無報酬または著しく低い報酬で働いていたため、本来必要な人件費の支出を免れさせ、事業財産の維持・増加に寄与した、という構図です。裁判所の案内でも、「被相続人の事業に関する労務の提供」は典型的な寄与類型として明記されています。

ただし、ここでも「家族だから多少手伝うのは普通」という反論が出ます。
そのため実務では、従事期間、労務内容、他の従業員との比較、報酬の有無や相場との差、事業への貢献度などを資料で積み上げる必要があります。東京家裁の案内でも、調停では事情聴取と資料提出を踏まえて判断が進むとされていますし、裁判所は主張を裏付ける資料の提出を求めています。

5 金銭を出した場合も寄与分になり得る

親のためにお金を出していた場合も、寄与分の問題になり得ます。
民法904条の2は、寄与類型として財産上の給付を明示しており、裁判所の案内も同じ文言を用いています。したがって、被相続人の債務を肩代わりした、医療費や施設費を相当程度負担した、事業資金を無償で入れた、といった事情は、財産の維持・増加に結び付く限り、寄与分として主張される余地があります。

もっとも、ここでも全部が当然に認められるわけではありません。
親族間の通常の扶養の範囲内なのか、それとも相続分の調整を要するほど特別な財産的支出なのかが問題になります。したがって、支払額、支払目的、継続性、被相続人の資力状況などを具体的に示す必要があります。これは裁判所が要求する「特別の寄与」の性質からの帰結です。

6 寄与分はどうやって反映されるのか

寄与分は、遺産の全部に別枠で加算される“賞金”のようなものではありません。
民法904条の2の考え方は、相続財産から寄与分を控除した残額を基礎に各人の相続分を計算し、そのうえで寄与をした相続人にはその寄与分を加える、というものです。法務局資料でも、具体的相続分は、相続財産額から寄与分総額を控除し、その後に個々の相続人の寄与分を加算する形で整理されています。

要するに、寄与分は具体的相続分を動かす制度です。
そのため、「寄与分が認められたら別に現金がもらえる」と単純化するより、「遺産分割の取り分計算に上乗せ要素として入る」と理解した方が正確です。裁判所も、法定相続分のほかに寄与分が認められるという表現を使っています。

7 話合いで決まらなければ家庭裁判所へ行く

寄与分は、相続人同士で協議がまとまればその中で処理できます。
裁判所は、寄与分について相続人の協議が調わないとき、又は協議ができないときには、家庭裁判所の調停又は審判の手続を利用できると案内しています。寄与分を定める処分調停では、当事者双方から事情を聴き、必要に応じて資料を提出してもらいながら、合意を目指して話合いが進められます。

ここで実務上重要なのは、すでに遺産分割調停が係属している場合には、その中で寄与分の主張を話合いの対象にできるという点です。
東京家裁は、遺産分割調停が既に申し立てられている場合には、別途の寄与分調停申立てがなくても、その主張は話合いの対象になると案内しています。他方、遺産分割審判が係属している場合には、寄与分を定める処分審判の申立てが必要とされています。

8 証拠が弱いと寄与分は通りにくい

寄与分は感情の問題になりやすい一方、裁判所では資料が重視されます。
家庭裁判所は、寄与分や特別受益を主張する人は、その裏付けとなる資料を準備しておくよう案内しています。東京家裁の案内でも、資料の原本持参や、収入関係書類、診断書など、資料提出の実務がかなり意識されています。

したがって、介護なら診断書、介護記録、通院記録、施設利用歴、家業従事なら確定申告書、給与資料、業務記録、金銭支出なら振込記録や領収書など、具体的に何をどれだけ負担したのかを後から示せることが大切です。
これは裁判所が列挙する資料例と、寄与分が最終的に事実認定の問題になることからの自然な帰結です。

9 相続人以外の介護者はどうなるのか

ここは現在の相続実務では外せない補足です。
寄与分は相続人の制度なので、たとえば長男の妻や内縁配偶者のように、相続人ではない人の貢献は、そのまま寄与分には入りません。他方、2019年7月1日以後に開始した相続については、相続人以外の親族が無償で療養看護その他の労務を提供し、被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした場合、相続人に対して特別寄与料を請求できる制度があります。裁判所と法務省はそのように案内しています。

したがって、「親の介護を実際に担っていたのは長男の妻だった」という事案では、
相続人本人の寄与分で整理すべきか、相続人以外の親族による特別寄与料で整理すべきかを分けて考える必要があります。ここを混同すると、主張立てがずれやすいです。

10 まとめ|寄与分は“尽くした”だけではなく“財産に効いたか”でみる

寄与分は、共同相続人のうち、被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者に、法定相続分に上乗せして考慮される制度です。
典型類型は、家業従事、財産上の給付、療養看護、その他の財産管理であり、同居介護や親の看護も、その負担が親族間に通常期待される程度を超え、財産面の維持・増加につながっていれば問題になります。

他方で、単に一番よく面倒を見た、精神的に支えた、というだけでは足りません。
裁判所実務では、特別性と財産への結び付き、そしてそれを裏付ける資料が重視されます。相続人でない親族の貢献は、寄与分ではなく特別寄与料の制度で検討する場面があります。

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