第5講 法定相続分とは何か|法律上はどう分けるのが原則か

第5講

法定相続分とは何か|法律上はどう分けるのが原則か

相続人が誰になるのかが分かっても、それだけでは相続の全体像はまだ見えてきません。次に問題になるのは、それぞれがどの割合で相続するのか、という点です。これがいわゆる法定相続分です。もっとも、ここで最初に押さえておかなければならないのは、法定相続分とは「常にこの割合で分けなければならない」という強制的な最終結論ではない、ということです。法定相続分は、民法が定める原則的な持分であり、遺産分割の話合いがつかないときの基準であると同時に、遺産分割の出発点になる割合です。したがって、相続人全員の合意があれば、必ずしも法定相続分どおりに分ける必要はありませんが、合意が崩れたときにはまずこの割合が基準になります。国税庁も、法定相続分は「相続人の間で遺産分割の合意ができなかったときの遺産の持分」であり、必ずその割合で分割しなければならないわけではないと整理しています。

法定相続分を考える前提として、配偶者は常に相続人になり、これに加えて子、直系尊属、兄弟姉妹が順位に応じて相続人になります。そして、誰が共同相続人になるかによって、配偶者の割合も、それ以外の相続人の割合も変わります。つまり、法定相続分は、誰が相続人かという前段階の整理を受けて初めて決まるものです。配偶者と子なのか、配偶者と親なのか、配偶者と兄弟姉妹なのかで、全体の配分はかなり異なります。

まず最も典型的なのは、配偶者と子が相続人である場合です。この場合、配偶者の相続分は2分の1、子全体の相続分も2分の1です。子が一人なら、その子が2分の1を取得しますし、子が二人であれば、子全体の2分の1をさらに等分することになりますから、各自4分の1ずつになります。三人なら各自6分の1です。ここで重要なのは、「子が何人いても、まず子全体で2分の1」という枠が先に決まり、その中を子同士で分ける、という順序で考えることです。配偶者と子が相続人になる形は、最も基本的である一方、実務では前婚の子や代襲相続人が加わることで頭数が増えやすく、割合計算で混乱しやすい類型でもあります。

次に、配偶者と直系尊属が相続人である場合です。これは、被相続人に子がいないが、父母や祖父母がいるという場面です。この場合、配偶者の相続分は3分の2、直系尊属全体の相続分は3分の1です。父母が二人とも相続人であれば、その3分の1をさらに等分するので、各自6分の1ずつになります。ここでは、子がいない場合でも配偶者が大きな割合を持つこと、しかし親の世代も法定相続人として一定の持分を持つことがポイントになります。配偶者としては「自分が全面的に承継するのが自然だ」と感じやすい場面ですが、法は直系尊属にも相続権を認めています。

さらに、配偶者と兄弟姉妹が相続人である場合、すなわち子も直系尊属もいない場合には、配偶者の相続分は4分の3、兄弟姉妹全体の相続分は4分の1になります。兄弟姉妹が複数いれば、その4分の1を兄弟姉妹の間で分けることになります。この類型では、配偶者の割合はかなり大きくなりますが、それでも兄弟姉妹側の持分が完全に消えるわけではありません。そのため、独身の兄弟姉妹の財産が残った場面や、子のいない夫婦の一方が死亡した場面では、配偶者と被相続人の兄弟姉妹との関係が実務上の争点になることがあります。

他方で、配偶者がいない場合には、配偶者部分を考える必要はありませんから、同順位の相続人が全体を承継することになります。たとえば子だけが相続人であれば、子全員で遺産全部を等分しますし、子がいなければ直系尊属、さらにそれもいなければ兄弟姉妹が、順位に従って相続します。国税庁も、子、直系尊属、兄弟姉妹がそれぞれ二人以上いるときは、原則として均等に分けると整理しています。したがって、法定相続分を考えるときは、まず「配偶者がいるか」、次に「相手方の順位は誰か」、最後に「そのグループの中で何人いるか」という順番で考えると整理しやすくなります。

もっとも、法定相続分は、遺産を現実にどう分けるかとは別問題です。たとえば遺産が預金だけなら、割合に応じて比較的分けやすいかもしれません。しかし、中心が不動産である場合、法定相続分どおりに「割合」は決まっても、現物をどう持つかは別に調整が必要です。自宅不動産を配偶者が取得し、その代わり預金を子が多めに取るとか、売却して代金を分けるとか、代償金を支払って一人が取得するといった処理が必要になります。つまり、法定相続分は「持分割合」の基準ではあっても、直ちに「現実の分け方」を一義的に決めるものではありません。この点を混同すると、「自分は法定相続分4分の1だから家の4分の1を物理的にもらえるはずだ」というような誤解が生じやすくなります。法定相続分はあくまで基準線であり、現実の分割方法は遺産の内容に応じて別途調整されます。国税庁も、法定相続分は合意ができなかったときの持分であり、必ずその割合どおりに分割しなければならないわけではないと明示しています。

実務でよくある混乱は、法定相続分と遺留分、あるいは法定相続分と具体的相続分を混同することです。法定相続分は、民法が定める原則的割合にすぎません。これに対して遺留分は、遺言があっても一定の相続人に最低限保障される取り分の問題であり、また具体的相続分は、特別受益や寄与分などを考慮した後の実質的な取り分を指す場面があります。したがって、相続の相談で「私は法定相続分だけは絶対にもらえるのか」と聞かれた場合でも、そのまま単純に答えられないことがあります。遺言があるのか、特別受益の主張があるのか、寄与分が問題になるのかによって、最終的な帰着は変わり得るからです。もっとも、そのような応用問題に入る前の基礎として、まず法定相続分の骨格を正確に頭に入れておくことは不可欠です。

法定相続分を理解するときのコツは、数字だけ暗記しようとしないことです。むしろ、配偶者は常に入る、そして相手方が子なら2分の1ずつ、親なら配偶者がやや厚く3分の2、兄弟姉妹ならさらに配偶者が厚く4分の3、という流れで覚える方が実務感覚に合います。被相続人との身分関係が遠くなるにつれて、配偶者の割合が大きくなる構造だと理解すると、数字も整理しやすくなります。子がいる場合には子の系統が強く保護され、親の場面では配偶者がより厚く、兄弟姉妹の場面では配偶者がさらに厚くなる、という全体の傾向をつかんでおくと、個別事案での見通しも立てやすくなります。

結局のところ、法定相続分とは、相続人の組み合わせごとに民法が定めた原則的な持分割合です。配偶者と子なら各2分の1、配偶者と直系尊属なら配偶者3分の2・直系尊属3分の1、配偶者と兄弟姉妹なら配偶者4分の3・兄弟姉妹4分の1、そして同順位者が複数いるときは原則としてその中で均等に分ける。この骨格を押さえておけば、その後に代襲相続人が入る場合や、特別受益・寄与分が問題になる場合でも、どこから考え始めるべきかが見えやすくなります。

第6講では、割合の話から少し視点を変えて、そもそも何が相続財産に入るのか、預貯金、不動産、株式、借金などをどう捉えるのかを扱います。相続では「誰が何割か」と同じくらい、「何が遺産なのか」を外さないことが重要です

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