第44講 相続税が問題になるのはどんな場合か|まず押さえるべき基本だけ

第44講

相続税が問題になるのはどんな場合か|まず押さえるべき基本だけ

相続の相談で、まず最初に押さえるべきなのは、相続が起きたからといって、必ず相続税がかかるわけではないということです。国税庁は、相続税は、相続や遺贈で取得した財産などの価額の合計額が基礎控除額を超える場合に、その超える部分に対して課税されると説明しています。そして、その基礎控除額は、3,000万円+600万円×法定相続人の数で計算されます。したがって、まずは「遺産総額が大きいか小さいか」ではなく、「課税価格の合計額がこの基礎控除を超えそうか」を見るのが出発点です。

ここでいう課税価格の合計額は、単に預金と不動産の合計ではありません。国税庁は、相続税の対象として、相続や遺贈で取得した財産に加え、一定期間内の贈与財産の加算や、死亡保険金・死亡退職金のようなみなし相続財産も問題になるとしています。死亡保険金や死亡退職金は、民事上は遺産分割の対象外になることがありますが、税務では相続税の課税対象に入ってきます。したがって、「遺産分割の対象ではないから税金にも関係ない」と考えるのは危険です。

他方で、相続税は、財産の総額をそのまま課税する仕組みでもありません。国税庁は、課税価格の計算では、被相続人の債務などを控除したうえで、課税価格の合計額を出すと説明しています。つまり、相続税を意識すべきかどうかを見るときは、預金や不動産の積み上げだけでなく、借入金、未払金などの負債も合わせて見なければなりません。相続では「いくら残っているか」と同じくらい、「いくら引けるか」も大事です。

また、基礎控除以下なら原則として申告不要ですが、そこにも落とし穴があります。国税庁の申告の手引は、小規模宅地等の特例などを使った結果、課税価格の合計額が基礎控除以下になる場合には、申告が必要だと明示しています。さらに、配偶者の税額軽減によって納付税額がゼロになる場合でも、申告書の提出は必要です。したがって、「最終的に税金がゼロなら申告もいらない」とは限らず、特例を使う相続では、むしろ申告が必要になることがあります。

期限も重要です。国税庁は、相続税の申告と納税の期限を、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内としています。通常は死亡日の翌日から10か月です。提出先は、相続人の住所地ではなく、被相続人の死亡時の住所地を所轄する税務署です。相続税は「あとで税理士にまとめて聞こう」と思っているうちに期限が来やすいので、少なくとも10か月という時計だけは最初に意識しておくべきです。

結局のところ、相続税をまず気にすべき場面は、遺産やみなし相続財産を合計すると基礎控除を超えそうなとき、あるいは配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を使う見込みがあるときです。逆に、明らかに基礎控除以下で、特例も使わないなら、税務の比重は下がります。相続税の実務は細かく入ると重いですが、入口としては、基礎控除、課税対象、10か月期限、特例を使うなら申告要否に注意――この四つを押さえるだけで、かなり見通しがよくなります。

第45講では、生命保険と相続の関係|受取人指定があるとき何が違うのかを扱います。生命保険は、民事では遺産と違う顔をし、税務では相続財産に近い顔をする、相続実務らしい論点です。

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